SENSHU RUGBY 2018 ~ 法政戦、29シーズンぶりの勝利、「上柚木の歓喜」が生まれた理由
2012年に就任した村田監督が当初に掲げた目標は、2年で1部昇格、5年以内に優勝争いをして、ラグビー部創部90周年とワールドカップ日本大会が重なる2019年にリーグ戦で優勝するという7年計画だった。
当初、この計画は順調だった。1部昇格は予定より1年遅れたが2014年の入替戦で日大に勝って1部昇格。
迎えた2015年シーズン、大東、流経に連敗した後の10月4日、久しぶりの秩父宮ラグビー場でのゲームの相手は法政だった。この試合は先制しながら、しかし結果は12-13の惜敗に終わる。
結局、このシーズンは山梨学院に勝利したものの東海、中央、拓殖にも負けて7位。入替戦でも関東学院に負けてしまい、1年で2部に舞い戻ってしまった。
2016年は1シーズンでの1部復帰を目指したものの2部3位となり入替戦にも出場できず、ここで村田監督の予定は大きく狂う。
この間を振り返ると、最大の誤算は2015年の法政戦だった。
おそらく村田監督も大東戦、流経戦、東海戦の負けは覚悟していただろう。が、その他の大学から勝ちを拾って入替戦なしの1部残留が頭にあったはずで、そのためにも法政に勝って勢いをつけたいと思っていたことは間違いない(まして当時の法政の監督は東福岡高校時代の恩師だった谷崎重幸氏だった)。それだけに悔しい敗戦だった。
あれから3年。再び1部の舞台で法政と相まみえる機会がやってきた。
専修はここまで1敗(大東)。法政は1勝(中央)。
今季から留学生は一度に3人がピッチに立てることになったが、そもそも留学生がいないのは法政、中央、専修の3校のみ。お互いにどうしても勝っておかなければならない相手であるが、専修には3年前の悔しい思いもある。
しかも−−。対法政戦は1989年、つまり村田監督がキャプテンをつとめた時以来、28シーズンにわたって勝利がない。
法政にとっては単に毎年訪れるシーズンの単なる1試合、それも格下と思しき相手との対戦という以上の意識はなかったろうが、専修にとっては今度こそ1部残留をし、さらにチーム力を上げていくために、そして過去のいろいろなしがらみを断ち切るためにも重要な一戦であり、モチベーションの高まる要素は法政よりはるかに多かった(これはスタンドで応援するサポーターの意気込みも同じだった)。
試合前、村田監督は選手たちに、法政には28年間、勝っていないことを伝えた上で「絶対に勝利しよう」と言って送り出したという。
試合は専修のキックオフで始まった。ボールをキャッチした法政はタッチへ蹴り出そうとしたが、いきなり夏井勇大がチャージ。前へ出ていく姿勢を見せる。
前半5分、連続攻撃から郡司のオフロードパスを受けた殿元が縦に突進、素早く右へ出すと石原のパスをクロスして入ってきた檜山が受けてトライ(7-0)。
11分、自陣内での反則から22Mラインの内側に入ったところで法政ボールのラインアウト。モールディフェンスに難がある専修にとっては厳しい位置だったが、そのモールを組ませないことに成功するとラックをターンオーバー。ゴール前からオープンサイドへ展開、郡司が相手ディフェンスの間をゴロパントで通すと、夏井大樹がこれを拾い、相手の両ウイングを振り切る走りで一気にトライ。上々の滑り出しを見せる(14-0)。
しかし直後の15分、自陣での相手ボールラインアウトからバックスに展開されると緩いディフェンスを法政6番に簡単に破られ大きくゲインされ、トライに結び付けられる(14-5)。
専修は接点では坂本を筆頭に激しく当たりターンオーバーをしばしば見せるが、スクラムは劣勢(ただしボールはきちんと出していた)という状況のなか、しばらく膠着した展開が続くが32分にトライを許して14-12 。
前半はこのまま終了したいところだったが、ロスタイムに入る寸前、フリーキック後の法政ボールラインアウトで一瞬緩んだディフェンスを再び突破されて逆転される(14-19)。
実はこれと同じシーンは大東戦でもあり、この時にはハイパントを選択して失点。そこで今回はタッチキックを選んだが、それでも同じく失点しまった。今後の課題としてこの点は残る。
後半、最初にトライを取りたかったが42分に失点し正念場の時間帯がやって来る(14-26)。ここで点差をさらに広げられるとゲームの流れは法政へと勢いを増すが、取り返せば勝敗の行方はまったくわからなくなる。
47分、法政が自陣でペナルティ。10Mのやや内側だったが専修はPGを選択。決まれば7点差となりワンチャンスで追いつくことが可能になる。檜山のキックは外れはしたが、ゲームの流れを読んだ冷静なチャレンジだった。
51分、栗山→森重、石川→志賀の選手交代。自陣内でのスクラムから郡司が敵陣へ大きくタッチで蹴り出そうとするが、これがダイレクトタッチとなる。するとこのボールを手にした法政の選手が専修陣内に深く入ったところまで走ってスローイン。が、これを読み切った山極がインターセプトのビッグプレイ。これを再び郡司が深く蹴り込む。54分、このキックの後のマイボールラインアウトからの連続攻撃で入ったばかりの志賀を筆頭にFWが縦に突進すると、最後は坂本が力づくでゴールポスト脇にトライをねじ込む(21-26)。
60分、法政の連続攻撃に耐えられずに失点(21-33)。
専修はここで酒井を下げて攻撃のジョーカーと言える片岡を投入。それとともに郡司(CTB)と石原(SO)のポジションをチェンジ。勝負に出る。
実は筆者はこの選手交代をもっと早くした方がいいのではないかと思いながら観戦していた。「やや遅い」と。が、法政の運動量がこの時間帯からガクンと落ち始める。つまり完璧なタイミングでの交代だった。
63分、法政陣のマイボールラインアウトから志賀が突進、インゴールに入ったかに見えたがグランディングできずにマイボールのスクラム。法政の選手が傷み始める。もはやスクラムが押されることはまったくなく、法政ゴール前の攻防からまたしても坂本がゴールポスト脇の同じ位置にボールを叩きつけてトライ(28-33)。
交代した志賀、森重の動きが抜群にいい一方、疲れの見える法政は選手交代が少ない。法政のアタックは専修のディフェンスラインがしっかり受け止めるが、法政はたびたびブレイクされ、戻りながら守らなければならず、その分、消耗度も激しいように見えた。
74分、法政陣10Mの内側からの専修ボールラインアウト。しっかりキャッチしたボールが山極から片岡に渡ると、片岡はラインアウトの端をすり抜けてそのまま走りきりトライ。ついに同点となる(33-33)。
専修としては狙い通りの形での得点だが、素人の私見では法政はこの片岡をはじめ志賀、森重などリザーブ選手のスカウティングまでは行っていなかったのではないか。山極、郡司はもちろんケアしていたが、後半に片岡−郡司のHB団にチェンジして仕掛けてくることも頭に入っていたかどうか……微妙なところのように思える。
同点となり残り4分。法政の試合再開のキックは10Mに届かなかったが、キャッチにいった山極がノックオンをして法政ボールのスクラム。ここから3分弱、20フェーズ以上にわたって法政のアタックを受けたが、ディフェンスラインはまったく乱れずにきっちり止め続けた結果、法政はまったくゲインできずに最後はペナルティを犯す。
ランニングタイムでは80分を過ぎていたが残り2分。法政陣に入ってのラインアウト。最後のチャンス到来!と思いきや……片岡が痛恨のノックオン。
「これで終わったか……」と思ったが、まだ時間は残っていた。
法政ボールのスクラムをプッシュすると宮本がスッと足を出してボールを取る。すぐさまスクラムサイドを志賀が突破、フォワードバックス一体となったアタックで法政ゴールへと近づいていく。が、郡司の夏井大樹へのパスが乱れてボールが後方へ転がってしまう。しかしこのボールを夏井勇大がセービングして死守。ラックから志賀が前へ出た後、片岡→夏井大樹→夏井勇大とつなぐ。この時、ディフェンスへ行かなければならない法政のウイングは足をつらせて芝生に横たわっていた。夏井勇大がその脇をすり抜けてタッチライン際を疾走、ディフェンスをかわしてゴールへ駆け込み逆転のトライ! 29年ぶりの法政戦勝利が決まった瞬間だった。
法政サポーターや一般のラグビーファンからすれば大番狂わせに見えただろう結末。
しかし、筆者は試合前から勝てると思っていた。
その最大の理由は「村田監督は勝つためにあらゆる手を尽くしている」という確信があったからだ。
誤解を恐れずに言えば、このゲームにおける専修と法政の最大の差は監督力にあったと思う。
村田監督のfacebookやブログ、あるいは実際にグラウンドでお目かかった際や講演を聴いた時にいつも感心してしまうのは、全精力を傾けてラグビー部を強くしようという情熱だ。これはもう傍から見ていても頭が下がる。
しかも御本人が超一流のアスリートだっただけに、日々のトレーニングからメンタル、戦術面にいたるまで、微に入り細に入り、勝つためにどうするか、勝てる組織にするためにはどうすべきかを知っており、それをすべての選手にまんべんなく全力注入している。
言葉と行動だけで選手を一つの方向に持っていくことができる高い人間性と指導力。
これだけ力量のある監督は大学スポーツのすべてを見渡してもそうはいないだろう。
法政戦後の監督のブログによれば、法政にも東福岡の後輩たちはたくさんおり、彼らはみんな高校日本代表クラス。一方、専修に入ってくるのは1・
5本目クラスだという。
長きにわたって低迷しただけに、戦力的な面では1部校に劣るのは事実だ。が、それを類い稀な指導力で補っている。
どんなに素質のある選手、元高校日本代表だろうと、走れなくなったら怖くはない。高校時代の試合時間は60分だが大学以降は80分。このプラス20分のフィットネスとその優位性を活かした戦術をものにすることができれば、見た目は弱者でも勝利を手にすることができる。法政戦はそういうゲームだった。
もう一つ言えるのは、今季は1部再復帰の1年目だが、実は昨年のチームも十分に1部仕様だったこと。おそらく昨年のチームで1部を戦っても相当なところまでいくことができただろう(この点については監督も入替戦後に「このチームで1部を戦いたかった」とコメントしている)。
そういうベースがあった上での今シーズンなわけで、チーム力は着々と上がっている。これまではそれが水面下に隠れて見えなかっただけのことだった。
次の相手は流経大。1990年代、専修の低迷と入れ替わるように浮上してきたこのチームは強力な留学生を擁しており、手強い相手であることは事実。しかも専修は一度も勝利したことがない。
が、それだけに村田監督としても法政戦に続いて期するものがあるだろう。指導者になった超一流アスリートの手腕を法政戦で見せつけられただけに、次戦も期待せずにはいられない。
【関東大学リーグ戦 1部 第3節 vs流通経済大学】
10月8日(月) 11:30KO(上柚木陸上競技場)
1. 石田 楽人
2.宮本 詩音
3.栗山 塁
4.山極 大貴
5.殿元 政仁
6.坂本 洋道
7.佐藤 匠
8.石川 恵韻
9.酒井 亮輔
10.石原 武
11. 夏井 勇大
12.郡司 健吾
13.夏井 大樹
14.水野 景介
15.松浦 祐太(C)
16.網谷 龍太
17.原 健将
18.森重 慶司
19.小野 悠太
20.志賀 亮太
21.片岡 領
22.光吉 謙太郎
23.檜山 成希
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