押花
「ピンポン」
なにか頼んだっけ、と思いながらモニターホンを覗くと、死神が立っていた。
昨日の夜に衝動的にポチったことを思い出した。
これだから深夜のネットショッピングは良くない。
ドアを開けて謝った。
「すみません、やっぱりキャンセルで」
「そうですか。わかりました」
死神は革張りの立派なノートに何かを書いた。
「何書いてるんですか?」と聞くと、死神はノートを見せてくれた。
見せて良いんだ……と内心思いつつ見ると、文字のようなものは書いてあるが、どうしても焦点が一つに結ばれず、読むことができなかった。
死神にノートを返した。暑い中わざわざ来てもらったのが申し訳なくて、キッチンに置いてあるビールの空き瓶に挿した花をあげた。近くの道で摘んだ花だけど。
死神は「きれいですね」と言ってノートに挟んだ。
「キャンセル料は無料ですので、お気遣いなく。夜更かしは楽しいですけど、ほどほどにね」と言って帰った。
また近くの道で花を摘んで帰ろう、と思いながら二度寝した。
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