はなかっぱ創作小説・第2話「はなかっぱと仲間たち」

★前回までのあらすじ
 緑いっぱいの村に住まうかっぱ族の少年・はなかっぱは、はなかっぱ族の成人の儀として、大人の花を決めなければならない。その為に、日夜冒険家の祖父であるはす次郎と「開花術」の修行に励んでいた。
 ですが、はなかっぱは小学生なので、当然子供としての生活も有る。今回はそんな彼の生活を少し覗いてみよう。

 朝の修行を終えたはなかっぱとはす次郎は、朝食の為に家路を急いでいた。はなかっぱはもう、お腹を鳴らしながら道を駆けていた。
はなかっぱ
「あ~、今日の朝御飯は何だろうな~、やっぱり豆料理が良いなあ~。期待するだけで涎が止まらないよ。」
はす次郎
「はっはっは、お前は相変わらず食べる事には目ざといのぅ。まあ、実はかくいう儂も人のことは言えんがな。ポポちゃんの手料理は美味しいからのう。」
 ポポちゃんとは、はなかっぱの母親・ポッポリーヌのあだ名である。彼女は頭にタンポポが生えており、季節が来ると綿毛を飛ばしてタンポポ畑を作る役割を持つ。怒る時こそ怖いものの、普段は明るく優しい性格であり、料理が得意なのだ。故に、はなかっぱの家の男性陣は彼女の手料理を毎日楽しみにしている。

 はなかっぱ達が家に辿り着くと、ポッポリーヌがドアを開けて優しく出迎えてくれた。
ポッポリーヌ
「お帰りなさい、はなかっぱ、おじいちゃん。朝御飯ならもう出来ているわよ。」
はなかっぱ
「ホント!?うわーい!!」
はす次郎
「ポポちゃん、ありがとう。それじゃあ、手を洗って頂くとしようか。」
 はなかっぱ達は手洗いうがいを済ませ、食卓についた。食卓には、既に父のひまごろうと、祖母のかすみが先に座っていた。
 ひまごろうは、頭にヒマワリの花が咲いた体格の良いはなかっぱの父親だ。普段は皆の食卓の野菜を育てている。そして、かすみは頭にカスミソウを咲かせたはなかっぱの祖母であり、天気予報の仕事を行っている。
かすみ
「おや、はなかっぱ、お帰りなさい。」
ひまごろう
「おう、はなかっぱ、帰ったか。」
はなかっぱ
「うん!ただいま、おばあちゃん、お父さん!」
ひまごろう
「今日の修行の出来はどうだったか?」
はなかっぱ
「今日はおじいちゃんに開花の技術が成長しているって褒められたんだー。でも、おじいちゃんとの勝負に負けて悔しかったけどね…。」
ひまごろう
「まあ、そんなに焦ることはないさ。少しずつ立派なカッパになれば良いからな。」
はなかっぱ
「分かったよ、お父さん。」
はす次郎
「うむ。」
かすみ
「うふふふふ…」
家族と一頻り談笑したはなかっぱは、母に今日の朝食の献立を尋ねた。
はなかっぱ
「お母さん。今日の朝御飯は何ー?」
ポッポリーヌ
「今日は豆ご飯と煮豆、スクランブルエッグ、ミニトマト、味噌汁よ。いっぱい食べなさい?」
はなかっぱ
「ありがとう!それじゃあ、いただきまーす!!」
家族全員
「いただきまーす!!!!!」
 はなかっぱは感謝の挨拶を済ませると、豆ご飯と煮豆を勢い良く食べ、他のおかずも次々と食べ進めていく。
はなかっぱ
「あーむ。うん、豆ご飯に煮豆にどれも美味しいや!!」
はす次郎
「おいおい、よーく味わって食わんと、消化に悪いぞ?」
はなかっぱ
「はーい!あむあむ…」
はす次郎
「(分かっているのかのー、はなかっぱの奴…)」

 こうしてはなかっぱは朝食を終えると、新しいパンツに履き替え、身だしなみを整え、満杯のリュックサックを持って家を飛び出した。これから小学校に向かう時間だ。
はなかっぱ
「いってきまーす!!」
ポッポリーヌ
「いってらっしゃい、はなかっぱ。」
はす次郎
「気を付けていくんじゃぞー!」
はなかっぱ
「は~い!!ははんはんは~ん……」
 はなかっぱは鼻歌を歌いながら、小道を駆け抜けていった。その途中で洗濯をしていたかすみと、畑仕事をしていたひまごろうとも出会い、彼らへの挨拶も忘れずに行った。
はなかっぱ
「おばあちゃん、お父さん、いってきま~す!!」
かすみ
「あら、いってらっしゃい。」
ひまごろう
「頑張ってこいよー!」
 家族全員への挨拶を済ませたはなかっぱが通学路を駆け抜けていると、後ろからやんちゃな少年の声がした。
???
「よう、はなかっぱ!」
はなかっぱ
「あ、カラバッチョ!!」
 はなかっぱが振り向くと、青い羽毛のカラスの少年が空を飛んで付いてきていた。名前はカラバッチョというらしい。そして、少年は生意気そうに言葉を続けた。
カラバッチョ
「お前、今日は家を出るのが早いな!何時もなら『遅刻だ遅刻だ~!!』とか言いながら焦って走っているのによー(笑)。」
はなかっぱ
「へへん、僕だってやるときはやる男なのさ(ドヤッ)。」
カラバッチョ
「でも、俺は生憎空を飛べるからな。それじゃ、先に行かせてもらうぜ?あばよ!!(ギューン!!)」
カラバッチョはそう言いながら、あっという間にはなかっぱを追い越して学校に向かってしまった。
はなかっぱ
「いいなあ…カラバッチョって空を飛べて……っと、見とれている場合じゃない、学校へ急ごう。」
こうして、はなかっぱは学校へと急いだ。

──学校
 はなかっぱの学校は、『山彦学園』という学校だ。切り株の椅子と机で青空授業を行うという、開放的で伸び伸びとしたスタイルが特色である。
 はなかっぱが木のアーチの校門を潜ると、友達が出迎えてきてくれた。先ずはカラバッチョが「はなかっぱ、遅いぞ~!」と意地悪そうにからかってきたので、「何をー!?」と少しムカついた様子で言い返した。そして、また別の友達の一人がはなかっぱに声を掛けてきた。
???
「おはよう、はなかっぱ君♪」
はなかっぱ
「あ、ももかっぱちゃんだ!おはよー!」
 はなかっぱが振り向いた方向には、ももかっぱと呼ばれている少女が居た。彼女は赤いワンピースが目を引く、はなかっぱと同じはなかっぱ族の少女であり、やまびこ村ではその可愛らしさからアイドル扱いされている。そして、はなかっぱは彼女の事を密かに想っているのだ。
ももかっぱ
「はなかっぱ君、今日は学校に来るのが早いのね。」
はなかっぱ
「まあ、ね…僕もやれば出来るんだよね~。」
 はなかっぱは意中の相手に話し掛けられたのか、少し得意げになって言葉を返した。
ももかっぱ
「ウフフ、ちょっぴり見直しちゃったわ。」
はなかっぱ
「エヘヘ…」
そして、ももかっぱに続いて他の生徒達も挨拶をしに来た。
???
「あ、はなかっぱや!はなかっぱが来たでー!」
???
「はなかっぱ君がこの時間に居るなんて照れますね~♥」
???
「おや、その声ははなかっぱ君ですね。今日は珍しく遅刻ギリギリではなかった様ですね。」
はなかっぱ
「あ、コケヤン、てれてれぼうず、つねなり、みんなお早うー。」
彼らも又はなかっぱの友達である。関西弁で少し臆病なニワトリ族・コケヤン、何時も何かに照れているてるてる坊主?のてれてれぼうず、博識で表彰状を沢山手に入れたキツネ族・つねなりだ。
 彼らへの挨拶も済ませたはなかっぱは、他のクラスメートにも順番に朝の挨拶を交わしていった。
はなかっぱ
「おはよう、やまのふじ。」
やまのふじ
「あ、はなかっぱ、お早うでごわす。」
はなかっぱ
「お早う、ベーヤ、みろりん。」
ベーヤ
「あら、はなかっぱ君、今日は早いのね、ベー。」
みろりん
「お早う、今日も芸術が捗りそうな日ね~。」
 やまのふじは力持ちで気の優しい大工の息子であるウシ族。ベーヤは少しニヒルな医者の娘のクマ族。そして、みろりんは何時も芸術を追い求めているウサギ族の少女だ。

 こうして、友達全員への挨拶を終えたはなかっぱが席に着くと、直様チャイムが鳴った。そして、一人の女性が教卓に向かって歩いてきた。はなかっぱ達の担任の先生、佐藤先生だ。
佐藤先生
「はい、皆さん。お早う御座います。」
はなかっぱ達
「お早う御座います、佐藤先生!!」
佐藤先生
「はい、お早う御座います。今日の出席は…全員居ますね。それでは、1時間目の算数を始めます!」
はなかっぱ達
「はい!」
 こうして、1時間目の算数が始まった。
佐藤先生
「今日は、前回に引き続き整数と小数について学びます。それでは、教科書の20ページ目を開いて下さい。」
はなかっぱ達が教科書のページを開く。
佐藤先生
「さて、今日初めの問題は、『0.5+1+2.6-3』です。この問題が分かった人は手を挙げて下さいね。」
この問題は、小学5年生にとってはちょっぴり複雑だ。故に、勉強が少し苦手なはなかっぱは元より、他の生徒も少し悩んだ顔をしている。
 そんな中、つねなりだけは涼しい顔で手を挙げた。
つねなり
「はい。この問題の答えは1.1です。」
佐藤先生
「つねなり君、正解です。まる!」
はなかっぱ
「(出た、つねなりの暗算…!!)」
 つねなりは学校内外問わず、頭が良い事で有名なのだ。
2時間目 美術
佐藤先生
「今日は好きな果物を書いてみて下さい。」
はなかっぱ
「(僕は…本当は豆が好きだけど、今日は果物だから、バナナでも描くか。しょっちゅう頭に咲いちゃうし…。)」
はなかっぱはクレヨンでバナナを描いた。
 ももかっぱは、鼻唄を歌いながらイチゴを描いていた。
ももかっぱ
「イチゴさ~ん、イチゴさ~ん♥」
はなかっぱ
「(ももかっぱちゃん、相変わらずイチゴが好きなんだな…。)」
 そして、みろりんは優れた芸術家の卵で有った為、リンゴ、バナナ、ブドウ、ミカン、そしてスイカと、どんどんリアルな果物を描いてしまっている。
みろりん
「フフフフフ…さあ、次はランブータンよ!!」
はなかっぱ
「(みろりんは絵を描くのが凄く速いな~…しかも上手だ。でもランブータンって何??)」
はなかっぱは疑問を胸にしまった。

──3・4時間目 体育
 3時間目の体育は、佐藤先生は席を外して職員室に戻った。そして、今度は教卓に筋骨隆々の犬の先生・田中先生が現れた。彼は体育教師だ。そして、何時も熱い心で生徒達を熱血指導する。
田中先生
「ほっほっほ~!!お前ら、今日も元気かー!!」
はなかっぱ達
「はい、元気でーす!!」
田中先生
「うむ、元気が有って宜しい!! 
…それじゃあ、今日の体育だが、モリモリの森を抜けて、カキゴオリ山までのジョギングを行う!!」
はなかっぱ
「(えーー…!? そんなの遠すぎるよ!!)」
 カキゴオリ山は学校から徒歩で一時間近く掛かる。そんな距離を生徒達に走らせてしまうのは体育教師の性なのであろうが、小学生の彼らにとっては迷惑極まりない。
田中先生
「但し、無理して走る事は無いぞ?自分のペースで走れば良い。さあ、準備が出来た奴から校門前に集合だー!!ほっほっほ~!!」
但し、『自分のペースで走れば良い』という言葉は生徒達には全く救いになっていないのだが。

──山彦学園・校門前
 山彦学園の校門前には、はなかっぱ達クラスメイトが集合していた。運動上手なやまのふじやももかっぱは兎も角、他の生徒は少しばかり冷や汗を流していた。
田中先生
「よーし、全員揃ったな!それじゃあ、俺は先にカキゴオリ山で待っているぞ!?それじゃあ、よーい…ドン!!」
 田中先生は合図を切った瞬間、チーターの如く走り出し、あっと言う間に姿が見えなくなってしまった
コケヤン
「いやいやいや…あんなの追い付ける訳あらへん!!ホンマ意地悪すぎるで!!」
ベーヤ
「た…田中先生は相変わらず速すぎるわ、ベ~…」
やまのふじ
「これは流石のおいらにも追い付けないでごわす…。」
田中先生のスピードに圧倒されながらも、生徒達は走り始めた。
 そして、モリモリの森を抜けた段階では、みろりん、てれてれぼうず、コケヤン達がバテテいた…。
みろりん
「あ゛~…もう先の事を考えると、ホントにバテテしまうわ~…」
てれてれぼうず
「田中先生、厳し過ぎて照れません…。」
コケヤン
「こんなん拷問やん…。」
しかし、カラバッチョは少し息を切らしながらも、ずるい事を考えていた。
カラバッチョ
「そうだ、はなかっぱ…田中先生は今の俺達の様子は見えないんだからさ…何も走らずに空を飛んで行けばいいんじゃないか?それで一応バレない様に終盤から少し走るけどな!どうだ、はなかっぱ?お前も何か咲かせて空を飛んでみろよ。」
 しかし、はなかっぱはこの悪巧みには乗らなかった。
はなかっぱ
「駄目だよカラバッチョ…一応授業なんだよ?それにそもそも空を飛ぶ花なんか…タンポポの綿毛なら咲かせられない事は無いけど。」
余談ではあるが、はなかっぱ族は頭に綿毛のタンポポを咲かせると、綿毛が無くなるまで空を飛べるのだ。
カラバッチョ
「なんだ、連れない奴。それじゃあ、俺は先に行くぜ?とぅッ!!」
カラバッチョはそう言うと、空中へと飛んで行ってしまった。
はなかっぱ
「…田中先生に見つかったらどうするんだろ。ま、僕には関係ないか。はんはんは~ん……」
 はなかっぱは溜息交じりにそう言うと、再び山へ向かって走っていった。はなかっぱは暫く走っていたものの、はす次郎との鍛錬の成果か、他の生徒よりも息を切らしていなかった。
 そしてはなかっぱが走っていると、道中でももかっぱと出会った。
はなかっぱ
「あ、ももかっぱちゃん…よくこんな鬼みたいな授業を熟せるね…。」
 すると、ももかっぱちゃんは含み笑いを浮かべてこう言った。
ももかっぱ
「あら、私って案外運動も出来ちゃうみたいね。ウフフフフ…❤」
はなかっぱ
「(少しあざとい…でもそれが良い!!)」
はなかっぱは彼女の可愛さに見惚れ、更にスピードアップした。

 そして、全員がカキゴオリ山に着いたのは、4時間目に入った暫く後であった。
田中先生
「よーし、全員揃ったみたいだな!!」
生徒達
「はーはー…」「」
田中先生
「しかし、今日は無茶な課題を出してすまんな。お前らはよく頑張った!
但し、カラバッチョ!…お前は空を飛んでいただろう…?」
カラバッチョ
「(ギクッ!!)な…何でバレたんですか!?」
田中先生
「山の上から見ていたからな。先生の視力を舐めるんじゃないぞ~?お前は後でお説教だ(ゴゴゴ」
 カラバッチョの青い顔が更に青みを増す。
カラバッチョ
「ヒイイイイ…」
田中先生
「なんてな、冗談だ。今回の課題は少々ハードだったからな…スマン!!」
カラバッチョ
「ほっ…」
はなかっぱ
「(少々って一体…!?)」
田中先生
「それじゃあ、帰りは…先生が全員おんぶしていってやろう!」

「えー、本当ですか!?無理しないで下さい、先生!!」
田中先生
「何、男に二言は無い!!それじゃあ、行くぞー!!」
田中先生はそう言うと、あっと言う間に生徒達を全員おんぶして、学校まで駆け抜けて行ったのであった…。
 その到着時間──実に20分。

──山彦学園教室
 その後、お豆たっぷりのお弁当を食べたはなかっぱは、4時間授業でみんなと遊べてラッキーを感じるも、その後明日に国語のテストが有った事を思い出し、皆と遊べない事に絶望しながら家路に着くのであった。

 そして、はなかっぱの学校生活を見ていた怪しい影が一つ…青ずくめの蚊みたいな少年──黒羽根屋一味のルーキー・がりぞーが、密かにはなかっぱの様子を見ていたのであった。
がりぞー
「カッカッカ…はなかっぱの力を予習しておくってカー…!」

★日常を脅かす影一つ…

次回に続く

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