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「光る君へ」について②

以前、「光る君へ」についての記事に、<世の中には「珍説」があるみたいで、紫式部と藤原道長は愛人関係であっただけでなく、紫式部の娘である大弐三位の本当の父親は、藤原道長であったというようなことを言う人までいるらしい。>と書いた。

これは、5月中旬に書いたものだが、まさかこの「珍説」に沿って、今回の大河ドラマが展開されることになろうとは、この時点では思ってもいなかったので、今日の放映を見て、正直なところ、すっかり驚かされてしまった。

ドラマでは、紫式部(まひろ)の娘の父親は、藤原道長であり、夫である藤原宣孝も、そのことを承知しているということになっていた。劇中で、宣孝も言っていたが、まひろのお陰で、宣孝も道長から重用されるようになったし、この上、さらに子どもまで生まれたら、ますます福を呼び込んでくれるだろうと。

さすがに宣孝は聡明な人物であり、まひろの夫になったことのメリットをよく理解しているのであろう。

権力者の「お古」を拝領する話は、他にも例がある。

徳川第5代将軍である綱吉の寵臣、柳沢吉保の側室の染子は、綱吉の元愛妾で、吉保との間に生まれた嫡男、吉里は綱吉の隠し子であるという説がある。もちろん何の証拠もない俗説に過ぎないが、主君と家臣が「穴兄弟」で、家臣の子の実父が主君であるという図式は、道長 - まひろ - 宣孝のケースと同じである。綱吉からすれば、吉保をどれだけ出世させたところで、自分の実子がその後を継ぐのだと思えば、ちっとも惜しくはない。実際、小身から身を起こした吉保は大名になり、吉保の後を𠮷里が継いだ柳沢家は、川越藩から甲府藩、郡山藩と所領は変わったものの、明治維新まで連綿と存続することになる。

司馬遼太郎の『国盗り物語』の受け売りであるが、斎藤道三の側室、深芳野は、道三の主君である土岐頼芸の元愛妾であり、道三が深芳野を拝領する前から土岐頼芸の子を懐妊していたのだという。で、深芳野が生み落としたのが、後に道三を討ち滅ぼすことになる斎藤義龍というオチまでつく。こちらも真偽のほどは不明である。

ここまで書いて、漫画の島耕作シリーズでも似たような話があったのを思い出した。初芝電産の創始者、吉原初太郎は、自身の性的能力が衰えた後、愛人の大町愛子を、腹心の部下である木野穣に下げ渡すとともに、愛子との間の娘である久美子の後見役を木野に委ねている。

女性をモノ扱いするのは、昨今のご時世の価値観には相反すると思うが、女性というものが一種の財物のように交換・贈与の対象とされて、女性を介して家族・親族が構成され、やがて社会が形成されていったのは事実である。クロード・レヴィ=ストロースの「交叉いとこ婚」に関する研究なども、そうした文脈で理解することができるが、同じ女性を共有するというのは、もっと直接的な行為であり、男同士の固い絆の証なのであろう。同じ盃を交わす以上に生々しい。

いずれにせよ、紫式部の娘(賢子、後の大弐三位)はこの先、思いがけない大出世を遂げていくことになるのだが、大河ドラマにおいても、「道長の隠し子だから」ということが、彼女の栄達の説明材料になっていくのだろうか。

気になるのは、道長の正妻である源倫子や、道長の娘である中宮彰子は、そうした裏事情をいつ頃、どのような形で知ることになるかである。源倫子にとっては、紫式部の娘(賢子)は、非公認の愛人に自分の夫が生ませた子であるし、中宮彰子にとっては、父親の隠し子であり、腹違いの妹ということになる。

今とは婚姻や男女関係に関する倫理観もまるで異なる時代の話であるが、彼女らにとっては、あまり愉快な話だとも思えぬ。そういう点でも、今後のドラマの展開が楽しみになって来た。

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