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人妻ひとり酒場放浪記 1軒目 【サイゼリア編】

退職してからというもの、すっかり曜日感覚もなくなりヤンマガの発売で月曜日を知るようになった。日中はとてつもなく暇である。

週6で働き続けた会社員の10年間と今の生活では何もかもすっかり変わってしまった。もうまもなく有給期間が終わるが、そうしたら収入もなくなる。

しかし私の中で変えようのない感覚がある。

酒が飲みたい。
できれば、できるだけ安く。

いいやでも、昼間からなんて。
しかも私は無職じゃないか、いや、まだ有給だから給料は出ているけれども。ダメだダメだ、コメダ珈琲にしよう。
珈琲を飲みながら読書をして本の世界に没頭しよう。煩悩を忘れるのだ。

30分後、私は気付いたら一人、サイゼリアで酒を飲んでいた。
サイゼリアは安くておいしいから好きだ。
しかも平日の昼間は結構空いていると来た。

その日もふらっと一人でテーブルに着き、極力お金を使わないように、注文するメニューは3品とした。居心地が良すぎて長居してしまうのを防ぐためでもある。

注文したのは赤ワインの小さい方のデキャンタ、アテはイタリア風もつ煮とキャベツのアンチョビのソテー。

イタリア風もつ煮は初めて見るメニューだった。
トリッパというハチノスを煮込んだメニューがイタリア料理にあるが、それに似ている。こちらのメニューで使われているのはこてっちゃんみたいなモツだが。
ちなみになぜ私がトリッパを知っているかというと、学生時代にバイト先で出会った田中さんという年齢詐称して働いていた実年齢不明のお姉さんが作ってくれたのだった。田中さんは色んなお酒や音楽や料理を教えてくれたがとにかくハチャメチャな女性だった。

そんなことを思い出しながらもつ煮をすする。
少し酸味が効いていて、まろやかなトマト味といったところか。
ごてごてぶりぶりのモツじゃないところがサイゼリアのサラッとした赤ワインに合う気がした。

次はキャベツとアンチョビのソテー。
やわらかいキャベツにアンチョビの塩気がグッと効いていて以前から好きなメニューだ。塩気だけでなくしっかりお魚の味がするのも良い。

どちらもそれなりに小皿であるため空腹に任せてパクパクつまんでいたらあっという間に完食してしまった。そりゃそうだ。

まだ赤ワインが少し残っていて、今日はペース配分を間違ったようだなと反省したその瞬間、隣のテーブルに大量の料理が到着し、私の方に向かって一気に良い匂いがなだれ込む。

――――これは、匂いで飲める!!

直感でそう思ってしまった。

隣のカップルに感謝しながら最後の数口を飲み干し、さあ夕飯の買い物をしなくてはと会計を済ます。

今日はおでんが良いって言ってたな。
そんなことを考えながら小走りでスーパーへ向かうのであった。

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