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【2030年FCV.BEV200万台】トヨタの電動化戦略って実際遅れているんですか?

「世はまさに大EV時代」

と言わんばかりに2021年、連日EVのニュースが入ってきます。

世界中で進む環境規制、カーボンニュートラル。世界各国ではガソリン車、内燃機関車廃止の規制が始まっています。欧州を皮切りに、中国、アメリカでも規制は進み、日本でも2035年には100%の電動化、東京都では2030年までにと前倒しの計画も立てられています。

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こうした規制に対し「EVこそが脱炭素の要」であるとされ、世界各地で開発、販売が加速。アメリカ、テスラの株価は時価総額で自動車業界最高となり、RivianなどのEVベンチャーも次々と新車計画を発表。中国新興EVメーカーも先進的なモデルを投入し、電気メーカーもEV事業に参入。また日本でも佐川急便が中国EVメーカーのトラックを採用。EVに関するニュースを聞かない日はありません。

このような世界のEVトレンドに対し「日本メーカーは乗り遅れている」という指摘がなされてきました。世界の主要自動車メーカーのEV戦略、例えばVWであれば2025年までに世界でEV300万台を販売し、2030年にはEU内販売を7割をEVに、アメリカのフォードも2030年までに欧州の乗用車の全ラインナップをEVにすると発表しています。これに対して日本メーカーは一向にEVがラインナップが少なく、具体的なロードマップが出てこない…


「このままでは日本はEV化に乗り遅れ、自動車産業が衰退する」   
「家電や携帯の二の舞になる」

といった批判があちこちから舞い上がっています。そんな中で日本の自動車業界最大手、天下のトヨタがついに電動化の計画を発表

2030年までに電動車(HEV含む)を800万台、FCV(燃料電池車)、BEV(電気自動車)を合計200万台

果たしてこの計画、これまで言われてきたように「世界のトレンドから遅れている」のでしょうか。今回の記事では、トヨタの戦略の妥当性を検証します。

トヨタの電動化計画の変化

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トヨタが電動化計画を発表したのは2015年。「トヨタ環境チャレンジ2050」として2030年までに電動車を550万台以上、FCV、BEVを100万台以上販売する計画を掲げました。
その後2017年段階ではそのままこの数字が目標として掲げられていました。欧州や中国が環境規制を強化を明確にする中で、2019年になり、計画を見直し。「EV普及を目指して」のプレゼンテーションの中で、2030年目標→2025年に5年前倒しに。

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そして今回、2030年までに電動車(HEV含む)を800万台、FCV(燃料電池車)、BEV(電気自動車)を合計200万台の目標が発表されました。なお、今回の目標の中では世界地域ごとでの販売割合も発表され、EVの規制が強化されている欧州中国では割合が多く北米や日本では少なくなっています。

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世界のEV販売予測

現段階での世界のEV販売予測はどのようになっているのでしょうか。BCGが出した2020年電動車予測、2030年の電動車割合は51%、内BEVは18%。

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IEAの「2021 EV Outlook」では2030年段階ではEVの販売比率は20%強(Stated Policies Scenario)。

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2030年では全世界販売台数のうち20%がEVが現状の予測になっています。

トヨタ計画とEV販売予測比較

では実際EV販売予測に対し、トヨタの計画は遅れているのでしょうか。仮にトヨタの2030年販売を1200万台(2021年度は約1000万台)とすると、16.7%。20%の予測と比べると、確かに少ない…これはやはり遅れている?
しかし、電気自動車の普及は世界の地域によって差があり、この点を考慮する必要があります。Pwc出している世界のEV販売見込みだと、2030年EV販売は欧州34%、アメリカ14%、中国33%。

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日本、北米の販売割合が高いトヨタであれば、今回の計画は世界地域ごとの EV販売予測と同等、世界のEVトレンドから遅れているわけではありません。
FCV、BEV200万台の内訳、販売比率から考えると日本15万台、北米30万台、欧州40万台、中国100万台、その他15万台、ざっくりこれくらいになるでしょう。

世界のEV潮流から遅れる日本

トヨタの計画でも明確ですが、日本ではEV普及が世界に比べると遅れる見込みです。
2030年段階で10%強 30万台を超える程度。2030年段階でもBEVはまだアーリーアダプターの段階。

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日本でBEVの普及が進まない要因は大きく4点


①BEVは内燃機車よりもコストが高く、競争力が低い
②小型車がメインであり、BEVの開発において利益が上げづらい
③集合住宅が全体の4割以上で家庭に充電器を付けることが難しい
④電力の構成に置いて火力発電の割合が高く、電力生産時にCO2排出が多いため、生産から廃車までの期間、LCA(ライフサイクルアセスメント
でCO2減の効果が薄い

世界から見て、EV化しない日本はガラパゴス化しているように思えるかもしれません。しかし「脱炭素」、極力CO2を排出しないを目指すと考えれば、電力生産時のCO2排出が減らない以上、しばらくはHEVを作ることが日本における最適な選択肢でありこれはしばらく継続し続けるでしょう。現段階ではBEVとHEVのLCAはほぼ同等で、燃料補給の点で利便性に劣り、価格の高いEVは普及が進みにくいのです。

現段階でのEV投資という博打


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EVへの巨額の投資が世界各地で進んでいます。特にVW。「Power Day」電動化ロードマップを発表するイベントを開催し、2030年までに「ヨーロッパで合計6カ所のセル工場を建設」する計画。自ら電池生産に乗り出す姿勢は他自動車メーカーと比べてもEV化へのシフトは顕著です。ただ、トヨタとは状況が違うことは理解しておく必要があります。VWの販売比率はEV化の進む地域である欧州、中国がメイン。そしてディーゼル不正でダメージを受け、HEVの技術に乏しいVWでは内燃機関で日本メーカーに勝つことは困難で、次のEVにシフトしていかなくてはいけない現状があります。

自動車は装置産業で非常に設備投資がかかります。過大な投資に対し、販売台数が伸びなければ、設備償却ができず、長期的に採算がとれない体質になってしまいます。現段階で果たしてEVに対する巨額の投資がうまくいくのかどうかは1つの博打といえます。(これからの技術革新で現段階での投資が次世代の電池利用可能なのかも不透明です)
これまで量産に成功した新興EVメーカーはテスラしかないように、EVを立ち上げ、成功させると言う事は簡単ではありません。ダイソンのEV撤退や、直近ではNicolaがSPAC上場しましたが、実際には技術力がなく、GMとの連携が取りやめになるといったニュースもありました。

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今、HEVと含む内燃機関車で、世界で最もお金を稼ぐことのできる企業はトヨタで間違いありません。2021年3月期決算を見ても圧倒的。2030年EVが20%とすれば、まだ80%はHEVを含む内燃機関車。HEV、内燃機関の強み、技術力を考えれば、現在のトヨタの電動化計画は世界のEVトレンドを抑えながらも、内燃機関車でしっかりと利益を上げることを考えた堅実な戦略といえます。VW以外にも中国メーカーやテスラ、EVベンチャーの投資と比べると積極的に見えませんが、博打のリスク、現段階での資産を考えれば理にかなった計画です。

ただしEV化は年々加速していく

とは言え世界のEV化のトレンドはどんどん加速しています。トヨタが2015年に出した段階の見通しは現代では全く通用しません。2015年に思い描いていた2030年は2025年に前倒し、当時の2040年ごろと想定されていた見通しが10年前倒しされ、30年頃になったのではないでしょうか。
EVへの投資は1つの博打であると書きましたが、今のトヨタがこれほどHEVの技術力を高めたのは、「プリウスを長年赤字を出し続けてでも生産し続ける」博打を打った事に要因があります。HEV含む内燃機関車は2030年段階でも80%を売れることを考えれば、あと10年ほどはトヨタが強い競争力を維持していける事は間違いないでしょう。ただそこから先は闇であり、EV化に乗り切れず、批判されるように大きく衰退していくかもしれません。

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EVにシフトする事は部品構成が大きく変わり、サプライヤーやそこで働く人々にも大きな影響を与えます。この残された10年ほどの期間の中でEV化に対する対応を迫られていきます。今回の発表では、EVの開発において開発期間が30~40%短縮がされている改善も伝えられました。世界の変化のスピードは年々早くなり、従来のやり方ではついていけません。
トヨタに先だって、ホンダも2040年には内燃機関車の販売を停止する計画を発表しました。
加速していく世界のEV化。日本メーカーもこれから、非常に厳しい戦いに挑んでいくことになります。
世界のトレンドをつかみ日本の産業の最後の砦と言える自動車が衰退しないためにこれからもトヨタ、日本自動車メーカーのEV戦略に注目です。

頑張れ、日本自動車業界!

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