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【自動車業界、中の人が教える】ぶっちゃけ「テスラ」ってどうなの?

皆さん、ご安全に!

自動車部品メーカーに勤めているカッパッパと申します。Twitterで車関連のニュースをキュレーションし発信しています。


またIT media Monoistさんで「いまさら聞けない自動車業界用語」を連載中です。

最近の車業界はテスラの話題で持ちきりです。上海のギガファクトリーが稼働を始め、21年には4つ目のギガファクトリーがベルリンで生産開始予定。コロナ禍の20年4-6月の四半期でも販売台数増やし、SUV、モデルYも出荷開始。株価はうなぎ上りで時価総額はトヨタを超えました。

日本でも、モデル3をメインに輸入されており、熱狂的なテスラファンが多数います。

ただその一方で、テスラ車の品質については疑問を投げかける意見も多いのも事実です。また突然の価格値下げ(中国)や中古車において自動運転機能をテスラ側から廃止するなど、これまでの完成車メーカーでは考えられなかったニュースが飛び込んできます。

この記事では「実際テスラってどうなの?」、自動車業界の中の人からの目線で解説していきます。自動車業界の方はもちろん、投資先として考えている方、購入しようと考えている方、テスラってよく聞くけど何やってるかよくわからない、そんな方にも読んでいただけたらと思います。

1.テスラってどんな会社?

テスラは2003年に設立されたアメリカシリコンバレーを拠点とする電気自動車、ソーラーパネル、蓄電池等を生産、販売する自動車メーカーです。

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2008年から電気自動車の生産を開始。当初はロードスター、高額なスポーツカーから生産を始め、モデルX(SUV)、モデルS(セダン)と車種を拡大。大きく販売を伸ばすことになったのは2016年に発表になったモデル3。価格は「スタンダードレンジモデル」で3万5000ドル、約390万円〜とそれまでのモデルと比べ大幅に安くなりました。発表1週間で30万台を超える予約を獲得。20年8月現在世界で最も売れる電気自動車です。

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 自動車を量産し始めてから10年間、2018年までは赤字が続いていましたが、2019年に黒字化。20年4−6月期では各社がコロナ禍で売上を落とす中、前年同月比で生産、販売を増やし、黒字を達成しました。その要因となったのは20年1月から操業を開始した中国、上海のギガファクトリー。これまでアメリカ国内2工場で生産していましたが、国外にも進出。21年にはドイツ、ベルリンにも工場を建設予定。またアメリカ国内でも新工場を作ることを決定しています。

20年3月にはコンパクトSUV、モデルYも納車を開始。モデル3も若干値段は上がるものの、人気のSUVモデルであり、受注は好調です。

CEOはご存知、イーロンマスク氏。ITエンジニア出身の企業家で、テスラだけでなく宇宙開発のスペースXのCEOでもあります。今、世界で最も注目されている企業家の1人であり、Twitterでの歯に衣着せないツイートでも話題です。端的に言って天才ですね……

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2.テスラのここがすごい

 ここまで話題になるテスラ。一体何がすごいのか。

それは

「従来の完成車メーカーとは全く異なる自動車設計、販売を実施し成功させた」

ことにあります。

 従来の自動車開発は「ハードウェア」の開発の歴史でした。車の動力源となるエンジン、曲がることをコントールするステアリング、車体の剛性、数々の振動/異音の解消、軽量化による燃費向上…これらの物理的な部品の性能、機能の向上させ新しい車に搭載、組み合わせることで自動車を進歩させてきました。

 テスラの自動車設計はこれまでの自動車メーカーとは全く異なります。各部品「ハードウェア」主体の設計ではなく部品を制御する「ソフトウェア」主体の設計になっているのです。

  近年の車ではECU(電子制御ユニット)が搭載され、各部品の性能をコントロールしています。これはテスラだけでなく各社も同様です。テスラ以外の自動車メーカーでは各部品制御対象毎にECUが用意され、動作するよう設計されています。ハードウェアがあり、そのコントロールをソフトウェアが実施する設計です。


 しかしテスラではソフトウェアが主体となった車両設計がなされます。主要なECUに制御を集中させ、その制御で車の基本性能である「走る」「曲がる」」「止まる」をコントロールする。これまでであれば各部品の性能及び組み合わせで車の性能は決まっていました。しかしながらテスラのソフトウェアを主体とした車両設計ではプログラムを書き換えることで車の性能を変えることができるのです。

定期的に行われるシステムアップデートによって各部品の出力、パラメータを調整し車の性能を向上、新機能も追加。オートパイロット、自動運転についても世界の中でもトップクラスの性能であり、日々車両の運転データが収集され、安全、性能を向上させるようフィードバックされます。インテリアも物理ボタンはほとんどなくセンターのタッチスクリーンで車の機能をコントロールし、鍵の開け閉めもスマホで行えるようになっています(日本では未認可のためNG)

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 もちろん環境に優しいEV、電気自動車であるということもテスラの大きな魅力の一つでしょう。ただ電気自動車は電池のコストの都合上、どうしても価格が高くなります。ただ単に「電気自動車」だけでは販売は伸びないのです。

 テスラはEVに+α「ソフトウェアとしての車」の価値を提供しました。「乗り物」ではなくiPhoneのような「ITガジェット」のように日々進化していく車。これまでとは全く異なる車両設計思想でテスラはこれほどまでの人気、熱狂的なファンを得るようになったのです。

 また販売ルートに関してもこれまでの完成車メーカーとは異なります。テスラではインターネットでのメーカーからの直売が基本的な販売ルートです。販売店(ディーラー)を通して販売する従来の完成車の販売ルートでは、その分販売管理費が必要となりますが、テスラではそうした費用は不要です。またブランディングが成功しているため、広告を発信する必要性がほとんどなく、広告費についてもコストカットすることができます(この点はイーロンマスク氏のTwitter活用も大きいです)

 また生産方法についても従来とは異なる工法に取り組んでいます。モデルYにおいては大型のアルミダイキャストマシンによるフレーム一体化の鋳造が採用される報道がありました。現在では複数の溶接を実施し、車体を組み上げていますが、これが実現すれば大幅な工数を削減し、コストも下げることが可能になるでしょう。

 加えてテスラではハードウェアは同一、ソフトウェアで機能を制限することで車種のグレード分けを行なっています。他社であればグレードを分けることは使用する部品を分けるため、部品点数、管理工数が多くなることを意味します。テスラは同一のハードウェアで生産し、ソフトウェアでグレードを分けるため、部品が共通化でき生産コストを下げることができるのです。

 忘れてはいけないテスラの成功の要因として、「新興メーカーでありながら安定して量産できる体制」を作り上げた点も大変大きいです。「電気自動車は部品点数が減るため、生産が容易になり参入障壁が下がる」という言説が飛び交いますが、量産することは決して簡単なことではありません。試作車として自動車を完成させることと量産として日々安定して製造することは全く異なる難しさがあります。現にテスラでも生産立ち上げの際には非常に苦労しています。モデル3立ち上げ時は計画では週に5000台生産予定が、四半期で生産できたのがわずか260台。生産プロセスが上手くいかず、量産は全く上手くいかなかったのです。この際にはフリーモント工場に大型テントによる新規ラインを増設し生産能力を向上。その後改善を重ね、現在モデル3生産は20年4−6月期では87000台を超え、安定して供給できる体制を整えています。

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3.テスラの不安点

高い人気を持ち、株価もうなぎ上りのテスラですが不安要素も多数あります。

まず「ハードウェアとしての自動車の品質」です。ハードウェア部分に関しては既存の完成車メーカーに一日の長があります。

先ほどの写真にあるモデル3のインテリア、シンプルといえば聞こえは良いですが、センターディスプレイ以外には何もないシンプルな作り。同価格帯の他完成車メーカーと比べると高級感は高くありません。

デザイン以外の部分でも品質については高いとは言えません。ボンネットやフェンダーなどのボディパネル同士の段差を合わせることを「チリ合わせ」と言いますが、テスラ車では各箇所での細かいチリ合わせが出来ておらず、組み付けのレベルは他メーカーと比べると低いです。

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チリ合わせについては気にするのは過剰品質だと言われるかもしれませんが、実際の車両の品質不良も多数報告があります。

最新車種のモデルYでは内装のドアが別グレードという品質異常が報告されていました。この異常事態は車の基本性能には影響しないので安全性能上問題ないとしても、これだけわかりやすい異常が流出してしまう品質保証体制は問題があるでしょう。

モデルYの品質異常については、話題になっており、この記事にあるシートベルトアンカーが固定されていない異常については日本ならリコールレベルです。

Twitter上で1番気になったのはこのツイート。買って1週間でロアアームが折れたという異常。安全性能に関わる重要部品の破損、自動車メーカーとして決して起こしてはいけない異常です。

自動車は「ITガジェット」ではなく自分の命を預ける乗り物です。安全性を保つため品質は確保されなければいけません。

自動車業界では品質不具合はppm(100万分率)で管理されるものです。2019年テスラ年間生産台数は36万台強に対し、これだけの品質不具合があるということは品質保証のレベルは高くないと断言できます。ソフトウェア主体の設計は素晴らしいですが、ハードウェアにおいて品質レベルは低い点は大きな不安要素です。

またソフトウェアにおいても、突然加速しブレーキが効かないといった暴走事例の報告があります。

購入を考えられている方はこうした品質不具合のリスクがあること、投資を考えられている方はこうした不具合に対してのリコール/訴訟リスクがあるということを覚えておいた方が良いでしょう。

またテスラは2019年黒字化しましたが、本業の自動車生産では現在も赤字の状態が続いています。黒字化の要因は排出権売却による収入が大きな役割を担っています。

自動車は新車販売車両に応じて、温室効果ガスの平均排出量が定められており、各メーカー、基準を超えると罰金を払う必要があります。テスラではEVしか生産していないため、排出権を多量に所有しており、他社に販売することで大きな利益を得ているのです。

この排出権取引に関しては、今後他社もEV化が進んでいく、または環境規制そのものが変更となることで不要になる可能性があり、安定して利益を上げることができるかは不明です。

最後に購入を考えておられる方はテスラにより、ソフトウェアがコントロールされるリスクがあることを覚えておいた方が良いでしょう。テスラではシステムアップデート等、コネクテッドと言われるインターネットと繋がる機能が充実しています。この機能があるが故に、テスラ側で車の機能を制限することができます。オプションの自動運転機能は中古販売される時にはテスラ側で削除されてしまう(買取価格が下がるリスク)報告があります。システムアップデートを繰り返すことで、メモリの書き込み上限に達し、交換しなくてはならないという事象も発生しているようです。


4.これからテスラってどうなるの?

EV、自動運転の先頭を走り、決算/株価も絶好調のテスラ。今後どうなっていくのでしょうか?

現在テスラでは3つの工場で生産し、来年以降ベルリン、そしてアメリカ国内に工場を建設予定で完成するとおおよそ年間100万台の生産能力になる見込みです。現在の人気から考えると年間100万台以上の需要はあり、販売は拡大していくでしょう。

ただしVWの「ID.3」、日産「アリア」など既存完成車メーカーが本格的にEVに進出してくる中で、テスラがこれまでの成長を維持できるのか。ソフトウェア、EVで先行するテスラとハードウェアで蓄積のある既存完成車メーカー。どちらが覇権を握ることになるのか。これから5年ほどの間で答えは出てくると思います。

テスラでは今後semi(EVトラック)、サイバートラック(ピックアップトラック)といった魅力的な車種を発売していく予定です。

(個人的にサイバートラックは現在発表されている車体では衝突安全性が満たせない/量産するのがこれまでの製造方法では極めて困難なので、どう解決するのかが楽しみです。)

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EV、ソフトウェアは自動車で今後最も発展していく分野です。そのトップランナーであるテスラは成長していくことは間違いありません。しかし一方でハードウェアとしての完成度にはまだまだ問題があり、品質不具合のリスクを抱えています。

今後、ハードウェアの問題も改善し、トップメーカーとなっていけるのか。はたまた既存完成車メーカーに追い上げられ、失速してしまうのか。どちらにしてもテスラの一挙手一投足に注目していく必要があるでしょう。

*こちら記事、ご意見、感想、反論お待ちしています。ぜひTwitter宛にリプライを。

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