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自動車のLCA、CO2排出量なんてどうやら誰もわからない問題

ご安全に!
先日書いたこちらの記事につきまして、産業技術総合研究所の櫻井啓一郎ご指摘がありました。

この点、アブストラクトのみで計算し、記事を執筆した点は間違いなく、先日の記事のにて検証した147kg-CO2/kWhについては問題があり、謹んで修正、訂正させていただきます。記事を読まれた皆様につきましても誤解を招く内容となっており、大変申し訳ございません。

実際の中国のバッテリー生産時のCO2排出量は?

では実際の中国のCO2排出量はいかほどなのでしょう。先程の論文では78〜110kg-CO2/kWh、別の論文ではおおよそ100kg-CO2/kWhとされています。

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(引用: GHG Emissions from the Production of Lithium-Ion Batteries for Electric Vehicles in China

こちら、論文を見るとアメリカの2.5倍くらいの数量になっている…??元々計算していた倍率よりも大きい…??
この点が疑問になったので櫻井氏に質問してみました。

CarbonCounter 、こちらアメリカ基準でLCAでの排出量がわかり、条件も変更できる非常に便利なサイトになっているのですが…

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デフォルトの製造時排出量が100kg-CO2/kWh…アメリカで100kg-CO2/kWhなら中国ではもっと高いのでは??

疑問に思ったので櫻井氏に聞いてみると

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……
サイト更新してデフォルトの値、2倍に変わっているやないかーい!!
一体何が正しいのか…わからなくなってきた…

加えて中国、100kg-CO2/kWhとした先述の論文をみると、論文ごとにCO2排出量の差が非常に大きく、特に組み立て時の排出量は大きな差があります。(下記グラフ、オレンジ部分)

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IVL2019の論文では組み立て時の排出量は0〜60kg-CO2/kWhとなっており、先述の中国排出量の論文では材料のみの生産で100kg-CO2/kWhとなっていたため、足すと先日のnoteとほぼ同等の排出量に…

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論文を読めば読むほど新しい数字が出てきて、こんがらがっていく。論文での検証方法もまちまちであり、引用先が古かったり、1番良いデータを使用したりしている…

櫻井氏から紹介されたサイト、Facts and Myths Debunking – AVERE(名前からしてEV推進派なんですが)の最新の論文では

These emissions are hard to establish because factories see this data as commercially sensitive.
これらの排出量は、工場がこのデータを商業上の機密事項と見なしているため、立証が困難です。

とした上で、地域を限定せず

Most studies use outdated and thus unrealistically high assumptions regarding battery manufacturing emissions. Based on the latest data we assume 40 to 100 kg/kWh. Our best estimate is 75 kg/kWh.
ほとんどの研究では、電池の製造時の排出量について、古くて非現実的な高い仮定を用いています。最新のデータに基づいて、私たちは40〜100kg/kWhを想定しています。当社では、75kg/kWhを想定しています。

としています。
EV推進派、懐疑派、各論文ごとに使用データ検証方法が異なり、具体的な基準がないため、単純な比較が出来ない、科学的信頼性の担保が難しいのが現状のようです。

LCAでのCO2排出を算出することの困難性

現在の脱炭素規制(CAFE規制など)は完成車の燃費を基に基準を満たせない完成車メーカーに罰金を課すもので、規制の方法は容易です。しかしながら、今後導入が進むとされるLCAでのCO2排出になると、生産時、走行時に使用される電力のCO2排出も計算しなければならないため、算出は難しくなります

今回のバッテリー生産も含まれますが、各メーカーごとに生産の技術は異なります。パナソニック、CATL、テスラ内製のバッテリー。どれも違った製法で作られ、CO2排出量は異なるでしょう。
加えて製法が同じだったとしても、使われる電力、工場電力の再エネ使用比率、その地域の電力構成がどうなっているのかによっても排出量は異なります。
部品ごとでの排出をどのように決めるのかも問題です。自動車は裾野が広く、3次、4次下請けといった企業も多く存在します。比較的規模の大きな1次下請けなら、CO2排出算出も可能ですが、下請けになればなるほど企業規模が小さくなるため、算出することは難しくなるでしょう。また輸送時や発電ロス、輸出するとしたらその運搬時のCO2まで含めるのか。
LCAでのCO2排出を算出することは容易ではありません。

LCAでのCO2排出算出はできないのか

LCAでの算出はできないのか。そんなことはありません。櫻井氏から教えていただいた、米国てで自動車全般に用いられるアルゴンヌ国研のGREET(The Greenhouse gases, Regulated Emissions, and Energy use in Technologies Model)
モデルという算出方法があります。

また、ISO14040/14044にてLCAの規格は定めてられており、トヨタも実はLCAでのCO2排出は計算をしていたりします。(あくまでも従来車ベース)

こうした基準、規格に基づき、算出すれば比較可能になり、本当にCO2排出が少ない車がわかるはずなのですが、現状は各社その数字を発信しておらず、論文等を見ても企業機密に触れる部分があり、算出方法が異なるため、さっぱりわからない状態です。

ただ国境炭素税が始まるとなれば国際的な基準も決まり、実際にどれほどなのかが明らかなっていくでしょう。(ルール設定の段階で日本に不利にならないよう働きかけが必要なんですが、国際的なロビー活動っからっきしダメなんですよね…)

とはいえEVはこれからどんどん良くなる

実際何が環境に良いのか、排出が少ないのか。EV推進派から悪名高いマツダ論文が非難される一方で、EV有利派の論文に関してもデータの古さや手法の統一性が取れておらず、数値がまちまちで櫻井氏も言われる通り、「科学的な信頼性の判断は難しい」状況にあり、実際誰も分かっていないんじゃ状態にあります。
ただEVに関して言えば、今後技術革新、量産化、再エネの使用率向上により減る要因が多く、伸び代が大きいのは間違いありません。

この記事に書かれているように、再エネという観点からすると日本は

未来社会では常時風が吹く洋上風力発電ができる場所は秋田沖に限られるという、なんとも資源には恵まれていなさすぎるクソ立地です。これがシヴィライゼーションなら「何て場所に京都を建ててしまったんだ」とマップごとぶん投げる勢いです。

と圧倒的に不利です。こんな中で日本で作ったクルマを輸出すると炭素税がかかって、競争力がなくなるなんて事態になれば、経済自体が沈みかねません。

4月には日米首脳会談があり、その際にはカーボンニュートラルについても議論される予定です。変なお土産もらってこないことを祈りつつ、原子力も含めて電力生産のCO2排出なんとかならんものかと思案しながら、各社がISOやGREETを基にLCAでCO2排出を見える化する未来、早く来ないかな、来ないよなー、しばらくわからんままなのだろうと思う、小春日和の午後でした。

なんにせよ、相変わらず厳しい日本自動車業界。なんとかやっていきましょう!

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