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「主婦」の新しい呼び方を考えてみた

大人気料理家の山本ゆりさんが、「主婦」や「カリスマ主婦」という肩書で呼ばれることがあり、(どちらかといえば自分は仕事人という自覚があるため)主婦に対して少し申し訳ない気持ちになる、という取材記事を読んだ。

山本さんの気持ちに料理家としてちょっぴり共感。料理家は本当の主婦ではなく、職業だ。私たち料理家の一部がイメージ上、親しみや共感を持ってもらえるように主婦と呼ばれたり、家族のためのごはん作りが高じて仕事になった、という文脈を持たされることは十分にあって、それが現実の主婦とちょっとズレちゃうみたいな。テレビなどであれだけ顔が売れていて、料理家として確立しているタサン志麻さんがいまだに「伝説の家政婦」と呼ばれるのと同じ。

それはそれとして、2021年の今、「主婦」という言葉はどういう意味を持つようになっているのだろう。

私は最近、原稿を書くときに「主婦」という言葉を使わないようにしている。主婦と書くとどうしても女性限定になり、たとえば男性の「主夫」を疎外してしまう。私は年齢的に主婦という感覚や呼び方が身に染みついていて「旬の野菜はおいしいうえに安くて主婦の強い味方です!」みたいな一文をつい書いてしまったりする。いけないと思って「旬の野菜はおいしいうえに安くて主婦(主夫)の強い味方です!」と書き直すが、どうも流れが悪く感じる。しかも、ジェンダーに配慮しているように見えて主婦と主夫以外を取りこぼしている。「旬の野菜はおいしいうえに安くて生活者の味方です!」うーん、硬い。「旬の野菜はおいしいうえに安くておうちでご飯を作る人たちの味方です!」長いうえに料理にしか使えない。

つい、Twitterでこんな愚痴をこぼしてしまった。

そうしたら、すごい数の応募(いや、募集はしてない)があって、ネーミングコンテストみたいになってきた。読んでいるうちに、呼び名というのは、まさにその対象に対するイメージや考え方を表現するものなんだなと感じられて面白かったので、拾えただけ紹介してみる。Twitterの流れが早かったので取りこぼしがあるかもしれないがご勘弁を。

〇表記や発音でなんとかする

しゅふ/シュフ/主フ/シュッフ/主婦(主夫)er(シュファー)

主婦はそのままで、ひらがなやカタカナに開くというシンプル案。平野レミさんがよく、私はシェフじゃなくてシュフと本などに書いていたのを思い出す。シュッフ、シュファーとかわいく呼んでみるアイデアも。

〇暮らしや家にひもづかせる

暮らし人(くらしびと)/おうちびと/家ニスト(カニスト・イエニスト)
/家守(やもり)/家人(いえじん)/生活人/家民

家にいる人、みたいなイメージ。赤ちゃんやご隠居老人なんかもずっと家にいて「暮らす人」だしなー、という疑問がちょっとある。そういう意味では幅が広すぎるかもしれない。

〇「ご飯を作る人」という狭義の意味で

家シェフ/シェフ/お家シェフ/台所番/ご飯当番(飯当番)/台所に立つ人(立つ方)/料長(りょうちょう)/うちのご飯担当/食事キーパー、ミールキーパー/飯炊き係/ご飯係/クックさん/献立を考える皆さん/お料理される方

私が料理家ということで「家で料理を作る人」という限定でのアイデアがいくつか届いた。ご飯担当、当番、係。給食係みたいなイメージかな。シェフという案を出している方は、レストランの料理人と、家の料理人を重ね合わせているんだなあと思う。料理しない主婦もいるのでやや狭義。

〇そのものズバリ「家事をやる人」

家事人/家事者(かじしゃ)/家事従事者/主家事人(おかじん)/家事人(かじんちゅ)/カジスト(家事ist)/ホームワーカー/ブラウニー(家事をやってくれる小人)/家事職人/家事労働者/
家事担当/家事担(カジタン)/〇〇担当、〇〇係、〇〇班(調理担当、掃除担当、ごはん係、掃除係、洗濯班みたいな)/〇〇大臣(お風呂掃除大臣・ご飯作り大臣)/家事当番(料理当番)

家事をやる人、という意味を言葉にしたものを集めてみたのだけれど、家事に対する考え方によって、語感が変わってくるのが面白い。
単純に、家事をやる人という意味で、家事人、家事者、家事従事者など。ニュートラル系。
主家事人(おかじん)や、家事人(かじんちゅ)、カジストなどの造語は、新しさはありつつ、何かのきっかけでブレイクしないと定着しにくいかもと思う。ホームワーカーは昨今の在宅ワークの意味合いがかぶってきて混乱しそう。
また、家事職人とか、家事労働者みたいな言葉は、仕事を連想させる。家事を職業的にみなしている人かもしれない。

はっとしたのは、料理や掃除、洗濯などそれぞれの役割について「〇〇担当」「〇〇係」みたいな呼び方をすればいいという提案。すでに家庭内で家事が分担されていて、こういう呼び方をしている人もいた。そうか、分割してしまえばそれはもう「家事」という仕事ではなくなる。私は主婦の「婦」に困っていたのではなく「主」を家庭内に置くことに困っていたのかもしれない…。「主婦」という言葉を使う必要がない家族が増えれば、その言葉の代わりを考える必要はないのだ。

家事=家政。家事にマネージメントはあるか

家担/家政士/家政師/カジカン(家事管理者)/イエカン(家管理者)/イエマネ(家マネージャー)/homer(ホーマー)/ホームマネージャー/ホームキーパー/ 家政人(かせいじん)/homemaker/housemaker/Chief Ie Officer/主師(しゅし)/家司(けいし)/家事監督/家事総括/ハウスワーカー/ハウスマネージャー/家事取締役/

次は、その「〇〇担当」の発想とは違い、家事を単なる単純作業の集積ではなく、家に関する様々な仕事をスムーズに回していくという総括的な仕事としてとらえるパターン。マネージメント的な意味合いを持たせた言葉を集めてみた。管理者、マネージャー、オフィサー、監督、総括。
これらの言葉には、ご飯を作る、掃除機をかける、アイロンをかけるというようなことの一段上のレイヤーで、家のことに目を光らせ、家庭の運営が滞りなく流れているかを監督するようなニュアンスが含まれている。

家事を、買い物、ごはん作り、洗い物、掃除機、洗濯、アイロン、ゴミ出し…すべて分割できる小さな仕事の集まりだと考えるか、家庭の運営というひとつの「家政」として考えるか。作業は分担できるが、マネジメントは分けにくく、しかも責任も発生する。「経営」の側面が強い。
家事に対する認識はこのとらえ方によって、大きく分かれると思う。家庭内でその権限と責任を持たされることをよしとするか、否定的か、そこにも関係してくる。

現代では少人数家庭が多いため家事をやる人は監督だろうが社長だろうが、手足を動かすしかない。作業はどんどん沸いて出る。とてもマネージメントにまで目が向かないのが多くの家庭の現実であることを踏まえると、名前負けしそうな予感も。でも名前によって意識が生まれる側面もある。

主婦への敬意

きちんとさん/カニングフォーク(cunning folk)

いろいろ踏まえたうえで、主婦に対する敬意を表す呼びかたをふたつ。きちんとさんは何かのCMだったような…。カニングフォークは初めて聞いた言葉だが、魔法使い=知恵者みたいな意味もあるようだ。

私は案外こういうのは好きだなと思う。家事には、身体知や第六感とか、共感力などをはじめとするEQといった能力が必要とされるし、そうした能力が育つ仕事でもある。ここを言語化すると家事はやる価値のある仕事になる可能性がある。

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集まったアイデアを勝手に分類してしまったので、もしかして本位ではない扱われ方をしているということもあるかもしれない。何気なく問いかけたことに、こんなに多くの反応が返ってきて驚いた。それだけみんなの関心が高いということだし、時代が新しい家事や主婦のありかたを求めているのだと思う。名前が変われば、そこに広がりと自由が生まれる。

料理も家事のひとつなので新しい家事を考えることは新しい料理につながるかもしれない。引き続き、呼び名も中身も考えていくつもりです。



読んでくださってありがとうございました。日本をスープの国にする野望を持っています。サポートがたまったらあたらしい鍋を買ってレポートしますね。