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クリエーターだから、はっとする──芥川龍之介「芸術その他」覚書|4|

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 樹の枝にいる一匹の毛虫は、気温、天候、鳥類等の敵のために、絶えず生命の危険に迫られている。芸術家もその生命を保って行くために、この毛虫の通りの危険を凌がなければならぬ。就中(なかんずく)恐るべきものは停滞だ。いや、芸術の境に停滞と云う事はない。進歩しなければ必退歩するのだ。芸術家が退歩する時、常に一種の自動作用が始まる。と云う意味は、同じような作品ばかり書くことだ。自動作用が始まったらそれは芸術家としての死に瀕したものと思わなければならぬ。僕自身「龍」を書いた時は、明らかにこの種の死に瀕していた。

「芸術その他」

これは大いに共感すると同時に耳の痛くなる言葉です。
「芸術家が退歩する時、常に一種の自動作用が始まる。と云う意味は、同じような作品ばかり書くことだ。」
少し毒づくと、プロの作家でこうなっていない人の方が珍しくないですか。
「進歩しなければ必退歩する」。
書きつづける限り、このことはいつも肝に銘じておきたい。

単に表面上「似たような」ものが悪いとは思わない。
テーマを追い続け、深化していく過程を見せてもらえるのは、それはそれで無上の喜びであるわけです。
たとえば、ドストエフスキーの「罪と罰」から「カラマーゾフの兄弟」への転回。

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