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職務経歴書はどう書けばいいのか

職務経歴書は読まれていない。なぜなら企業の元に届く職務経歴書の数は膨大で、1ヶ月に数百通を超える書類の隅々まで、書類選考担当者は目を通せないからだ。結果、目にとまる箇所だけを読み、通過/不通過の判断をしていかざるをえない。

このnoteの目的は、書類選考を通過する職務経歴書を書けるようになることだ。限られた時間の中で書類選考担当者の目につく職務経歴書はどう書けばいいのか。その鍵は職務経歴書にまつわる誤解にある。ここではその誤解を解いていく。

書類選考が通らずに困っている方へ、このnoteをお届けしたい。


なぜいま職務経歴書なのか

はじめに職務経歴書の作成に手間暇をかけるべきかどうかを判断してもらうため、日本の採用活動について捉えておきたい。実際に職務経歴書が、どこでどのように求められているかを把握する。

企業の採用担当は中途採用活動を行う際に、大きく分けて4つの経路を検討する。

  • 人材紹介会社への依頼

  • 転職メディアへの掲載

  • 社員紹介

  • 自社メディアでの募集

このうち社員紹介と一部の転職メディアからの応募を除いて、企業は採用候補者に職務経歴書の提出を求める。また、社員紹介の場合でも提出を求めることがある。

近年はビジネスマッチングプラットフォームやキャリアSNSが発展し、社員紹介が普及してきている。だが図1を見ると転職サイトや人材紹介会社を利用する企業が依然として多い

図1 マイナビキャリアリサーチLab 2024年5月度 中途採用・転職活動の定点調査
https://career-research.mynavi.jp/reserch/20240628_81546/

転職サイトや人材紹介会社経由だと職務経歴書は採用候補者の主な情報源になる。したがって当面は、職務経歴書による採用判断の必要性は無くならないだろう。

職務経歴書が通らない原因

次に職務経歴書の選考通過率を確認する。図2を見ると、書類選考通過率は30%となっている。これは企業によって差があり、一次面接の工数を減らすために書類の選考基準を上げる企業もある。たとえば一次面接の通過率を50%前後に保つようにすると、書類選考通過率は10~20%くらいになることもある。

図2 マイナビ転職
https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/naiteisha/

職務経歴書について調べると、「見たいエンジニアの職務経歴書の書き方」という記事を見つけた。Web系の上場企業でサーバーサイドエンジニアの中途採用の書類選考や面接官をしている方の記事だ。職務経歴書のフォーマットが決まっていないことに触れたあと、職務経歴書に欲しい情報が足りないことを問題に挙げている。

この記事によれば職務経歴書で見ているのは「技術スキル」と「ソフトスキル」の2つということである。

実力を測るのには職務経歴書をメインに読んでいます。
その中で大きく分けて2つの部分をチェックします。
技術スキルと人間としてのソフトスキルです。

見たいエンジニアの職務経歴書の書き方

技術スキル「技術理解の深さ」「実行力や手の早さ、アンテナの広さ」を指し、
ソフトスキルは技術を活用する上で「周りに与える影響力」を記事の中では指している。

これらの情報が足りず「本当の実力はもっとあるのでは?」と思うことがあると、記事の筆者は述べている。そして職務経歴書に書いて欲しい、知りたいポイントを具体的に挙げ、最後に以下のように書いている。

使ったことがある技術が知りたいだけでなく、関わったことがあるプロジェクトが知りたいだけでもなく
それらを持ってどのような思考と行動を取ったのかを知りたいです。

見たいエンジニアの職務経歴書の書き方

職務経歴書が通らない原因の一つは書類選考の担当者が知りたい「思考と行動」に関する情報が足りないからではないだろうか?
どうしてこのようなことが起きるのかについて解明していく。

職務経歴書では満たせない

まず、一般的に使用されている職務経歴書のフォーマットを確認する。図3がリクルートエージェントが提供している職務経歴書のサンプルだ。「職務要約」「職務経歴」「活かせる経験・知識・技術」「資格」「自己PR」の、5つの項目が載っている。

ちなみに厚生労働省のハローワークが提供している職務経歴書のサンプルだと、「活かせる経験・知識・技術」は「活かせる能力」や「職務を通じて身につけた能力」に、「自己PR」は「志望動機」や「仕事への姿勢」に変更されている。

図3-1 転職のリクルートエージェント 職務経歴書のサンプル 人事
https://www.r-agent.com/resumenavi/sample/
図3-2 転職のリクルートエージェント 職務経歴書のサンプル 人事

これだと、前述の技術スキルについては「活かせる経験・知識・技術」の項目に、「技術理解の深さ」や「実行力や手の早さ、アンテナの広さ」を含めて何とか入るかもしれない。

しかし記事の筆者が言う「使ったことがある技術が知りたいだけでなく それらを持ってどのような思考と行動を取ったのかを知りたい」を記載するのには不十分ではないか? それは「職務概要」や「職務経歴」の項目にも同じことが言える。

またソフトスキルである「周りに与える影響力」は、どう伝えればいいのか?

ちなみに「周りに与える影響力」とは、「チームの中でのコラボレーション力」「チームを技術やマネジメントにより導くリーダーシップ」「チーム内、チーム外に与える影響力」「課題を発見し、指摘するだけでなく、自分で解決する自走力」と、記事の筆者は述べている。

これらの疑問について考える前に、「職務」についての理解を深めておきたい。

「職務」の誤解

「職務」という概念は古い。「職務」にて働く雇用形態を「ジョブ型」と名づけた濱口桂一郎は、「産業革命以来、先進産業社会における企業組織の基本構造は一貫してジョブ型だった」と述べている※1。「職務」の概念は20世紀以前からある。

その後、1910年代から40年代にかけてアメリカで「職務記述書をもとに契約をして、その職務に賃金を払う」働き方が普及していった※2。戦後、日本でも職務給に変更しようと政府と経営側が主導したが、労働組合側が反対した。最後は経営側も立ち位置を転換して、職務給の導入は立ち消えとなった※3。

「職務」の評価はその「職務」を遂行できる人かどうかを採用判断の基準とする。だからその「職務」に係る「資格」や「経験」を判断し、採用するのが原則だ※4。よって採用候補者は、職務経歴書に「資格」や「経験」を書くことになる。

本来の「職務」の理解なら「どのような思考と行動を取ったのか」を職務経歴書に記載する発想は生まれにくいだろう。だが日本では「職務」という概念が入らず、理解が宙に浮いてしまった。これが各人の「職務」の誤解を生み、のちのちの職務経歴書の情報が足りない問題に繋がってしまったと考えられる。

リクルート創業メンバーの一人である大沢武志らは職務に関し「仕事内容や責任・権限がはっきりと決められている欧米とは異なり、日本においては各職位の範囲があいまいであり、担当する作業者の責任も不明確な場合が多い。そのため、職務という概念がなじみくいものとなっている」と述べている※5。

だが上記ではなぜ一部の人は職務経歴書の情報が足りないのかの解明にはなるが、なぜ企業の選考担当者は採用候補者の職務経歴以外の情報を知りたいのかの解明には十分でないだろう。それを次で説明する。

「思考と行動」の正体

なぜ企業の選考担当者は、採用候補者が「どのような思考と行動を取ったのか」を知りたいのだろうか?

先述の通り、戦後に日本では職務給についての議論が浮上して、消えた。それから1975年以降、日本の企業は「職能資格等級制度」を本格的に導入する※6。「職能資格等級制度」は1980年代までに日本の大手企業の9割が導入していたと言われている※7。

「職能資格等級制度」は、「職能」と呼ばれる人の能力を、評価する制度である。この「職能」とは「どんな職務に配置されても適応できる潜在能力」を指し、適応力や協調性などを含む一般能力を指す※8。

「職能」は、1990年頃からアメリカの企業で導入されている「コンピテンシー」という概念にきわめて類似する※9。「コンピテンシー」は一般に「高業績者の行動特性」と理解されている。しかし、その定義は厳密ではなく、人の動機や性格特性までも含めて広義に理解する例もある※10。

また経済学者の石田・樋口らが2004年から2007年にかけて行ったアメリカ企業の調査によると、一部の企業において「特定の職務ではなく職掌や等級に共通して求められる能力や行動の要件を規定している」といった、「職務」から「職能」に接近している傾向を示すものと解釈できる動きが見られたという※11。

つまり近年、日本の企業でもアメリカの一部の企業でも働く人に特定の「職務」に限らない能力や行動を望み、働く人を特定の「職務」を遂行できるかどうかだけで評価するのでは足りないとする傾向が見られるのだ。

企業は候補者の「どんな職務に配置されても適応できる潜在能力」や「高業績者の行動特性」にまつわる要素を評価したいと考えている。「高業績者の行動特性」であるコンピテンシーは、1990年代以降に日本で導入されている「役割等級制度」においても評価の対象とされている※12。

ちなみに「職能資格等級制度」は、その潜在的な面を評価する特徴から、評価者による解釈の幅が広く、運用する上で問題が生じやすいことが多くの実務者や研究者から指摘されている。「職能」は評価が難しいという点は重要なので、付け加えておく。

職務経歴書はどう書けばいいのか

以上を踏まえて、職務経歴書はどう書けばいいのか。

「職務経歴」の「業務内容」の欄に、それぞれの業務を実施するにあたって自分が考えたことや、実際にした行動を記載するのである。

  • その業務を実行する上で、何を課題だと考えて、何をしたのか?

  • その業務を実行していて、何を困難だと考えて、何をしたのか?

  • その業務が失敗してしまったとき、何を考えて、何をしたのか?

上記の質問への回答を「業務内容」の欄のなかに、<コメント>として記載する。全てに答えなくてよいが、「困難」や「失敗してしまった」ときほど再現性のある思考や行動が出てきやすいと思うので、選考担当者は知りたいだろう。

「職務要約」や「自己PR」の項目に書くのを試みてもいい。だがそれだと各業務の具体性に欠けて内容が浅くなり、相手に伝わらないだろうからおすすめしない。

「職務経歴」の「業務内容」の欄に<コメント>を入れるだけだ。

終わりに

最後に、このnoteを書くに至ったきっかけについて記したい。

昨年、私は一人の求職者に会った。定年後の再雇用期間を終えた65歳の方だった。人材紹介会社経由で職務経歴書を出したが、書類選考で50社以上落ちてしまったと話していた。

誰もが知る大企業の出身で聡明な方だった。私から見て、仕事の経歴も申し分ないように思えた。しかし、職務経歴書を見て会いたいと企業は思わなかったようだ。

その方の職務経歴書を見ると「職務」のみが簡潔に書かれていた。それがあまりにスマートで味気ないと、私は思った。経歴は厚みがあるのに魅力を感じづらい。

その方と私は1ヶ月のあいだ毎週会議をした。これまでの業務の棚卸しと、強みの把握が主だった。書類選考を通過したときのために模擬面接も行なった。その頃に考えついたのが、本記事にある職務経歴書の書き方だった。

その方は一つの会社で人事異動を数回経験していた。「どんな職務に配置されても適応できる潜在能力」を持っていた。しかし、職務経歴書を記載するにあたっては「何をやってきたのか?」「何ができるのか?」の問いの前に、力を失っていた。

私も同じだった。ジェネラリスト、ジェネラリストと自らを取り繕ってきたが、「何をやってきたのか?」「何ができるのか?」と聞かれると、うまく話せない。

その方の職務経歴書は、応募した2社中2社通った。そのうち1社と契約が決まった。

その方は毎週、自身と向き合った。それぞれの仕事に共通する大事なことについて話がおよぶ日があった。「逃げない、ですかね」と口にされたのが印象的だった。「どんな職務に配置されても適応できる潜在能力」の言葉に今の私には聞こえる。

引用

※1『ジョブ型雇用社会とは何か』(濱口桂一郎)P.12
※2『日本社会のしくみ』(小熊英二)P.180
※3『日本社会のしくみ』P.411-418
※4『ジョブ型雇用社会とは何か』P.32-33
※5『人事アセスメントブック』(大沢武志、芝祐順、二村英幸)P.382
※6『人事アセスメントブック』P.388
※7『人事制度の日米比較』(石田光男、樋口純平)P.19
※8『日本社会のしくみ』P.469
※9『アメリカ企業のヒューマン・リソース・マネジメント』(伊藤健市、田中和雄、中川誠士)P.57、P70
※10『アメリカ企業のヒューマン・リソース・マネジメント』P.59
※11『人事制度の日米比較』P.94-95
※12『人事制度の日米比較』P.38-40

「見たいエンジニアの職務経歴書の書き方」(@newta)

この記事の内容が無かったらこのnoteは書けませんでした。@newtaさん、どうもありがとうございました。

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