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【雑木林】生物たちのドラマと自然を届けるコラム

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生物や環境問題をネタにしたショートコラム集です。生物たちの意外な一面をユーモアを交えて紹介したり、環境問題をより身近に感じてもらったりするためのコラムです。誰にでも親しみやすく、…
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#自然

守るために何もしないということ

 「ここはとてもきれいなところですから、あなたは来ないで下さい」  沖縄県の「やんばるの森」が世界遺産登録目前で注目を集める中、とある雑誌の記事に掲載されていた言葉である。  この言葉は、沖縄北部に残された雄大な自然を目にしたフォトグラファーからのメッセージであった。私がこの言葉に出会ったとき、少し複雑な気持ちになった。きれいな自然があるなら、私だって訪れたい。しかし、この言葉は真実である。  産業革命以来、人類の開発行為によって地球上の自然は多くが失われ、今もなお危機

増える猫、減る猫

 ナショナルジオグラフィック(日本版)の2022年3月号の見出しは、「よみがえるビック・キャット」であった。インドに生息しているベンガルトラとインドヒョウは、それまでの数百年の間で個体数が大幅に減少していた。しかし、同誌によると、2018年の個体数調査で3,000頭近い野生のトラが生息していることがわかり、個体数は2014年と比べて33%増加した。ヒョウに関しては、生息数は2014年から62%増え、13,000頭近くになるという。  一方で、個体数が減少し、もはや絶滅と言っ

宇宙船地球号の墜落

 「リベット仮説」というものがある。これは、生物多様性を飛行機のリベットに例えたものであり、リベット――すなわち種――が欠けると、やがて飛行機――すなわち生態系――が空中分解して墜落することに基づいている。一つ一つの種は、巨大な生態系の中では小さなリベットの一つで、その欠損は大きな影響を与えないこともある。しかし、複数のリベットの欠落がやがて大きな事故を招くように、多くの種の絶滅が生態系のバランスをひっくり返してしまうこともある。 *  私たちにとっての問題は、その種が一

地球を壊すカバ

 地球を壊すカバがいる。ただし、——なぞなぞのようであるが、―—カバはカバでも普通のカバではない。カバの正体は、地球の生物多様性を減少させる要因を、その破壊性の強さの順に並べたときの頭文字である。生息地(Habitat)の消滅、侵略種(Invasive species)によるかく乱、汚染(Pollution)による環境破壊、人間の過剰人口(Population)、そして過剰収穫(Overharvesting)。これら5つの頭文字を並べると、HIPPO(カバ)になる。 *