鶴見線クモハ12を撮ったコダクロームを「ニコンスライドコピーアダプター ES-1」でデジタル化する話
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「ニコンスライドコピーアダプター ES-1」を手に入れた
いまはだいぶ整理されてしまったが、ニコンにはむかしから、各種アクセサリーが充実している。そのニコンのアクセサリーに「スライドコピーアダプター ES-1」という製品があった。フィルムの複製(デュープリケーション、略して「デュープ」)に使うものだ。
マイクロニッコールレンズの先端にとりつける円筒形の製品で、先端に乳白色のすりガラスがはめられていて、その部分にフィルムを挟む。もちろん、他社製マクロレンズにも使用できる。
いまはもうフィルムのデュープなどは行われないだろう。デジタルカメラによるフィルムのデジタル化(デジタイズ、デジタル画像化)に使われることが多いはずだ。ES-1もフィルムのデジタイズを目的として、ストリップフィルムを固定しやすいアクセサリーを同梱した「フィルムデジタイズアダプター ES-2」に置き換えられた。
そんなおりに先日、安価な値付けをされているES-1を目にして興味が湧き、手に入れた。
フィルムスキャナーのドライバーソフトをうまく使いこなせない
私は25年近くニコンのフィルムスキャナーSUPER COOLSCAN LS-4000EDを温存している。スキャナー自体は温存できていても、それを動かすソフトウェアが減ってしまった。純正のNikon Scan 4は更新されなくなって久しい。かつてはAdobe Photoshopプラグインで使うこともできたのがなつかしい。
Nikon Scan 4は残念ながら32bitのソフトウェアであるために、いまのmacOSでは使うことができなくなった。古いままのOS(Snow Leopard ; Mac OS X v10.6.8)のMacintoshも所有しているが、不具合が多いこととマシンのパワーが非力で使いやすくはない。
現在のmacOSで使えるドライバーソフトはVueScanとSilverFastだ。私はずいぶん以前にVueScanをレジストリしているので、VueScanを使う権利を持っている。
だが、最近のVueScanを私はどうもうまく使えない。情けないのだが。コダクロームなどはとくにうまく色の調整ができない。そこで、コダクロームはES-1を使ってデジタイズするとどうなるだろうかと思い、試みた。
ねんのためにコダクロームを説明すると
「コダクローム」と書き始めてふと気づいたのだが、もしかしたらここにお越しの大半の方には説明不要なのだろうが、アラサー以下の方には説明が必要なのかもしれない。
コダクローム(Kodachrome)とは米国イーストマン・コダック・カンパニー(コダック)がかつて製造販売していた「外式(がいしき)」リバーサルフィルムのことだ。1936年に発売された世界初のカラーフィルムなのだそうだ。2009年まで製造され、2010年で現像の受付を終了した。
乳剤に色素を形成するカプラーを含まず、独自の現像処理(K-14)を行うもので、標準的なE-6プロセス(内式)とはまったく互換性がない。
感度が比較的低く、通常の光源で使用するデーライトフィルムには全盛期にもISO 25(KM、PKM)、ISO 64(KR、PKR)、ISO 200(PKL、KL)の製品しかなく、21世紀に近くなるまで増感処理もできなかった。
現像処理ができる現像所も限られていて、かつては日本国内では現像所がなかったそうだ。1990年代にはIMAGICA(東洋現像所)のほかに、ローヤルカラー、堀内カラーでも取り扱うようになった。一般の現像所では受け付けても指定現像所に外注するために、都内で堀内の窓口に持ち込むのではない限り、現像受付から受取まで数日を要した。
不便なところがたくさんあるように思えるが、ISO 64のコダクローム64プロフェッショナル(PKR)はとくに、優れた粒状性と力強い発色、退色に非常に強いといった特徴があり、フジククロームベルビア(RVP)が登場するまでは、一部の業務ユーザーには根強い人気があった。やや露出アンダーめに撮影したカットを無理やり印刷すると重厚な雰囲気になり、いっぽうでやや露出オーバーめに撮影するとパステル調になった。
このコダクロームは乳剤面に厚みがあり、凹凸が目立つ。そして濃度が高い。そのために民生用のフィルムスキャナーではきれいにデジタイズできない製品が多かった。さらに、独特の緑被りをする個体も多く、非常にデジタイズしにくい。
1990年代には堀内、ナショナル・フォートのようなプロラボ、あるいは新宿西口ヨドバシカメラ本店地下のフィルム売り場では、コダクロームの製造番号(エマルジョン・ナンバー)ごとに、ゼラチンフィルターを用いた色補正データが貼られていたものだ。出版社によっては無補正のコダクロームを大量にストックしてカメラマンに渡していたそうだ。
商業印刷の現場でも、コダクロームをうまく4色分解できる製版技師は職人のような方だったのではないかと思う。筆者が出版社に勤務していたのはデジタル化への移行が行われるころだった。2010年ごろになるとコダクロームを原板にした原稿は、色校正をとってもなかなかうまくいい色に印刷できなかった。コダクロームが用いられる機会も減り、おそらくベテランが製版の現場からいなくなり始めた時期だったのだと思う。
筆者はコダクロームを自分で撮影した印刷原稿として納品したことはなく、趣味の撮影で使っていたのと、勤務先で原稿として受け取っただけだ。だから、上の世代ほどのコダクロームへの強い愛着はない。むしろ、原稿として受け取ると「色の出にくいやっかいなものがきちゃったな」という記憶のほうが強い。
それでも、中高生のころに憧れた「プロカメラマン御用達フィルム」のほんの片鱗は知っているつもりでいる。雑誌の誌面で絶賛されているコダクロームを背伸びして列車を写すのに使っていたからだ。だから、黄色いパッケージに赤いゴシックで書かれた"Kodachrome"の文字、独特の匂い、そしてあのトーンには懐かしさを覚える。
それなのに、うまくデジタイズできないことを歯がゆく思っていたわけだ。
ニコンES-1と複写時の設定
レンズの選択
ニコンスライドコピーアダプターES-1を用いてフィルムの複写を行うには、ニコンのデジタル一眼レフカメラを用いる場合には、35mmフルサイズであればAI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8DもしくはAF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G EDを用いる。35mmフルサイズZシリーズカメラならば、NIKKOR Z MC 50mm f/2.8またはマウントアダプターFTZを介して上記60ミリレンズを使うことになるだろう(Zシリーズカメラを所有していないので、ES-2の指定からの類推だ)。
他社の機材でも、画面全体を高精細に写すには、高解像で近接撮影が可能で、おそらくは単体で等倍撮影が可能な標準マクロレンズを用いる必要がある。
望遠マクロレンズを使用する場合には、ES-1とレンズのあいだの距離を、連結式レンズフードなどを転用して離す必要があるようだ。
また、単体で等倍撮影ができないAI Micro Nikkor 55mm f/2.8を用いる場合にはAI オート接写リング PK-13が必要だ。他社のマニュアルフォーカスマクロレンズで撮影するにも、なんらかの中間リングが必要になると思う。
APS-Cサイズフォーマットのカメラならば、AF-S DX Micro NIKKOR 40mm f/2.8Gを用いるよう指定されている。
35mmフルサイズカメラで通常の50ミリレンズ、APS-Cサイズフォーマットカメラで通常の35ミリレンズにES-1を装着しても、中間リングを使うなどしない限り、最短撮影距離でもピントが合わないはずだ。また、絞り値を大きくしても解像感がものたりないだろうし、タル型収差もあるだろうから、お勧めはできない。
ES-1は古くからあった製品のようで、本来はMicro Nikkor Auto 55mm F3.5をはじめとする55mmマイクロニッコールレンズで使うものだろう。なぜそういえるかというと、レンズ先端にねじ込む直径が⌀52mmだから。35mmフルサイズカメラを使う場合には、オートフォーカスレンズのAI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8DもしくはAF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G EDのアタッチメントサイズは⌀62mmなので、「BR-5リング」を使用するように指定されている。だが、BR-5もすでに販売終了しているので、サードパーティ製の62mm-52mmステップダウンリングで代用できる。筆者はマルミ光機製のものを用いた。
ストリップフィルムホルダーを用意する
ES-1はマウントに入れたポジフィルムの複写を意図しているため、ストリップフィルム(マウントに入れられていないフィルム)を撮影する場合には、フィルムスキャナー用のストリップフィルムホルダーを代用するか、厚紙やプラ板などでホルダーを自作する必要がある。筆者はLS-4000ED用のストリップフィルムホルダー「FH-3」を用いた。
カメラの設置
マイクロニッコールレンズを装着したボディを三脚に固定し、ES-1をレンズ先端にねじ込み、ES-1の伸縮部を伸ばしてフィルムを挿入する。伸縮部を伸ばさないとピントが合わない。個体によってはこの伸縮部が動きやすいものもありそうだ。その場合は、フィルムをセットしてからパーマセルテープ(シュアーテープ)などで固定しよう。
光源はスピードライトが便利
光源はライトボックスやLED照明でもいいが、筆者はクリップオンのスピードライトを「TTL調光コードSC-29」を介して用いた。シンクロケーブルは純正のTTL調光コードではなくてもかまわない。ワイヤレス調光できるならば、そのほうがスマートかもしれない。光源はスピードライトを用いるほうがライトボックスなどよりも色みが安定しそうだし、光が強いために露光時間も短くすむ。じっさい、スピードライトの焦点距離を24mmに設定して1/64のマニュアル調光で発光させても、カメラ側のシャッタースピードはX接点の1/200秒で撮影できた。なお、スピードライトとカメラの距離は撮影しながら調節した。
露出とWB、絵作りの設定
カメラ側の設定は、フィルムのカーリングの可能性があっても回折現象を避けるために、せいぜい絞りはF11からF16にすべきだろう。ピントと絞りの変更ができるところはフラットベットスキャナーよりも優れている。そして、ライブビューで拡大表示させながら慎重にピントを決め、シャッターボタンを押す際にぶれを生じさせないように、ライブビューのまま露出ディレーとリモートケーブルを使いながら露光している。もし、先幕電子シャッターや完全電子シャッターを使用できるカメラで撮影するならば、それらを用いたい。
筆者が用いたのはNikon Dfだ。ピクチャーコントロール:ニュートラルにしてWB:フラッシュで撮影した。RAW形式で撮影し、Adobe Photoshop CameraRawで現像している。コントラストの強いポジだから、カメラ側の設定でさらにコントラストを強めないようにしたわけだ。
撮影後はRAW現像ソフト、あるいはAdobe Photoshopでごみ取り、傷消しなどをふくめて仕上げる。このごみ取りと傷消しは少々手間がかかるが、フィルムスキャナーでもコダクロームで赤外線ごみ取り機能(Digital ICE)を使える機種はわずかしかなかった。気合を入れて頑張ろう。
なお、カメラをより画素数の多い機種にすれば、入力解像度を増やすことはできる。そのあたりは各自用途に応じてほしい。ただし、原板自体にぶれやぼけの少ない高品質でカットではないと、デジタイズした画像ももちろん高品質にはならない。
以下にデジタイズした作例を貼る。中高生だったころに撮影した写真だから、非常に稚拙なのは申し訳ない。
作例
なお、ES-1を使ったフィルムのデジタイズはコダクローム以外のポジフィルム、カラーネガフィルム、モノクロフィルムでももちろん可能だ。だが、筆者はこの手法でカラーネガ、それも退色したカラーネガをうまく処理する技術をまだ身につけられていないので、ここではまだ説明できない。カラーネガのデジタイズをされる方は、Google検索をかけるなどして詳細な説明をされている方の記事を参考にしてほしい。カラーネガはまずきれいにネガポジ反転させるのに手間がかかる。さらに、部分的なレタッチはAdobe Photoshopでマスクを駆使して修正するほかない。
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