AI Nikkor 85mm F1.4Sで撮る薄暮の川越一番街「川越百万灯夏まつり2024」
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AI Nikkor 85mm F1.4Sとは
かつて、ニッコールレンズにはAI Nikkor 85mm F1.4Sという大口径中望遠レンズがあった。Nikon F3が登場してAI-Sレンズシリーズが展開し始めた1981年(昭和56年)に発売されたものだ。当時は「Ai Nikkor 85mm F1.4S」という表記をしていた。ニッコールレンズのAI-Sシリーズ望遠レンズではもっとも開放F値が明るいレンズだった。別名「ポートレートレンズ」とよばれたとニコンイメージングWebサイトにある。レンズ構成は5群7枚。近距離補正方式を採用し近接撮影時にも画質低下を抑えているという。
『ニッコール千夜一夜物語』には2024年3月に更新された第89夜にこのレンズの話がある。佐藤治夫さんによれば、ゾナータイプとガウスタイプを組み合わせた変形ガウスタイプなのだそうだ。フィルター径⌀72mmと堂々とした大柄のレンズだ。2024年のいまとなっては、⌀77mmや⌀82mmのレンズもめずらしくはない。だが当時は少々目立つ大口径レンズだった。
この前玉が大きく重いことは80年代から90年代に企画されたAF化の際に困難があったようだ。この光学系では高速でAF駆動させることができなかった。そのためか、あるいは描写のちがいがあったためか、ニコンIF方式を採用したAIAF Nikkor 85mm F1.4D(IF)が1995年に発売されても2003年ごろまで販売継続されていた。
マニュアルフォーカスの一眼レフ用ニッコールレンズには85mm F1.8(Nikkor-H Auto 85mm F1.8(1964年))は古くから存在した。だが、F1.4のレンズはずっと登場しなかった。このレンズはおそらくはヤシカ/京セラの一眼レフシリーズCONTAX RTS用Carl Zeiss Planar T*85mm F1.4 AEG(1975年)に刺激されて、対抗製品を用意しようという意図で登場したのではないか。ちなみに、キヤノンも1980年にNew FD85mm F1.2Lを発売している。
F1.4の絵のはかなさとF2.8の絵が好き
私はこのレンズを1989年(平成元年)に手に入れた。それ以来ずっと所有している。「ずっと使い続けた」わけではない。それどころか、比較的最近になってこのレンズをようやく「使える」ようになったというところ。中高生のころはこのレンズの「よさ」がわかっていなかった。
このAI Nikkor 85mm F1.4Sはぼけに注意を払い、球面収差を完全補正にしているところに特徴がある。マニュアルフォーカスのAIニッコールレンズは絞り開放でも高い解像感を持たせるためか球面収差を過剰補正にした製品が多い。『アサヒカメラ』ニューフェース診断室(1982年5月号)にはF1.4Sは「完全補正」であり、いっぽうで同時代に存在したAI Nikkor 85mm F2(1977年(昭和52年))およびAI Nikkor 85mm F2S(1981年)は「過剰補正」とある。ただしF1.4Sも近距離では過剰補正になる。
AI Nikkor 85mm F1.4Sは無限遠ではなくカメラから数メートルの距離での「ポートレート領域」(撮影距離約2.7m程度)で最良の性能を発揮するようだ。したがって絞り開放でもにじみが少ないものの、無限遠での描写は絞っても解像感はそう大きくは向上しない。絞り開放では被写体周囲にハロがとりまくし、パープルフリンジも発生する。だが、現代のレンズにはないような淡くはかない描写をする。そしてF2からF2.8に絞るとハロも消えて、ピント面が浮かび上がるような絵になる。
こういう特徴はフィルムカメラで使っているころには、私にはつかみきれなかった。デジタルカメラボディに装着してライブビューなどで等倍表示をさせながら撮影するようになって気づいた。
この特徴をいかして、いまはおもに夜の撮影に用いている。最近撮った、川越百万灯夏まつりの飾りつけがなされている川越一番街の写真を以下お目にかけたい。
レンズフードを工夫する
AI Nikkor 85mm F1.4Sに限らないが、デジタルカメラの登場以前に発売されたマニュアルフォーカスレンズは、現代のレンズと比べると逆光耐性が低い。私の持っている個体は「ニコンスーパーインテグレーテッドコーティング(SIC)」が施される前の個体であるせいか、付属する純正のねじ込み式フード「HN-20」では短すぎて有害な斜光線を切ることができない。
いろいろ試してみていま私が使っているのは、72mm円偏光・偏光フィルター用のねじ込み式フード「HN-13」(旧製品)だ。これは⌀86mmの金属製フードで、サードパーティ製の86mm-82mmステップアップリングを使ってニコンの「ゼラチンフィルターホルダーAF-2」(旧製品)にねじ込んで使っている。ゼラチンフィルターホルダーを使っているのは、ここに必要な場合にフレアカット用マスクを使うためだ。
もちろん、事前にテスト撮影を行って、この長さのレンズフードでも画面四隅がケラれないことは確認済みだ。最大絞り値(最小絞り)にして白い壁面や青空をライブビューで撮影するという方法だ。
デジタルカメラでピントを追い込む
AI Nikkor 85mm F1.4SはNikon Dfボディと組み合わせている。アダプターを使わずに使用できて外観もよく似合うからこそ使っている。私のDfはファインダースクリーンを私製改造してF6用のものに交換してあるが、老眼が進んだ私の目には薄暮の状況で85mm F1.4の絞り開放でのピント合わせは、光学ファインダーでは難しい。
そこで、薄暮の撮影ではライブビューで撮影している。Dfに限らず、主要なニコン一眼レフおよびZシリーズでも可能な設定だが、ライブビュー時(Zシリーズではファインダー撮影時)の「OKボタンの機能」を「拡大画面との切り替え」にし「等倍(100%)」に設定してある。この設定を行うと拡大ボタンを押さず「OKボタン」を押すだけで、選択しているAFエリアを等倍表示する。「カスタムメニュー」の「f:操作」にあるはずだ。
ちなみに、露出設定はマニュアル露出で「F1.4・1/125秒」にして「感度自動補正」をISO100から1,600に設定してある。RAWデータで撮影しAdobe CameraRawで現像時にAIノイズ除去を用いた。ピクチャーコントロールは「スタンダード」(Adobeでの現像時に「カメラスタンダード」に)。WBはほとんどが4,000Kだが、赤みを活かすために5,000Kで現像したものもある。
色収差は画質に何ら貢献するとは思えないので、現像時に手動で消している。
言葉で説明するよりも写真を見ていただくほうが早いかもしれない。1980年代のレンズであるからそうそうクラシックな描写ではない、あえていえば「モダンクラシック」とでもいうべきか。レトロな被写体にはよく似合い使いやすいように思っている。
作例
ブログにも別カットを掲載しました。合わせてご覧くださいませ。
【撮影データ】
Nikon Df/AI Nikkor 85mm F1.4S/F1.4/1/125秒/ISO AUTO(100〜1,600)/4,000K〜5,000K/ピクチャーコントロール:スタンダード/RAW+JPEG/Adobe CameraRaw
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