階段下のコイちゃん

小さい頃、サンタさんに白い犬のぬいぐるみをもらった。
そのぬいぐるみは腹の部分に単三電池を入れるところがあり、電源をつけると「ワンワン!」と鳴いて前進するぬいぐるみだった。
大きさは30センチくらいだろうか。
小さな私が抱きしめるのにちょうどいいくらいのサイズだった。
しかしさわりごこちはゴワゴワしていて、内部は機械なので硬く、とても気持ちいいとはいえなかった。

私はその犬のぬいぐるみに「コイちゃん」と名付け、毎日一緒に遊んでいた。
兄が一緒の時は、コイちゃんを本物の生きている犬のように動かしてくれた。
(あれはどうやってたんだろう)
コイちゃんの住んでいるところは、階段の下にある物置部屋だった。
イメージでいうと、ハリーポッターのハリーの部屋のようなところだ。
(外国かぶれした我が家にはあれとおなじような場所がある)

毎日一緒だったので、真っ白だったコイちゃんは次第に黒ずんでいった。
私には別の友達も増え、コイちゃんと毎日遊ぶこともなくなっていった。

ある日、階段下の物置部屋からコイちゃんが消えた。
すでにコイちゃんと遊ぶことがなくなっていたのに、コイちゃんがいないことに気が付くと途端に恋しくなった。
母親に泣きながら問い合わせると、「北部清掃工場」と言われた。
ホクブセイソウコウジョウ。
物分かりの良い私は、なんとなくごみ焼却場なのだと悟った。
(もしくは小学生になってから社会科の授業中に、「畜生、あのときの暗号はごみ焼却場のことだったんじゃないか!」って気づいたのかも。)

今日はそんなコイちゃんが北部清掃工場へ旅立ってから、30回目くらいのクリスマスです。
私は電池を入れなくてもワンワン泣くことができるし、前進しかしてない。黒ずんではません。たぶん。

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