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妄想をエッセイに昇華する方法

(京都ライター塾 第4期アドバンスコース受講レポート 第5回 エッセイの書き方)

8人の受講生がエッセイを書き、その原稿の添削文を共有しながら解説を聞いて、質問を交えて進行していく「エッセイ講座」。ワークショップ型の実践的な内容で、ワクワクする。

講座前に、担当講師の寒竹泉美さんから、エッセイを書くための手順書が提示された。一部、内容を簡潔にしているが、それは以下のとおり。

①エッセイに書きたい、自分が体験した「気持ち」をひとつ選ぶ。
②どんな気持ちか、もっと詳しく分析し、気持ちを表す言葉だけを複数紙に書き出す。
③気持ちを伝えるために最低限必要な説明(状況・自分が何者か)を考える。
④何から伝えたら伝えやすいか。読者の頭の中をイメージしながら順番を考える。
⑤2000字以上書いたあとに、文字数を半分に削って仕上げる。
⑥他人の気持ちになって読み返し、書かれている情報を書かれている順番に頭の中で再生して、成り立つかどうか感じる。成り立たなかったら推敲。

わたしが考えていた、エッセイを構成するイメージとずいぶん違う。
書きたいテーマを決めて、そこから客観的に俯瞰するように、感情を全面に出さず、淡々と描写するのがエッセイなのかなと思っていたからだ。
ところが最初にすることは、「自分が体験した気持ちを見つけること」! 
思いもよらなかった方法を提示されて驚く、と同時に、新しい発見もありそうで、執筆への意欲が湧いてきた。

前回の講座で、講師の江角さんから寒竹先生メソッドの説明があったとき、わたしに質問があった。「どの感情について書きますか?」と。「嫉妬について、かな?」と、とっさに答えたわたし。あら嫉妬にフォーカスしちゃうの?と、自分自身に問い返したくなった。

そのときに、わたしの頭に浮かんだ嫉妬の対象は、義理の妹Cちゃんである。彼女は外資系企業の管理職で、理解あるパートナーがいて、優等生の一人娘がいる。そのうえに我が息子を、最近はグッと手懐けている。息子にまで手を伸ばさないで~、と、嫉妬している子離れできない母なのだ。

しかし、わたしは知っている。Cちゃんの努力や孤独を。それにCちゃんは、育児の悩みなどを、わたしに相談することもある。頼りにされると嬉しくなる、わたしの長女気質をくすぐってくれるのだ。何よりCちゃんを、わたしはおおいに尊敬している。彼女の的確な判断や気遣いに、何度も助けられているから。

なかなか寝付けなくて、ぼんやりエッセイの課題について考えていたある真夏の夜中。実家を離れて4カ月になる息子から、事務連絡のような短いメッセージが届いた。なぜ急用でもないのに、この時間に? と、気になったので、バカ話も交えてSNSでやりとりを続けるうちに、息子の軽い悩み相談になった。「この話は、母にしかできないから」と返信されて、わたしは機嫌がよくなる。で、Cちゃんに対する嫉妬も消えた。
我ながら、ちょろいな、と思う。

それで、嫉妬の感情を見つめることをやめて、エッセイに取り組んだ。しかし、寒竹さんの講座を受け、このレポートを書いているうちに、気づいた。もっと嫉妬という感情の推移を見つめて、エピソードを描写していくと、これもエッセイのタネになるのかも? 

テーマから入らず、気持ちにフォーカスすることで、思い出せる情景や発見があるのだな。

結局、わたしが提出したエッセイ課題は、「好き」という気持ちを見つめたら、溢れてきた妄想を交えたものになった。
わたしは子どものころから、妄想族である。気を緩めると、頭の中は妄想モードになって、勉強や仕事に支障をきたす。

しかし妄想は、辛いときや悲しいときに、気分転換ができるスイッチにもなる。だから妄想とは、上手につきあっていこうと思っていたのに、課題エッセイでは妄想と現実が交差するという、よくわからない構成になっていた。
恥ずかしいかぎり。だが、寒竹さんの指摘を生かして、その妄想エッセイをリライトしてみようと思った。

文章家の内田也哉子さんが、映画監督の是枝裕和さんが兄であったらという妄想で始まるエッセイを書いている。その話が印象に残っていて、無謀にもそんなチャレンジがしたくなったのだ。ところが、その也哉子さんのエッセイを読み返してみて、気づく。妄想部分はフィクションであることを、きちんと文中で断っている。

しかしわたしは、エッセイの文章を削る段階で、フィクションが含まれているという説明文を消していた〜

「フィクション部分は、その旨を明確に示すこと。その説明のないエッセイは、読者をだますことになる」という、寒竹さんの言葉が刺さる。

学ぶべきことは、まだまだある。

内田也哉子さんの言葉は、いつも心の深いところに届くので、大好きです。


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