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アリージャンス〜忠誠

アメリカの日系人一家と第二次世界大戦のお話し。

わたし、民族とか国とか自分のアイデンティティについてあんまり深く考えてこなくて、帰属意識なんてナンセンスだと考えていたのかもしれない。人種差別や国による差別は最低だと思っているけれど、ちゃんと深く考えてこなかったのかもしれないと思ったの。

このミュージカルは、日系一家と第二次世界大戦を題材に、アメリカで作られて、ブロードウェイでも公演され、日本に「輸入」されてきたミュージカル。

この作品がブロードウェイでかかってたってことに、すごく驚いたし、アメリカで大きな人口を持つわけではない日系人への、戦時中のアメリカからの弾圧にも触れた作品をブロードウェイが受け入れてくれてたってことに、すごく、なんていうか、愛を感じたし、ブロードウェイの懐の深さとか、考えようとする力とか芸術の普遍性にふれて、なんか本当に舞台芸術のちからを信じる気持ちになりました。あと、この作品をかけようと思ったアメリカのプロデューサーも、それから、さらにこれを日本に輸入しようと思ったプロデューサーも、芸術の力と、観客の力をちからいっぱい信じてくれて、うれしいなっておもいました。


というわけで、これからしぬほどネタバレするけど、ネタバレしてから見ても大丈夫!!海宝さんと濱田めぐみさんのお歌と、中垣内センパイ(全く一方的にしか知らないのにこう呼んでしまう兄貴感。)のダンスと、上條恒彦さん渡辺徹さん、今井朋彦さんのお芝居と、小南まゆこちゃんのかわいさで、死ぬほど新鮮に見られるから!!!

お話しは、日本にルーツを持つアメリカ人が主人公。お父さん(渡辺徹さん)が海を渡ってアメリカに来て、農場で成功し、子ども(サム=海宝直人さんとケイ=濱田めぐみさん)とカリフォルニアにいる。お父さんはサムにはロースクールに通って弁護士になってほしいんだけどサムは弁護士になりたくないの。(もう、拒否!!!大拒否!!!全然本筋と関係ないところで謎にへこむ私たち)(一緒に行った同業の海宝君ファンのお友達は幕間に「オッケーオッケー推しは弁護士が嫌い。。。よし、やめるか!!」っていう一大決意をしてた。今は気を持ち直しています。あっぶな!!)

そんな中、第二次世界大戦が始まって、日系人は難しい立場に立たされる。アメリカ政府と交渉する日系人代表のマイクマサオカ(今井朋彦さん)は、日系人を守るために日本人を強制収容所に入れることに同意する。

サムたちも、強制収容所に一家で入れられるの。アメリカで生まれ育ったサムは、自分のアイデンティティはアメリカ人だってことにあるって思って、軍隊に入れないことに意気消沈するの。サムは、自分がお父さんに受け入れられていないっていう思いがずっとあって、それもきっと、日本と言うよりはアメリカが自分のアイデンティティだって考える根底になるんじゃないかな。

日本語だとあんまりドキッとしないけど、従軍を断られた時にアメリカ人兵士に日系人た「ジャップ」っていわれるのは、ブロードウェイ版でも台詞にあって、やっぱりちょっとどきっとした。

お父さんは、日本と戦うアメリカに忠誠を誓うことはできない。そもそもおじいちゃんは日本語しか話せない。お姉ちゃんのケイは、お母さんのいない家族のお母さん代わりになっていて、家族の板挟みに心を痛めるの。

収容所ではアメリカ人の軍人が日本人を敵性人種だって考えて、あたかも罪人に接するように接する。人前で裸にして身体検査をしようとしたり、仕切りのない共同トイレを使わせたり。

収容所の中でも捉え方は様々で、この状況を「がまん」しようと考えて、収容所の対応を受け入れる日系人がいて、メンタルマッチョアメリカ人のサムは権利を主張しようと声を張り、ロースクールの学生だったフランキー鈴木(われらが中垣内センパイ)は、批判を声にして立ち上がる。

日系人代表のマイクマサオカは、日系人の安全を考えて考えて、アメリカ当局に用意された原稿の通り、「日系人はアメリカ人を善意の主人と考えている」なんて台詞を奥歯をかみしめながら読むの。

この描写を、日本人だけじゃない作り手がアメリカで作ったってことに、芸術のはば広さとか自由さとか、ブロードウェイの懐の深さを感じた。かなり露悪的に見える描写を表に出しても伝えたいことがあるって思ったプロデューサーがいて、ちゃんと受け入れられるように興業としてかけてくれたってことだもん。

もとい、それでも日系人への圧力はかわらない。で、マイクマサオカは考えたの。日系人だけの部隊を作って、その部隊が戦績をあげたらよいんじゃないかって。自殺部隊みたいになるかもしれないけど、そうしたらアメリカへの日系人の忠誠が示せるんじゃないかって。

いやここの、マイクマサオカさんの思考のねじれ方が、戦争の中で切羽詰まって、ことの軽重がわからなくなってしまう感じ、そのおかしな考えが、それしかないってなってしまうような心境とか狂気とかがものすごくよくわかって、今井さんすごかった。その後、マイクマサオカさんは自分の取った対応について苦悩するんだけど、そこも含めてぞっとする演技だったの。

アメリカ軍は、強制収容所にいる人たちに質問票を配って答えさせるの。その中には、アメリカ軍に忠誠を誓って入隊し日本と戦うかっていう質問と、天皇陛下を敵と見なせるのかっていう質問がある。踏み絵。

サムはもちろんどちらもyesと答えて、志願して入隊する。収容所で出会った恋人の、アメリカ軍衛生兵のハナを残して出征し、大きな功績を遂げてライフの表紙を飾り、アメリカの英雄に。

お父さんはどちらもNOと答えて、もっと厳しい強制労働収容所に送られる

中垣内フランキーは徴兵反対運動を展開する。サムのお姉さん、ケイ(濱田めぐみさん)も、フランキーと一緒に徴兵反対運動に。二人は愛し合い、子どももできるの。でも、徴兵反対運動のなかで捕まってひどい暴行を受けたフランキーとケイをかばったサムの恋人ハナが、アメリカ軍の銃に誤って打たれて死んでしまうの。

おじいちゃん(上條恒彦さん。すっごく素敵なの。国の宝だよね。今でもチキルームで声聞けるんだっけ?)は、収容所にとどまってケイと一緒にいるの。おだやかに、でも辛抱強く、草も生えないと言われた収容所に庭を作り、作物を植え、できた野菜をアメリカ軍にあげたりした。でも戦争が終わる前に亡くなるの。

戦争が終わってサムは家族の元に戻るけど、自分がアメリカへの忠誠を誓って死ぬ覚悟をしたのにケイやフランキーが徴兵を拒否したことがどうしても受け入れられなくて、あと、ハナが二人のせいで死んだと思って、家族の元を離れてその後暮らすの。

最後には、家族に愛されていたことを知るんだけど、彼は、自分は家族に愛されなかったと考えて生きていく。

なんか、何が自分を構成してるって考えるかってすごく個人的な問題だし、親との関係、家族との関係、コミュニティや社会との関係が複雑に絡み合ってるから。一概に外から、「人種や国でひとを区別するなんて馬鹿らしい」って言えるかってわかんないなって思ったの。こういう経験をしてきた日系人が、アメリカ社会の中で、サムみたいにマッチョに生きられるかっていうとわっかんない。人種差別をするのはもってのほかだけど、アイデンティティのせいで蔑まれた社会的に弱い人が自分のアイデンティティに誇りを持ったり、一緒に団結することは、ないがしろにできないなって思った。なんか難しい。

でも各論はわかる!!目の前のその人を大事にしよってことだね!!!それは比較的私にも簡単!

アメリカ人の目線で見た日本文化も面白かった。「がまん」っていうナンバーがあって、ブロードウェイバージョンもGamanってなってるんだけど。上を向いて前向きに我慢するの。日本人の認識では我慢って下を向いてやり過ごすことのように思えるから、やっぱり文化の捉えって違うもんだなあって。

そして海宝さんは、この間まで結構なイギリス訛りの英語を喋ってたのに今回の英語はカリフォルニアの訛り。耳がいいのかな?わたしの耳にも、英語の発音に全く違和感ないの。すごいな。あと、なんていうか日系だけど心がアメリカ人感がすっごいの。もう歩き方からしてカルフォルニアの若者!!!マッチョ!!や、悪口じゃなく。

こうやってこの演目がブロードウェイで、日本でかかって、これをみんなが受け入れていくってこと自体が、アメリカや日本にあの時代生きてきた人を認めて赦していくことだし、演劇って、それを受け入れる文化も全部ひっくるめて、人間への祝福だなって思いました。



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