【馬のこと】初めての乗馬

今、私の頭の中は、「馬」が大きな割合を占めている。

馬には、まだ数回しか乗ったことがないし、馬と密着して暮らした経験があるわけではない。

けれど、最初の1回に乗った馬との体験が素晴らしく、それが今でも鮮明に残っている。

その経験は、17歳から18歳のアメリカ留学の時。

私は交換留学生としてアメリカ人のホストファミリーに受け入れてもらい、現地の高校に通った。

英語が好きだったし、いつも目線は外に向いていて、いつか海外で英語を使った仕事をしたいと、それがかっこいいと、ぼんやりと思っていたので、祖父の所属する団体で留学生を募集していることを知り、留学を決めた。

アメリカのオハイオ州。とても広々としていて、とうもろこし畑やかぼちゃ畑が広がる、アメリカの典型的な田舎に私は1年間暮らした。

英語が得意だったとはいえ、それは日本の学校の中でのことで、全く英語を話せなくて、かつ、現地の人の会話も聞き取れない状態で行った私は、最初のホストファミリー(全部で3つのホストファミリーにお世話になった)と意思疎通が取れるまでずいぶん苦労した。

現地校には、日本人は皆無だったし、当然だけど日本語を話せる人もいない。親切なアメリカ人の何人かの女の子が、右も左もわからない小さな日本人の私と友達になってくれて、救われた。

私にとって、だけれど、その高校の生徒たちは大分幼く見えた。いい意味で、自分の言いたいことをなんでもはっきり言える人たちだったんだけど、自己主張の塊で、他人のことは何にも考えていないかのように思えた。

(今思えば、自分の思いを言葉にすることを、幼稚園の頃から教えられ、どんな内容であれ、恥ずかしがらず堂々と発言できることは、アメリカ教育の賜物なんだと思う。)

我慢、とか、遠慮とか、配慮とか、一歩下がる みたいな考え方が美とされる岐阜の田舎の家庭・教育機関で育ってきた私にとって、なんでも表現する彼らの存在は異質で、とにかくカルチャーギャップに苛まれていた。

小さなことは忘れてしまったけれど、とにかく、異なる文化の中で一定のストレスを抱え続けていた私が唯一心をリラックスさせることができたのは、月に1度、世界各国からのオハイオ州のその地区への留学生が集まって様々な議論をする「Overnight」という催しだった。

それは留学の受け入れ団体が毎月1度、1泊2日で企画していた研修のようなもので、ブラジル、チリ、コスタリカ、アルゼンチン、フランス、ドイツ、ベルギー、チェコ、スロバキア、オーストラリア、韓国、ロシア、イタリア、などなどあらゆる国からやってきた留学生が交流をする貴重な場となっていた。

留学生の皆は、文化の違いによる生活の大変さ、ストレスなど、共通して抱いている思いをぶつけ合った。また、それぞれの国の経済、社会、宗教、文化、将来像などあらゆる側面について、話し合うこともあった。

日本の政治経済、ましてや宗教のことなんかあまり考えたことなく、ぼーっとしてきた私にとって、あまりにも刺激的で、その後の私の人生に、彼らとのこうした交流の経験は、大きく影響を与えている。

このような交流の中で、一番仲良くなったのは、チェコ出身の女の子、バーバラと、スロバキア出身の男の子、ユライだった。(彼らには、留学生活が終わった後、チェコに会いに行ったくらい。チェコやスロバキアは、人の気質が、日本人と似通っているように感じた)

そのバーバラに誘われて、彼女のホストファミリーの家に泊まりに行ったことがある。そこに、4頭の馬がいたのだ。

とても小柄な馬たちで、おそらくポニーだったと思う。

バーバラのホストファミリーは、何かの事業で成功した方で、お金持ちで、教養も深く、日本にも大変関心を抱いていて、私の話をいろいろと聞いてくれた。私はお礼にと、日本料理?をご馳走したくて、何かしら作って喜んでもらった覚えがある。

そんな彼らに、私は初めて、馬に乗らせてもらった。

オハイオの郊外のだだっ広い丘のようなところにある邸宅から、馬に乗って大草原を駆け巡った。道もない、ただただ草原で、時折、木が生えていて、小さな森のようなところにも入っていった。

何もかもが新鮮だった。
自分より大きい動物に乗ること。
自転車よりも躍動感があって、視界が広くなること。
風をダイレクトに体全体に受けて、体も心も開放的になること。
自分の足より早く走れること。
乗っている感触は、ゴツゴツしているけれど柔らかく温かく、密着して信頼がおける感じがすること。
馬と心を通わせているような気持ちがすること。

馬と融合し、自然と溶け合っている感じがした。

きっと、アメリカでの生活に息苦しさ(ある種のホームシックなんだと思う)を抱いていた時に、自然と馬と、そこにいる信頼できる友人に心を癒されたということも、背景にあって、私はこの経験に、その後のアメリカ生活もずっと支えられていたように思う。

これが私の初めての馬との思い出だ。

今、私が馬に興味を抱いている、最初のきっかけは、確実に、このアメリカでの乗馬の体験だ。

それ以降、あまり馬と触れる機会はないのだけれど、20年経った今でも、今の私を支えてくれている、とても素晴らしい経験となっている。

いつか馬をここで飼ってみたいと思う。
この地の草原を、山々を馬に乗って駆け回ってみたいと思うのだ。



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