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チャービルのオムレツ

スーパーのフレッシュハーブ売場にときどきチャービルが入荷する。当番はチャービルが好き好き大好き。羽毛のように繊細な切れ込みの入ったやわらかい葉っぱ、その甘い香り、飾ってよし嗅いでよし食べてよし。「美食家のパセリ」という異名があるそうだけど、香りも味もパセリとは別物。パセリはこう、ホロ苦さとセロリに通じる塩みとがあるよね。チャービルはもっと甘くてちょっとシナモンみのある香り。アイスクリームにミントの代わりでパセリ飾ったらちょっと合わないなって思うけど、チャービルは合う、そういう甘さのある香り。甘いのに、ちゃんと塩気のあるお料理にも合う。それがチャービル。

ひと束250円ほどするチャービル

そんなわけで買ってきたお高い(ひと束248円也)チャービルを贅沢にひと束ぜんぶひとり占めして、チャービルのオムレツを焼こうってわけ。当番さんちでハーブの類を積極的に食べるのは当番さんくらいなのでね、休日にひとり分だけこしらえて食べるシークレットメニュー。

卵L玉ふたつ
牛乳大さじ1
チャービル微塵切りひと束分
塩親指と人差し指でひとつまみ
粗挽き黒胡椒ふた振り
植物油大さじ1
有塩バター10g

微塵切りチャービル

何はなくともまずチャービルを微塵切り。茎も葉も全て端から微塵切り。刻みながら思うのは森茉莉の随筆『卵料理』に登場する「パセリのオムレツ」のこと。

パセリのオムレツ
これはフランスのオムレット・オ・フィーヌ・ゼルブの日本流たまぢ、フランスのは香(にお)い草入りオムレツといって、いろいろな匂いのいい葉類を入れて焼くのである。ただパセリを青い汁が出るほど細かく刻んで卵にまぜて焼くだけである。

森茉莉『卵料理』

森茉莉に出会ったばかりの12歳の頃、この「パセリのオムレツ」の元祖であるところの「オムレット・オ・フィーヌ・ゼルブ」にどれだけ当番が憧れたことか。オムレット・オ・フィーヌ・ゼルブ Omelette au fines herbes, 当番はフランス語がわからないが、「au」は多分「カフェ・オ・レ」の「オ」であろうからおそらく「と共に」、「fines」が「細かい」、「herbes」が「(複数の)ハーブ」であると推測される。フランス語よりは馴染みのある英語に変換すれば Omelette with finely chopped herbs 微塵切りハーブを入れたオムレツ……とでもなろうか。

当番はまだ、本式のオムレット・オ・フィーヌ・ゼルブを食べたことがない。森茉莉が「色々な匂いのいい葉類を」とだけ書いているフィーヌ・ゼルブの内訳は、スパイス類を取り扱うS&B社の解説によれば「チャービル(仏名でセルフィーユ)、フレンチタラゴン(同エストラゴン)、チャイブ(同シブレット)、イタリアンパセリ(同パースレー)を細かく刻んで混ぜ合わせたもの」。ハーブ栽培に凝っていた中学・高校時代の当番、フィーヌゼルブに使われるハーブを全て庭で育てられないかと企んでいたなあと懐かしく思い出す。あの頃、田舎のスーパーにフレッシュハーブなんか入荷しなかったからね、種苗会社のカタログから種を買って実生苗から育ててたのね。エストラゴン(タラゴン)の種がね! 手に入らなかったの! そしてセルフィーユ(チャービル)はね! 枯れたの! シブレット(チャイブ)とパースリー(イタリアンパセリ)はよく育ってくれた、特にイタリアンパセリ(葉がクリクリしてない平たいパセリね)はよく増えてくれて、いい子だった。

あれから四半世紀経って、この北関東の片田舎でもスーパーで新鮮なチャービルを買えるようになったのはありがたい限り。なお、買ったチャービルは福島県産です。やっぱりねー、ちょっと寒いくらいの土地の方がチャービルよく育つらしいのねー。

そんなわけで未だに本式のフィーヌゼルブ四種を同時に手にしたことのない当番は、本日はセルフィーユ(チャービル)100%のオムレツを焼く。オムレット・オ・セルフィーユ。こういう言いかたで合ってるかわからないけれど。

卵・牛乳・チャービル

引くほど大量のチャービルを引くほど細かく刻んで、L玉の卵ふたつに混ぜる。牛乳を入れるのは水分を増やして凝固時間を遅らせるため。別に豆乳でも生クリームでも構わないし、なんならただの水でも構わない。塩ひとつまみ(親指と人差し指で)、胡椒は好みの量。当番の好みは瓶からふた振り。

オムレツ用の小さいフライパン(当番は直径18cmを使用)へ先に植物油大さじ1を入れて熱し、植物油の粘度がゆるんでサラサラになってから有塩バター10gを入れる。引くほど油が入るが引いていてはオムレツを焼けない。バターと油はオムレツの味と柔らかさのうちなのでケチるとただの卵焼きになってしまう。カロリーが怖くてオムレツを食えるか! いや怖いけども! だからたまーにしかできないんだけども!

バターが溶けて泡がブクブク立ったら卵液を入れる。耐熱性のシリコンべらでボウルをこそげて残さず入れる。そして同じシリコンべらでフライパンの卵液を外から内へとたえずかき混ぜ鍋肌から剥がすようにしながら半熟になるまで焼く。フライパンの手前から奥へと卵を寄せていって、縁の曲線を使って木の葉型にかたちを整える。そして皿にひっくり返し、

失敗

はい皿に出すのが早すぎたー!成形失敗オムレツ決壊。しかも焼き目が茶色くついてしまった。しばらく胃弱デイズでオムレツを焼いていなかったから腕が落ちたでござる! 無念!

……まあ味はいいのよ、味は。当番が当番用に好みの味付けで作ったんだから。卵が固まっていなくて液状のままの部分もパンで拭ってぜんぶ食べました。おいしゅうございました!

後で胃のキャパシティオーバーでお腹を壊すかもしれないけれど、たまにはお腹を壊してでもオムレツを食べたい日というものがある。

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