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モーリス・ルヴェル『夜鳥』を買えた

いきなり冷え込むじゃないのよ、と朝からボヤく連休明けの当番です。連休前は半袖シャツ一枚で大汗かいていたのに、今朝は同じシャツに薄い上着を重ねないとちょっと寒い。シャツ一枚で汗もかかず寒くもない季節はいずこへ。

さて本日の話題。およそひと月ほど前にTwitter(自称X)でモーリス・ルヴェルの『夜鳥』(田中早苗訳 創元推理文庫)が「裏表紙の紹介文が格調高すぎて読めない」と話題になっておりました。当番も初見ではとても意味が取れなかったので辞書サイトを渡り歩いて訳してみたまとめ記事がこちら。

そのモーリス・ルヴェルの『夜鳥』、先月は一時的に在庫切れでした。絶版ではないことに望みをかけて待つこと三週間、復活してきた在庫一冊を確保できたよー。嬉しいなあ。逢いたかったよ『夜鳥』!

難解なのは裏表紙の紹介文だけで、扉の紹介文はやや易しめ。

仏蘭西のポオと呼ばれ, ヴィリエ・ド・リラダン, モーパッサンの系譜に列なる作風で仏英の読書人を魅了した, 短篇の名手モーリス・ルヴェル。恐怖と残酷, 謎や意外性に満ち, ペーソスと人情味を湛えるルヴェルの作品は, 日本においても〈新青年〉という表場合を得て時の探偵文壇を熱狂させ、揺籃期にあった国内の創作活動に多大な影響を与えたといわれる。本書は, 渾身の名訳をもって鳴る春陽堂版『夜鳥』全篇に雑誌掲載の一篇を加え, ルヴェルに関する田中早苗の訳業を集大成する。忘れ難い仏蘭西の鬼才を簡明扼要の筆致で醸し出す妙趣と, 彼に捧げられた斯界の頌歌をご堪能あれ。

創元推理文庫版『夜鳥』扉より

うん、難しくないですね。「簡明扼要」の「扼要」だけ調べました。簡潔で明快、要所をよく掴んで(扼して)ある書きぶりが「簡明扼要の筆致」。「扼」は「切歯扼腕」の「扼」。

目次をチラ見せ。本篇の後についてくる寄稿のラインナップが豪華。そして後ろから読んでいって訳者の田中早苗が男性であったことに驚く浅学当番。本名・田中豊松、明治17年生まれ昭和20年没。

本文は旧仮名遣いを新仮名遣いにしてあるので「ちょっと古風ではあるけれど現代日本語だな」という感覚で読めます。「衣嚢(音読みなら『いのう』)」と書いて「かくし」とルビを振ってあったり(服についている袋、ポケットのことですね)、カーテンを「窗掛」と表記してあったりはするけれど、森茉莉愛読者の当番には特に抵抗なく読めるレベルです。

『夜鳥』収録作のうち『空家』だけが岩波少年文庫『最初の舞踏会』にも収録されています。訳文の違いを確認するため、また図書館で『最初の舞踏会』を借りてきました。読み比べが楽しみ。

お昼に一篇、移動中の電車で二、三篇とちびちび読み進めています。ひとつひとつの話が独立している短篇集はまとまった時間がとれないときでも読めるところが好きです。

いま全体の三分の一ほどを読んだところ。現時点では『幻想』が好きです。あらすじを少しでも書けばネタバレになってしまうほどの短い物語ですが、ちょっとアンデルセンの暗めの話を読んだときと似たような感覚があります。『マッチ売りの少女』だとか『絵のない絵本』だとかの雰囲気です。

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