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「須田景凪 HALL TOUR 2021 "Billow"」を刮目した話



景凪兄貴「久しぶりだなゲロ豚共ォ!!? 地゛獄゛へ゛よ゛う゛こ゛そ゛ォーーーーーッ!!!!!」

客「う゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!」




 こんにちは、余白です。↑の煽りはフィクションです。須田景凪さんは春の凪いだ海の如く穏やかなミュージシャンです。間違ってもゲロ豚煽りなど致しません。

 先日、須田景凪初のホールツアー「須田景凪 HALL TOUR 2021 "Billow"」に参加してきました。

 昨年のはるどなりツアーが中止の憂き目に見舞われてから、およそ一年ぶりとなる今回のライブツアー。

 わたくしはオンラインライブ"催花"しか須田ライブ経験ナシ&ホールライブほぼ経験ナシ&コロナ禍でのライブ経験全くナシ、という謂わば「経験ナシ三重苦」とでも言うべきどうすりゃいいんだべか? 的な状態で臨んだわけですがンまあ~~~~最高だったっすよね。案の定ね。どーせ須田さん最高のパフォーマンス披露するんでしょ知ってると思ってましたが想像を遥かに上回るトンデモねえモンを見ちゃったね。

 もうね、尊いだとかしんどいだとかそういうレベルじゃないから。激熱過ぎてぺんぺん草も生えねえ焦土と化してたからね一面。感激です!!!

 感激ついでにいっちょライブレポ書いてみっか、つーことでこうして筆を(マウスを)執っています。
 東京公演2days参加だったのですが、追加公演の方が良席だった&何となく盛り上がってた気がする、という理由で追加公演中心のレポでございます。
 ノリと勢いとオタク特有の臭い立つなんかの煮凝りめいた文章のうえ、ところどころ記憶ブッ飛んでる部分あるのでMCのタイミングとか色々曖昧だと思います。あと例によって長い。「非現実の王国で」張りに長い。ご了承ください。
 そして清々しいほどセトリのネタバレしまくってるので、五月の戦(※ライブの事)を控えている戦友(※須田ファンの事)の皆さんは重々ご注意くださいますようお願い申し上げます。

 それでは共に生きていこー!





 ふっと照明が落ちた時、血の躍る心地がした。

 緩やかな傾斜に沿って連なる無数の客席、高い天井、揺蕩うスモーク。人工の闇に包まれた会場は巨大で、その場にいるだけで何やら「圧」の様なものに呑み込まれてしまいそうだった。
 千人は軽く超えているであろう観客たちは、このご時世ゆえ一席ずつ空けての着席で、全員判で押した様に大きなマスクを着けている。それでも、彼らの弾む気持ちは確かに伝わってきた。声量を極力抑えたはしゃぎ声がぱたりと止んだ今、彼らの背筋は奇妙な緊張と静かな期待に凍り付いている。

 素顔を見たこともない。ましてや話したこともない。
 しかし、ある一点でこの場にいる全ての人間は繋がっている。

 ステージには楽器や諸々の機材がセットされ、自分達を使ってくれる人間の登場を今か今かと待ち構えている。よく見ると大きなソファが設えてあり、ライブグッズの白いTシャツとフェイスタオルが無造作にかけられていた。私の脳裏に、昨年のオンラインライブ"催花"の記憶が鮮やかに蘇る……今回も、あのソファに座って歌うのだろうか。
 その後ろ、壁面には大小様々な立方体オブジェがアシンメトリー状に配置されていた。そういえば、客席の後方に様々な機材やディスプレイのセットされた、小要塞めいた一角があった。おそらく、あの要塞からオブジェに映像を投影するのだろう。

 瞬間、澄んだ音が静寂を打った。

 ハッとステージに目を向ける。例のオブジェに朧な光が灯り、不思議な映像――水に溶かした絵の具の滴が、ゆっくりと水中を揺蕩う様な――が映り始めた。古いブラウン管テレビのスイッチが数十年ぶりに押された、そんな趣だった。
 静かなインストゥルメンタルは次第に幾重にも音を重ね、びりびりと脳髄を揺さぶる重低音へと変化してゆく。同時に、オブジェの映像は渦を巻き、薄靄の中を電流が走り、我々のよく見知ったあのアルバムのアートワークめいた色彩を魅せ始めた。
 会場が青の濃霧に包まれる。観客は一人、また一人と立ち上がった。重低音は暴力的なまでの大音量である。私も立ち上がった。灼き切れそうなほど、内臓が熱かった。

 重低音が一際深く響いた瞬間、ステージ袖からメンバーが登場した。

 現れたのはAwesome City Clubのモリシー氏(Gt)、雲丹亀卓人氏(Ba)、矢尾拓也氏(Dr)の三人。ファンには見知った馴染みのメンバーの登場に、一瞬、会場が歓喜に弾けた。
 だが……"彼"がいない。このライブの主役がいない。いくら目を凝らしてみても、ステージ上に"彼"の姿はなかった。
 メンバーがそれぞれの持ち場に着く。準備は全て整ったらしい。だが未だ、主役は現れぬ。

 一体、いつ現れるのだ、"彼"は?

 その時、私の視界が白い影を捉えた。

 息を呑んだ。時が止まった。影は、割れんばかりの拍手など気にも留めてない風にゆったりと歩んでいる。品の良い大きな猫が、ふいっとステージに迷い込んでしまった。そんな気まぐれな調子で、影の周りだけ明らかに空気の質が違う。
 私は目を見開いた。腹の底から熱を帯びた感情がせり上がる。心臓が痛いほど高鳴った。

 あのふわふわと揺れる茶色の髪は、
 骨張った華奢な手首は、
 獣の様に丸まった背中は、

 "彼"が歩みを止める。ステージの中央、眩いライトに照らされた主役の座。
 マイクに手をかけ、"彼"はふっと顔を上げた。冷たい眼光で客を射抜くのは…………




 須田景凪だァーーーーーーッ!!!!!!!!




 オタクは開幕早々卒倒寸前。須田は素知らぬ顔で歌唱開始。

 鮮やかな歌声が響き渡る。記念すべきオープニングナンバーとして選ばれたのは「Vanilla」。アルバム『Billow』のトップバッターにもなった特別な一曲、今夜の始まりはこれしか考えられない。俺は、屍と化した!

 内臓を抉り出す様な重低音が会場を揺らし、たちまち観客を異世界へと引き摺り込む。『Billow』発売前に公開されたインタビューで、記者が†漆黒の低音†と本楽曲を称していたが、まさしく漆黒の渦中に呑まれるかの如く、一種荘厳とも言える異様な迫力がそこにあった。
 もうさ、低音の分厚い束が鳩尾目がけて重たい一発を繰り出してくるのよ。それも次々と。ラスサビ前のドラムなんか、まるで会場全体が脈打つかの様だったからね。今思い出してみてもあの音はヤバかった!!

 そして須田景凪の歌唱も悲痛な絶叫めいていて、凄まじい迫力でありました。
 顔を歪め、荒く肩を揺らし「なあバニラ」と叫ぶ姿は私の知っている「クールで」「チャーミングで」「少しシャイで」「お洒落で」「おっとりしていて」「いい感じのヘアバンド買ったら給食当番みたいになった」須田景凪とはまるで違う人間に見えた。その姿にのどかな様子は欠片もなく、鬼神めいた凄みが歌となって全身から放たれ、彼の命すら削っているかの様だった。
 鋭利な緊張、この公演にかける想い。言葉にせずとも伝わる情熱を、彼はまざまざと我々観客に魅せ付け、この空間に存在し得る全てを圧倒した。これはあからさまに解釈違い。無論、イイ意味で。最ッ高FOOOOOOOO~~~~!!!

 ただでさえ憧れのアーティストと同じ空気吸ってるってだけでも成仏案件なのに、それに加えて未だ知らぬ激カッコイイ一面垣間見ちゃったとかこらもう事件でっせ皆さん。
 バルーンの存在を知ってから五年余り、須田景凪という漢を本格的に推し始めてからおよそ三年余り。漸く生で刮目したその勇姿は均整に取れ、気だるげながらどこか泰然とし、そんでもうハチャメチャにクールでございました。普通に眉毛抜けそう。抜けた。

 あと曲と須田氏の迫力も然る事ながら、演出も悍ましくて大変に素晴らしかったですね「Vanilla」。
 立方体オブジェに投影された映像はまさしく"渦"。神経がかさつきそうなほど不気味で、特にサビ、暗闇からじわりと浮かび上がる血の様にどす赤いモチーフにぞくっとしました。「なあバニラ」でライトガンガンに照らすのではなく、逆にバッと暗くなるのも良いですね~~~。

「ありがとう……」


 歌が終わり、大きな拍手の間から聞こえた声は枯れた様な吐息交じり。その地声はイケボであった。いつも思うんだけどさ~、ハイトーンな歌声とのギャップがほんっと良いよね、須田景凪はね、マジで。このギャップだけで米食えるってレベルで猛烈に推せます(ちなみに須田氏、歌終わる度にこの「ありがとう」を言ってくださいました。低音カッコイイヤッター!)

「須田景凪です。今日はよろしくお願いします」


 ここで手短に挨拶を済ませる須田景凪。その地声はイケボだ。

 MCもそこそこに続いた楽曲は「飛花」&「veil」
 
どちらもドープな「Vanilla」とは打って変わり、高いBPMで突き進むアッパーなロックナンバー。本領発揮とばかりに繰り出される須田さんのハイトーンボイスに合わせ、観客が一丸となって腕を振り上げ、軽やかにクラップする様はまっこと美しい光景でありました。

 演出もまた実に美しい。曲の展開に合わせ、季節の移ろいめいて表情を変えるライトはドラマティックかつスリリング。特に、双方のサビで天井を縦横無尽に駆け回る花モチーフのライト(チェルシーのパッケージみたいなの)が美しくもポップな造形で可愛らしい。須田氏やたら花に頓着してる感否めないけど、ロックナンバーにこんなファンシーなライト使うとかお洒落が過ぎますね。

 音はロック然として激アツも激アツなのに、演出は繊細かつ美麗。「Vanilla」から端を発する須田景凪の世界観、いや~魅せられたね!


「改めまして須田景凪です。声が出せないなどちょっと規制のあるライブですが、楽しんでいきましょう」


 短いMCに続いて披露されたのは「MUG」。地声はイケボであった。

 色々と問題児揃いな『Billow』の中でも一際異彩を放つ本楽曲。透き通った光はサイケデリックな毒々しいライトに変貌し、会場は場末のネオン街めいて猥雑極まりない空気の中へ真っ逆さま。
 それはまるで、憎たらしい鶴の跋扈する異世界に入り込んだかの様だった。もう私の周りにいた人達揃いも揃って例の鶴ステップ踏んでたからね。普通に地獄みたいと思った。
 変なステップを踏む観客に構わず、苦々しい哀愁を気だるげに歌い上げる須田景凪。彼の手つきは滑稽な鶴ステップとは対照的に柔く、暗闇の中で恋人の輪郭をなぞる様な艶めかしさを帯びていた。普通に須けべ過ぎると思った。

 またぞろ打って変わって聴こえてくるは快いオリエンタルサウンド。
 イントロの二胡パートを増量した微アレンジで優雅に登場、「迷鳥」です。

 これは演出がほんと~~~~に良かった。『個人的"Billow"演出ヤバヤバだったよ選手権』開催したら強豪「ゆるる」&「はるどなり」と鎬削りまくる事必至なレベルで良かった。今も思い出す、あの鮮やかな真紅の世界!

 銅鑼めいて威勢良く響いたシンバルと共に、緩やかに舞い落ちる赤い光。天井には言語化し難い造形の幾何学的紋様が浮かび上がり、会場一面真紅に染め上げる。
 異国の城郭に足を踏み入れた様な、奇妙な夢の中に迷い込んだ様な、優美でいて蠱惑的な世界。楽曲の持つ壮麗な響きと相まって、「Vanilla」や「MUG」とはまた違う異世界感がありました。
 ラスト、壁が崩れ落ちる映像は閉鎖的な"ベッドルーム"から"世界"への繋がりが生まれた事を表しているのだろうか。こういうオタク特有の雑い深読みが出来るとこも良いっすよね!

 初っ端からクセ強めな曲が続いたものの、ここからライブは少しずつ趣を変え始めます。

「迷鳥」のイントロをアレンジした様なインストゥルメンタルが流れる中、水を飲み、ギターを爪弾く須田氏(このギタープレイの何とも言えず色っぽいことよ!)

 不意に始まったのは「風の姿」、ごく短いインストの後に続いたのは「メメント」。深淵めいた響きを帯びるドープな二曲は、"アップテンポなJ-ROCKが得意"という須田景凪のイメージを卓袱台の如く覆してくれた新境地です。クロスフェード聴いた時、「なんだこれ!?」と皆さんアレしましたよね。

 両曲共、須田景凪の湿った歌声とリンクする仄暗い演出が印象的。「風の姿」はアルバムのアートワークに描かれていた青林檎ヒツジの目を使いダークに、「メメント」は氷塊の中に閉ざされた蝋燭の火を揺らし幻想的に。派手さはないものの、冷ややかな宵の底に沈む様な、奇妙な没入感を覚える演出でした。暗闇の中で爆音の重低音に呑まれる感覚、ライブならでは! って感じで最高。
 ちなみに「メメント」、クロスフェード視聴時から「これどうやって歌うんだべ」と思っていたのですが、「離れ離れだね」の部分のみ被せ(?)を使い、続く「恋模様も同様に~」を実際に歌うという手法を取っていました。
 分かり辛ぇか? 分かり辛ぇな。とにかく被せに入った途端俯く須田がげに様好しだった事実だけ覚えて帰ってくださるとオタク嬉しいです。

 曲線的な演出が多い中、「welp」では金色に鈍く輝くフレーム映像を用いた直線的な演出がなされ、アルバム中唯一のセルフカバー曲である異質感を表しているかの様。
 ズンドコズンドコしたビート、どこか和の空気を感じるサウンド、硬質なノイズがもたらす緊張感。玩具箱の中を散策している様な楽しい曲なのに、最後、大オブジェに投影された映像はがらんどうの空間に絵画めいて飾られた『Billow』のジャケット。言い知れぬ寂しさを覚えるそのラストは、ベッドルームミュージシャンが向き合わねばらぬ"孤独"を表現しているのだろうか。こういうオタク特有の雑い深読み(ry

 ここでまたぞろインスト。水を一口飲んだ須田景凪はふらふらした足取りで後方……例のソファに向かい、ゆっくりと腰掛ける。顔を伏せ、物思いに耽る横顔。ほくろ。一重瞼。そして眉毛。だらりと垂れた手首がイヤラシイ、じゃない、格好良い。休憩タイム代わりなのか、他の繋ぎに比べて少し長めに尺を取っていました。

 静かに始まったのは賛美歌「Carol」、そしてエモーショナルな哀愁漂う「MOIL」。"催花"と同じくセットで歌われたこの二曲は、内省的でありながら力強く詩情豊かなミドルナンバーという共通要素を持ちます。
「Carol」は柔らかな光の下、ソファに腰掛けしっとりと歌唱。「MOIL」は夕暮れめいた光を一身に受けながらフロントに立って歌唱、と対になっているのが印象的。怒涛の終盤に期待せざるを得ない、ドラマティックな折り返し地点でした。

「えー楽しんでおりますか? あー、三階席の奥の方まで見えますね」


 ここでMCタイム。無論楽しんでない客などいる筈もないのでオーディエンスはここぞとばかりに拍手。奥床しく笑む須田氏。地声もイケボだ。


「この歌が、少しでも皆さんの心に寄り添ってくれれば嬉しいです」


 地声はイケボである。そう言って始まったのは「Alba」。映画『水曜日が消えた』の主題歌として制作されたものの、奇しくも現在我々が置かれている状況とリンクした歌詞が印象的な一曲。
「特別な日々は要らない 在り来たりで良いと 静かに笑ってみせた」――まさしくリスナーの心に寄り添った名曲。少しどころかメッチャクチャに寄り添ってまっせ須田さん。なんだったらチョウチンアンコウのオスよろしく身体の一部と化してんじゃねえか。甘く誠実な歌声も相まって、ぼかぁココ(左胸を叩く)に響くモンを感じたね。

「少し懐かしい曲をやります」とギターを爪弾き始める須田氏。当然ながらイケボだ。

 寂しげでスローなフレーズ……何か聴き覚えがあるぞ……? 
 と、訝しんだ刹那。"あの歌詞"が彼の口から零れ落ちた。


「さよならは あなたから言った」「それなのに 頬を濡らしてしまうの」

「そうやって昨日の事も 消してしまうなら もういいよ」

―――――「笑って」



「シャルル」がキターーーーーーー!!!!!!!!



 こ、これはもしかするともしかするか? と思った矢先のキラーチューン。ここに来て代表曲かますかあ~~! 
 オーディエンスは当然の如く大熱狂。声が出せない代わりとばかりに身体を揺らし、両掌をこれでもかと強く打ち鳴らし、全身全霊で以て「シャルル」に応える。心も沸いたがクラップも沸きに沸いた。ついでに頭も沸いた。いや~やはり「シャルル」はハズせないよねえ! 大真打ちってもんです!

 躍動するギター、底から響くベース、重く激しくビートを刻むドラム。滾るBPM145。目が醒めるほどに鮮やかな歌声。会場の全てが渾然一体となって完成する境地――配信では、到底味わう事の出来ぬ感動がそこにはあった。俺は今まさに体感している。忘 我 と い う も の を ! 最高です!!(号泣)

 これほどまでにアツい時間を過ごした事が、果たしてあっただろうか。一切合切の事象が感覚の外側に葬り去られた気がした。右腕とふくらはぎは既に悲鳴を上げていたが、痛みを感じてる場合じゃない。この瞬間の一つとして見逃したくない、聴き逃したくない! 会場は大いに沸き続けた。

 おそらくこれが"Billow"のテンアゲ(死語)ポイントなのだろう……。

 そう思った瞬間、私は叫びそうになった。

「シャルル」の余韻を引き摺るかの如く掻き鳴らされるバンドサウンド。それが突如打ち消され、耳に飛び込んだのは「パッ」という奇妙な、音…………


 

れ、レドォォォォォオオオオオオオ!!!!!!!



 一体、須田景凪はどこまでオタクを沸かすのか。
 彼がボカロP・バルーンからSSW・須田景凪への転身を遂げたターニングポイント、初期を代表する激アツフルスロットルナンバー。それが! まさか!! 現地で聴けるとは!!! あ゛あ゛~~~~~~~ッ!

 真打ちは「シャルル」に非ず。「レド」こそ"Billow"の特大ハイライトなり。
 先の盛り上がりを雲の上どころか大気圏外にブッ飛ばす狂乱が轟く。もう、もう、何も言えねえ。享受した感激のまにまに腕を振り上げる事しか出来ねえ。俺は今まさに体感している。感 動 と い う も の を ! 最゛高゛て゛す゛!゛!゛!゛(発゛狂゛)


 狂乱の余韻に打ちひしがれ、何かポカーンとしてるうちに始まったのは「刹那の渦」
 
ライブもそろそろ終盤……オブジェいっぱいにアボガド6のMVが広がる。天井は蒼く透き通り、まるで海の底から水面を見上げているかの様。誰が運転しているかも分からぬ車の向かう先は、何処なのか。

 個人的に、須田景凪の音楽には言い知れぬ哀愁が漂っていると前々から思ってまして。

 激アツな「レド」にしろ湿っぽい「メメント」にしろ必ず何処かしらに物悲しさ・やるせなさが漂っているような。それは歌詞から感じ取れるものであったり歌声から受け取れるものだったりしますが、一貫して言えるのは我々受け手の日常にリンクした哀愁だという事。

 一人で全て抱えて生きていかねばならない孤独、溶けて消える希薄な人間模様。我々が日々漠然と感じている寂寞を、時に花に喩え、時に季節の移ろいを織り交ぜ、時に残酷なほど鮮烈に描き、歌い上げるのが須田景凪というアーティストだと思っています。
 何気ない日常に潜む鬱屈、不気味な感覚、二度と戻らないひとときに垣間見る刹那的な美しさ。忙しない日々の中で見過ごしがちな"何か"。それを鮮明に繊細に切り取るカメラの様な存在が彼だと。

「足りないものは何だろうな 数えればきりがない」「消えたい夜はどうしようか ひとりじゃ生きられない」

 手に余るほどの寂しさを抱えたとしても、それでも前を向くしかない。深い哀愁と少しの希望が渦を巻くこの曲は、まさしく我々の日常そのものであり、須田景凪がリスナーにあてたメッセージ。その想い、しかと受け取ったり。

 ここでようやっと来た長めのスーパーイケボタイム、もといMCタイム。

 この時わたくし未だポカーン状態だった故、何喋ってたかほぼ覚えてないのですが(実際、須田さんも「……何を話そうとしたか忘れました」と奇跡みたいな事言って観客総ズッコケを誘ってた)大体こんな事言ってたな~と大雑把に書き出します。そんで、当たり前だがイケボであった。

「本当に今回会場がよく見えていて。マスク越しでも皆さんの表情が凄く良く分かるんですよ」
「コロナの影響でチケットを持っていても大切な人のために来ない選択をした人もいたと思う。それは正しいと思うし決して間違っていない」
「このライブツアーはタイトル通り『Billow』というアルバムを引っ提げてのツアーで。多分、ここにいる人は聴いてくれた方が多いと思うんですけど……(ここで拍手が起きる)ありがとうございます」
「『Billow』は"渦"という意味のタイトルで、この世界に生きる渦中の一人として制作したもの。皆さんの気持ちに少しでも寄り添ってくれたら嬉しいな、と思いながら作りました」
「制限があるライブなのでちゃんと楽しませられるか不安だったけど、皆さんの反応を見て嬉しくなりました。これからも良い曲を作っていきます。今日は本当にありがとう」

 ゆっくりと会場を見回しながら、丁寧に言葉を紡いだ須田景凪。途中、言葉に詰まったシーンがあったものの(泣きそうに見えたが果たして)最後まで我々観客に寄り添い続けた素晴らしいMCでした。乾杯。


 あたたかな拍手の中、流れるは郷愁を誘うメロディ。
 本公演の開幕を飾ったのが「Vanilla」なら、終幕はこの曲でしか飾れない。
「ゆるる」。須田景凪、渾身のバラードです。

 静かに、言葉を噛み締める様に紡がれる歌声。いつもよりトーンを落とし、主人公の独白めいた響きを帯びるそれは、聴く者全ての胸に深く染み入った。
 ライトの色彩は緩やかに移ろう。薄明を思わせる朧げな紫、泣き腫らした様な夕暮れの朱、そして、夜の色。
 真っ暗闇の中、メンバーの傍で何かが光っていた。球状の間接照明の様なもの。先の見えない不安の中で見つけた、確かなよすがめいた光は次第に輝きを増していく様に見えた。

「ゆるる」は刻一刻とラストに向けて歩んでいく。それは、この夢の様な時間があと少しで終わってしまう事を意味していた。か゛な゛し゛い゛。か゛な゛し゛す゛き゛る゛。ライブ終わるの死ぬほどか゛な゛し゛い゛。こんなにも美しいもん魅せられたらもう二度と現実社会に馴染める気がしない。
 語彙は散ってしまい、(須田に出会ってしまった)後悔と(須田への)愛憎が渦を巻き、頭はゆるる。このオタクを右も左も分からぬミドリムシ以下の知能に落としたというのに、須田景凪は無慈悲にも終幕へと突き進むか! 鬼畜ゥ! お願いだから毎秒ライブやって……(オタクは混乱している)

 無数の光がきらめく宙を眺め、私は目頭が熱くなった。ビロードに金砂を零した様な美しい光景。人工的に作られた筈なのに、どうしてこうもあたたかいのか。

 来て良かった。心の底からそう思った。
 金色の光に包まれた須田景凪は、ただただ神々しかった。噫!

 アンコールでは「色に出ず」「パレイドリア」「はるどなり」の三曲を披露。
 この時わたくし記憶を司る脳のなんかに甚大なダメージを負ったためほぼ覚えてないのですが、とにもかくにもアツかった事は言うまでもない。
 ポップな「色に出ず」からのアッパーチューン「パレイドリア」の流れはメチャクチャ昂奮したし、ピアノソロアレンジの施された「はるどなり」も大変素晴らしかった。オタクのライフは、ゼロよ。

 あと、須田さんがアンコールに応えて登場した際、あろうことか先に待っていたモリシーさんとハイタッチをするという重大解釈違い案件発生したのも衝撃的だった。二人揃って客席に向かって手を広げるわ、おどけてみせるわ、そらもう大変だったよ。
 あのさ、クールな須田景凪がこんなバリ愛らしい事するワケがないんだよね。公式さんなに支部の同人みたいな事やってくれてんの? もっと須田景凪についてお勉強するべきでは? こういうのどんどんください。
(ちなみに、これに限らず今回モリシーさんとの絡みがかなり多く、ちょくちょく向かい合ってギターを弾いたりお辞儀し合ったりしてました。解釈違いここに極まれり。毎秒絡んで)

 そんで「はるどなり」のラストね。風雪ながれ旅よろしく盛大にぶち撒かれた紙吹雪に塗れ、初めて自然な笑顔を見せる須田景凪(これが可愛いんだまた)。東京公演初日では頭に紙片をぎょうさん付け、照れた様ににっこり笑いながら、

「恐ろしいくらいの紙っすね……また会いましょ!」

 追加公演では、

「今日はありがとうございました~~。メチャクチャ物凄い雨なので、気を付けて帰ってくださいね。また会いましょう!」
「(メンバーが消えていった下手を見やり)…………誰か、紙が頭に刺さってた様な……?」

「そういう事です」


景凪おまえホンマ(死)





 妖精を見た!

 これまで私が抱いていた"須田景凪"のイメージを根底から覆す大変エキサイティングな一時間半。迫力ある演奏と歌唱は勿論の事、それぞれの楽曲世界とマッチした繊細な演出も万感胸に迫る素晴らしさだった。
 力強さと儚さ、熱さと冷たさ。相反する二つの要素がまさに渦を巻いて溶け合い、興奮状態にあるにもかかわらず心の奥が透明に澄む様な、どこか静謐な気配漂う不思議な感覚に見舞われた。
 また派手な演出や笑えるMC、過剰なバンドメンバーとの絡みなど小手先の誤魔化しが一切なく、あくまでも"曲で勝負しに行ってる"ストイックな姿勢にも好感が持てた。ナンボJ-POPやってても須田景凪の真髄はポップよりロックにあるのだなと思い知りましたね。これはやはり天下人に相応しい器では? 国は一刻も早く須田景凪に地球と月と太陽の所有権授けるべきなんだよね。
 

 須田さんとメンバーの信頼関係が垣間見えるのも良かった~。前述のモリシーさんとの絡みもそうですが、雲丹さんが曲のあちこちでニコニコしながらクラップや腕振り煽ってるのもスーパーハイライトでした。過剰な馴れ合いをわざわざ見せずとも伝わる仲良し感。真の意味で"戦友"なんだろうな~とグッと来ましたね。

 それからようやっと目撃したリアルガチ生須田さんですが、まあね、普通に最高でしたよね。あそこまで鬼気迫る歌唱なのは予想外だったものの、口調やnot歌唱時の雰囲気はイメージまんまのゆるふわ系コンサバマイルドヤンキーでした。やはり、須田景凪は人生なんだよなあ……。
 穏やかで丁寧、野性的な気だるさがありつつ洗練された空気を纏い、鋭い目は笑うと上品に緩み、歯並びの統率力が凄い。えげつねえ上顎中切歯持ってて大層たまげたよ。
 なんだかんだ、生「そうね~」を聞けたのが一番感動したかもしれない。


 この大変なご時世、これほどまでに素敵なライブを刮目出来たのは奇跡的なこと。僭越ながら最上級の敬意と感謝を表します。
 須田景凪さん、彼を支えてくれた沢山のスタッフの方々、本当にありがとうございました。圧 倒 的 感 謝 ! !


 最後に、今回公開されたライブ写真でわたくしのハートに最もズキュウウウウウンンとキたものを載っけて締めさせていただきます(出典:https://natalie.mu/music/news/420154)

 


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景凪おまえホンマ(墓)




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