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【推し香水】を注文したら世界が憎いほど色付いた


 元々香水好きの身であるため、好きなジャンルないし人物がフレグランス系のグッズを出すと脳死で買い漁ってしまう性分だ。
 公式香水ってのはキモ=ヲタにとって至上の宝物みたいなもの。芳しい瓶の中に閉じ込められた推しの“概念”。脆弱で独りよがりなものだが、この鼻腔を通じて確かに魂を保湿してくれる。

 そんなわけで、三次元の最推しにも是非に是非に公式フレグランスを! 何だったらFCアプリのグッズ付きプランで出してくれ! と四六時中念送ってる。送ってるのだが、困った事に一向に作ってくれない。哀しいかな、潔癖症の最推しは香りものがあまりお好きでないらしい。
 なら俺が勝手に作ったるわ、もとい、オーダーしてやんよって事で遂に手を染めてしまいました。ヲタクの知らない【推し香水】の世界。

 強欲の壺なので複数のサービスを一気に利用したのですが、今回はその中でも一番有名であろう専門店の感想を書いていきます。ヲタクの“本気”(きもさ)に震えな。




#1 「Scently」について


 今回ピックアップするのはこちら「Scently」。
【推し香水】でググると真っ先に出てくる超・有名どころなので、ご存知の方も多いのでは?

 Scentlyさんの特徴は、何と言っても“推しをイメージした香水”そのものに攻撃力極振りしているという点。

 
推し香水サービスを行う香水店はさほど珍しくないけど、その殆どは「通常の香水販売+推し香水(もしくはオーダーフレグランス)販売」という形態。つまり、あくまでもメインターゲットはオタクではなく、香水にある程度精通したフレグランス・パンピなんですよね。
 ゆえに、推し香水だけを専門に取り扱うScentlyの“ガチ感”が渺茫たる香水業界の中で一際異彩を放つ事よ。オーダーの流れは分かりやすく解説されてるし、セレクトする香水は市販品ではなく自社管理の完全オリジナル品。更にCP香水や“推しが自分に送ってくれた”というシチュの夢香水まで対応可能という凄まじさ。迫害されがちな日陰の者共への支援が手厚過ぎない? これは香水屋というよりNGOでは? 匂い付きの水って何か敷居たけ~と二の足を踏んでるオタクくん達にピッタリと言えます。

 で、どうやって注文するのかといいますと、23問ある入力欄に情報入れて、あとはデュフデュフしながら到着を待たれよ。

 意外と書く事多い!? でもこれが重要なんだ。推しの性別(人外欄まであるこだわりよう!)や似合う飲み物、イメージカラーや色気の有無など、他のサービスとは一線を画すガチな質問が多数控えている。お前の解釈忠実に再現してやろうか? というアツい気概が感じられ、否が応にも燃えちまうね。
 特に大事なのは9番目で、ざっくり言えば“推しの内面について教えろ”と。

 流石に恥ずかし過ぎるので原文はまるっと省きますが、先人達が口を揃えて「解釈は事前に固めて言語化しておくべし」と言っていた理由を痛感するのは確か。ついでに怪文書と呼ばれる所以も。あれだね、書いてるうちに歯止め効かなくなって香水なのに悪臭が漂ってくるんですね。これ強火の哀しい性。


#2 実際の香り


 そして、待つ事一ヶ月。届いたのがこちら。

「IF」のぬりかべフルボトルっぽい

 APOTHIAのプロダクトを思わせるシンプルイズベストなパッケージ。はやる気持ちと少しの不安を胸に、いざ開封。

 中には10mlのオードパルファムと推しのイメージカラーを添えた香りの解説レターが。私の推しには公式のイメージカラーがないので「なんか~暖色系っつーか渋めの薔薇っぽい感じ?」とチャラ男並みの語彙力で超個人的なイメージを伝えたのだが、バキバキイカついドギツめの𝗥𝗘𝗗が襲来してしまい体調崩した。
 ぶっちゃけこの戦隊モノの主人公みたいなマッスル・レッドは解釈違いも甚だしい。グレージュやくすみピンクに限りなく近い、穏やかな薔薇色を期待していたのだが……あとサンプル画像はグラデーションだったのに何で単色なん?? 地味か???
 と思ったら、複数色選んでグラデーション仕様に出来た事を後になってから知るという。しかもカラーコード指定して良いのか! なんと。次注文する時はしっかり頼もう……。

色で失敗したとてかほり良ければ全て良し。

 この小さきボトルの中に推しの香りが……!? 数々のレビューを読み漁って「いやいやw皆さん興奮してますけどもw推しの香りじゃなくてスタイリストさんが選んだ香水ってだけですしw」と苦笑していたにも関わらず、いざ実物を前にすると己がきもさを抑えきれない。

 深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているんだね……そう思いながら手首にシュッと一吹き。

https://twitter.com/balloon0120/status/1732331665320800455

 !?

 一瞬にして世界が冬の空を抱く東京に変貌した。こ……ここは最新アー写の世界! 鼻腔を柔く刺激するハーバル調のパキッとした清涼感と清潔感、澄み切ったラベンダーがもたらす透明な儚さ。冷たく、繊細で、神経質。緊張感があり、近寄りがたいミステリアスな空気が張り詰める。だが待てよ。よーく嗅いでみると奥底にオークモスかヒノキの湿ったぬくみが感じられる……?

 と思ったのも束の間。照明が落ちるかの如く、ふっと前触れなく甘だるいローズが広がる。華やかさはあるが決して派手ではなく、むしろかなり静かで憂いを帯びた花。まるで黙っていても人目を惹いてしまう不思議な魅力を持った人物の様な──ピリリとスパイシーなエッジと苦みも感じられるし、土っぽい素朴さも確かに存在する。決して気取らず驕り昂らず、飾らない美しさを湛えた孤高の香り。
 やがて緩やかにドライダウンした時、そこは包容力を感じる静謐なぬくもりの中。陰翳礼讃の美を思わせるアンニュイな色気。

 はぇ~~あの怪文書からここまで表現出来るなんて……トップの近寄りがたいアイシーなスタイリッシュさは推しから最初に受けた印象そのものだし、ミドルで香調が一変するさまはギャップに溺れて底なし沼にドボンした瞬間。そうそう、まさしくこんな感じ。殺し屋イチで乳首焼肉するタイプ(風評被害)なんだろな~って最初思うけど、実はごっつ清楚だし優しいし意外にお喋り好きだし、ちょっぴり天然で𝕊𝕦𝕡𝕖𝕣 𝕔𝕙𝕒𝕣𝕞𝕚𝕟𝕘なとこもあったりするシャイな埼玉の妖精なんだよね。
 でも常に薄い壁を張っていて、緊張感は決して忘れない。このアクセントは……? と思ってノートを見ると、どうやら常時漂う緊張感は爽やかなハーバル香調由来っぽい。

「彼」っていう呼び方にドキドキ♂すっぞ

 ラベンダー感はロザリーナ、ローズっぽいと思ったのはゼラニウム、オークモスとヒノキはギリ当たってた。そんなに香料被ってないけどçanomaの「1-24 鈴虫」に軽さと冷たさをひとつまみして、かつEtat Libre d'Orange並みにトップ→ミドルへの変化を付けたらお前の推しが出来上がったんだぞって趣。というか中性寄りのメンズ香水っぽいな~と思ったらフゼアのニアピンっすね。

 でもフゼアにありがちな「スーツを颯爽と着こなしたオラつきハイクラス感」はなく、ミドル以降の印象は都会の片隅にひっそりと建つ洗練されたお寺の様。とても静かであたたかく、こちらの過去も痛みも全て受け入れてくれるが、相手の全てに触れる事など決して叶わないのだろうと思わせる侵し難い雰囲気。冷と温の絶妙な二面性は、彼の抱える矛盾した人生観を想起させる。或いは退廃的な歌詞の奥底に滲む弱弱しい光、明るい曲調に添えたひとさじの悪夢か。つまり推しは聖域―サンクチュアリ―ってこと。

 というかね~この解説文やばくない??
「洗練されたクールな雰囲気」「唯一無二の才能」「親しみやすい人柄」という推しを構成する三位一体を的確に掬い取ってるのが凄い。
 特に「唯一無二の才能」部分。推し香水探索において、は? 推しはこんなたんぽぽみたいに野っ原でぽこぽこ生えてる様な安い漢じゃないが??? と半ギレる事が多かったので(これはまたいずれ書く)彼の音楽における特異性をズバリ見抜いてくれたのは優秀過ぎ。FBI捜査官かよ。これは解像度8K超えてますね。

 あとね、推しの要素をさりげなく香料で表してるのも良い仕事ぶり。
 ロザリーナの香りは安眠効果と空気清浄効果があるんで不眠症かつ潔癖症の推しとの相性グンバツだし、タバコっぽさも含むアンバーは喫煙者部分の象徴、癖のある湿った土の匂いのオークモスは何かと雨に縁があるとこ&好き嫌い分かれがちな癖つよボーカルと合致。
 そしてヒノキに関しては推しの好きな香りという。Scently兄貴もしかしてガチオタだったりする? 怪文書読んでこれは……! と思い「俺が考えた最強の二次創作―香水編―」送り付けてきた? とんだ限界オタだぜ。今度サシで飲み明かそうや。


#3 総評:解 釈 完 全 一 致

 そんなわけで超・満足の結果となりました、Scently。

 あの散漫な怪文書からよくぞここまで仕上げてくだすった……! と素直に感動した。一ヶ月待ちって長ェ~と思っていたがこれは待った甲斐あり過ぎるわよ。

 あと、推し香水抜きにして単純に好きな香りなのもポイント高い。
 特に指定したわけじゃないのですが、個人的に好きなアロマティック系とウッディ系で構成されてるのがほんと奇跡的。割と癖あるから好みは分かれそうだけど、刺さる人にはものっっそ刺さる香りだと思います。そういうとこも物凄く““推し””だよね。雨天だとミドル以降の色気が仄かに強まりアンニュイな側面が押し出されるのも良い。雨の日はもっとセクシーに……!? 水も滴る良い漢ってワケ。

 不満点をあえて挙げるとすれば、トップ~ミドルはお値段以上のクオリティなのに、ラストがぼやけてやや尻すぼみになりがちな事。
 そして、一応三つまで注文可能とはいえフルボトルの販売が10mlしかない事か。ラストノートが薄いのは推しの儚げな雰囲気とギリ合致するし、日に何度も推しを着け直して♡♡♡的な嗜好でイケるけど、それで10mlはあっという間に使い切っちまうな。Scently兄ィ! 鶴瓶のミネラル麦茶サイズ出しませんか!!


総評
○解釈一致度 ★★★★★
○良い香り度 ★★★★★
○パッケージ/デザイン ★★★★
○利用しやすさ ★★★
○コスパ ★★★
○怪文書を読んだ人がいるのか……とのたうち回りたくなる度 ★★★★★

 再注文の際はイメージカラーの解像度をもっと高めたいと思います。いつだって向上心。


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