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「マトリックス」(1999年)のサントラを久しぶりに聴いて:世紀末が見た予知夢

SF映画の金字塔「マトリックス」シリーズの4作目となる最新作「マトリックス レザレクションズ」が早くも動画配信がスタートしました。

この間まで劇場公開してたと思ったのに早い、、。

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18年ぶりに新作が作られる事にびっくり。ウォシャウスキー兄弟が「姉妹」になってる事にもびっくり(今作は姉のラナ・ウォシャウスキーひとりが監督)。

、、、さておき、今回のテーマはシリーズ1作目となる1999年の「マトリックス」のサントラです。

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当時、映画の方の面白さはもちろんですがサントラにも大いにハマりました。映画視聴→サントラ購入したのも今作が初めてだったと記憶しています。

そもそも90年代後半から2000年代前半というのはアクション/ホラー系大作映画とヘヴィロック/ニューメタルが非常に深く関与した時期でした。ターゲット層が似ていたという事とニューメタルが売れ線の音楽だったという事だと思います。
あと、映画制作/配給も音楽レーベルも運営している巨大企業の場合(「マトリックス」ならワーナー)、自社所属アーティストのプッシュという側面もあるのだと思います。ただ、本作はワーナー所属アーティスト以外も多数収録されていますが。

とにかく、当時のアクション/ホラー系大作映画のサントラではヘヴィロック/ニューメタル系アーティストが軒並み名を連ね、中にはここで新曲や未発表曲、未発表ミックスが発表されることも珍しくありませんでした。劇中でもガッツリ曲が流れて、当時メタルなどの激しい音楽を聴き始めたばかりだったので興奮させられる事しきりでした。この時期の興味深いサントラ作品は沢山あるのでまた近々別の記事で書きたいと思います。

さて、「マトリックス」サントラです。今作はサイバーSFという映画のジャンルに沿って、当時のインダストリアル、デジタルロック勢の最前線を切り取った内容になっていました。それでは参加しているアーティストを曲順に見ていきましょう。

M1:Marilyn Manson「ROCK IS DEAD / ロック・イズ・デッド」

今では週刊誌レベルのかわいいゴシップではなく元嫁や元カノ達からガチで訴訟を起こされてシャレにならない状態のマンソンですが当時は「アンチクライストスーパースター」~「メカニカルアニマル」の「絶頂期」でイケイケ状態。

今曲もアッパーなビートに乗せて「ROCK IS DEAD!!!」とふてぶてしく喚く快作となっています。
本編ではエンドロールのクレジット部分で流れます。当時劇場で観た方なら最後まで席を立たずにいれば大音量でマンソンが聴けた訳ですね。

M2:Propellerheads「SPYBREAK(Short One) / スパイブレイク(ショート・ワン)」

イギリスのビッグビートユニット。当時はファットボーイスリムと並び立つ存在として有名だったようですがアルバムリリースは1枚のみで2003年に解散しています。リズムを反復させながら段々と展開していく典型的なビッグビート曲。
本編では中盤後半の激しい銃撃戦の場面で流れてます。

M3:Ministry「BAD BLOOD / バッド・ブラッド」

来ました。アル・ジュールゲンセン御大率いるミニストリー。「ΚΕΦΑΛΗΞΘ -詩篇69-」や「Filth Pig」で一躍インダストリアルロックの開拓者として名を挙げた後の時期でちょっと変革期に入りつつある頃です。具体的には、即効性のある攻撃力よりも楽曲のムードを重視したりここぞという所でアクセルを踏む緩急の使い方が巧みになっています。

M4:Rob D「CLUBBED TO DEATH(Kurayamino Mix) / クラブド・トゥ・デス(クラヤミノ・ミックス)」

オーストラリア人コンポーザーであるRob Dによるインスト曲。ダークかつアンビエントな雰囲気で、ある種のディストピア映画としての側面も持つ本作の魅力を引き立てています。何気に佳作だと思います。

M5:Meat Beat Manifest「PRIME AUDIO SOUP / プライム・オーディオ・スープ」

ビッグビートの大御所Meat Beat Manifest。プロディジーもケミカルブラザーズもNINも影響を受けてるんだとか。確かにスピーカーが波打つような深くて重いビートや浮遊感のあるヴォーカルなどは後発アーティストの作品からも聴き取れます。

M6:Lunatic Calm「LEAVE YOU FAR BEHIND(Lunatics Roller Coaster Mix) / リーヴ・ユー・ファー・ビハインド(ルナティックス・ローラー・コースター・ミックス)」

イギリスのエレクトロミュージックグループ。当時はピッチシフターと共にUKのデジタルロックシーンを担う期待株だったようです。ロックの名曲をサンプリングしたかと思うようなキャッチーかつロックテイストの溢れた一曲。グループの方は2003年に解散しています。

M7:Prodigy「MINDFIELDS / マインドフィールズ」

ここでカリスマProdigy登場。大名盤でありバカ売れした「The Fat of the Land」収録の「MINDFIELDS」を提供。特にリミックスした訳ではなくそのままのバージョンです。どこかアジアンテイストを纏いつつ、しっかりProdigy印が押された曲になっています。Prodigyはやはり展開が多彩で飽きさせない所が上手いと思いますね。

キース・フリントの悲しい逝去から間もなく3年。Prodigyの復活はあるんでしょうか。

M8:Rob Zombie「DRAGULA(Hot Rod Herman Remix) / ドラギュラ(ホット・ロッド・ハーマン・リミックス)」

待ってました。Rob Zombie!!自分がインダストリアル、デジタルロックにハマる大きなきっかけとなったアーティストです。今でこそ音楽界ではもちろん、「映画監督」としてもその評価を不動のものにしつつありますが、当時は上り調子だったホワイトゾンビを解散してソロキャリアを始めたばかり(解散とソロ始動の経緯、関連性は諸説ありますが)だったロブ。

結果としてスマッシュヒットとなるファーストアルバム「ヘルビリーデラックス」収録の「DRAGULA」のリミックスバージョン。クセになるリズムはそのままに原曲よりもスペーシーさが増してます。この時期ロブは他作品のサントラにも頻繁に参加してるんですが基本、都度新しいリミックスバージョンを出してくれて嬉しかったものです。
本編では前半部分の、治安の悪そうなクラブでネオとトリニティが初めて出会う重要なシーンで流れてます。

元々来日が少ない上に最近は映画制作が忙しくてますます日本に来てくれなさそう、、(祈・来日!)

M9:Deftones「MY OWN SUMMER(Shove It) / マイ・オウン・サマー(シャヴ・イット)」

このサントラの好きな所はただ単に曲を羅列せずにちゃんと構成を考えているところ。デジタルロックの流れが最高潮に達し、逆に言えば少し飽きてきたかな、、という所でDeftonesをかましてくるんですね。この流れが非常に良いです。

今でこそKoЯnやTOOLと並びへヴィロックのカリスマ、大御所として君臨するDeftonesですが当時は2年前にアルバムデビューしたばかりの新人。世界を獲ってやるぜと血気盛んな頃です。「MY OWN SUMMER(Shove It)」はそんな意気込みをバッチリ作品に投下できた大出世作アルバム「Around the Fur」の冒頭を飾る曲。うねるようなヘヴィネス、ウィスパーヴォイスからのブチ切れ絶叫ヴォーカルを聴かせるチノ・モレノ。「MY OWN SUMMER」という何となく切ない青春小説的雰囲気すら感じさせるタイトルと歌詞。このバンド唯一無二です。

M10:Hive「ULTRASONIC SOUND / ウルトラソニック・サウンド」

LAの音楽家Michael PetrieによるプロジェクトHiveの曲。2015年くらいまで作品リリースは続いたようですが今作での活動が一番有名なようです。箸休め的にちょうど良い雰囲気の曲。BadBrainsのヴォーカルをサンプリングで取り入れています。

M11:Monster Magnet「LOOK TO YOUR ORB FOR THE WARNING / ルック・トゥ・ユア・オーブ・フォー・ザ・ウォーニング」

まさかのMonster Magnet。ストーナーロックの代表的バンドです。ちょうどこの頃「伊藤政則のROCK CITY」でMonster Magnetの「Heads Explode」のPVを見てかっこいいなと思っていたのですがまさかマトリックスのサントラに出てくるとは、と驚いたものです。ですがこれがサントラの並びとしても映画本編での使われ方としても結構ハマってました。何かこう、新しい始まりを予感させるようなワクワクする音使いなんですよね。

ついでに「Heads Explode」も紹介
リーダーのデイヴ・ウィンドーフが怪しさプンプンで良いんですよねー。

M12:Rammstein「DU HAST / ドゥ・ハスト」

Rammsteinです。はい。カッコよすぎですね。今や言うまでもなく世界規模での成功を収めたドイツのインダストリアルメタルバンド。Rammsteinがアメリカで成功したキーワードは2つ。「映画サントラ」と「ファミリーバリューズツアー」です。

「映画サントラ」はこの「マトリックス」と「ロストハイウェイ」の2作品です。

「マトリックス」には「Du Hast」で参加。心臓を鷲掴みにするような扇情的なリズム。「お前はおれを憎んでいる」という独善的かつ厭世的な歌詞。油分ギトギトのティル・リンデマンの巻き舌ヴォーカル。すなわちインダストリアルメタルの名曲です。


「ロストハイウェイ」にも触れておくと、デヴィッド・リンチ監督の1997年の作品で、Rammsteinは自身の名を冠した「Rammstein」で参加。「Du Hast」とは対照的な重苦しいミドルテンポの曲です。ひたすら自身のバンド名を連呼する不気味さ&ルックミー的趣味の悪さが素晴らしい。


話が脱線しますが「ファミリーバリューズツアー」についても書いておきます。「ファミリーバリューズツアー」は90年代後半から2000年代前半にKoЯnが主催したフェス(2000年中盤にも散発的に何度か実施)で、当時隆盛を誇ったNUメタル勢を中心に活きの良いバンドを一堂に集めたイベントです。Rammsteinは第1回にあたる1998年に参加。顔ぶれはKorn, Limp Bizkit, Ice Cube, Incubus , Orgy, Rammstein。そう。Rammstein、異色すぎなのです。なぜ参加したのかも謎ですし、バックステージでも他のアメリカ人バンドとは殆どつるまなかったそう(当時はメンバーがあまり英語を喋れなかったというのもあるんでしょうけど)。背景はともかく、このツアーでアメリカの聴衆にガツンとかまし一躍名を挙げたのでした。

つまり1997年「ロストハイウェイ」、1998年「ファミリーバリューズツアー」、1999年「マトリックス」。この強力極まりない3連発によりRammsteinは最大の市場であるアメリカに上陸して根を下ろす事に成功し、2001年の「Mutter」で大輪の花を咲かせた訳です。

M13:Rage Against The Machine「WAKE UP / ウェイク・アップ」

サントラの最後を締め括るのはレイジアゲインストザマシーン。本編では最後の、ネオが電話BOXから出てくる場面で流れます。時代を変えた名作の誕生をフィナーレで高らかに宣言しつつ続編を予感させるシーンで流れるRATMはカッコよかった!!本編が「wake up neo」の一文から始まった事を考えてもマトリックスシリーズを象徴する曲と言えるでしょう。

ちょうど同じ時期に格闘技イベントPRIDEのテーマソングとして彼らの「ゲリララジオ」がかかりまくってた事もありレイジは「この頃の音」として心に刻まれています。


以上、全13曲。頭を振れる曲あり。ムーディー&ダークに浸れる曲ありとバラエティ豊かで、映画の出来の良さと相まって当時聴きまくってたのでした。当時は単純にアルバムとしてのカッコよさにシビれてましたが、今になってみれば、現在の大御所がまだ青臭さや前のめり感満載だった頃の全開アドレナリンやテンションをガシっと掴んで真空パックしたような作品になっている所が非常に胸熱です。PVをのせたものは自分が特に好きなアーティストですが、彼らがいずれもここ1、2年以内で新作を出しており、かつ内容も大いに充実しているというのも嬉しい限りです。(RATMもライブ活動を2022年復活予定)

なお、レイジの「WAKE UP」は最新作「マトリックス レザレクションズ」でもエンディング曲として起用されています。ただしレイジ本家ではなくBrass Againstによるカヴァー。

このBrass Against、初めて知ったんですがレイジとかパンテラ、システムオブアダウンをカヴァーするメタルブラスバンドなんだそうです。

斬新でカッコいいバンドですね。メタリカカヴァーから始まったメタルチェロバンドのアポカリプティカみたいにいずれオリジナルもやるんでしょうか。


え?「マトリックス レザレクションズ」についての感想ですか?



観ましたが、、、ここでは控えておきます。

この新作はラナ・ウォシャウスキー監督が自身の母親が亡くなった悲しみを紛らわそうと作ったそうです。内容的にもメタ的要素があり自身を投影したかのようなストーリーラインもあったりします。なので本作は「レジェンド級バンドの名前を冠してるけど実態はメンバー1人の内省的なソロ作」みたいな(例えばブラックサバスのセヴンス・スター的な)位置づけで受け止めるのが良いかなと思っているからです。

今回はここまで。読んで下さりありがとうございました。



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