TESTAMENTの新譜「Titans of Creation」に寄せて~絶望と幻想を描くイラストレーターEliran Kantor~
20年4月、ベテランスラッシュバンドTESTAMENTが通算13枚目となるアルバム「Titans of Creation」をリリースした。
今回はアルバムレビューもしつつTESTAMENTがここ4作連続でアルバムのアートワークに起用しているイラストレーターEliran Kantorについて書いてみたいと思う。
・「Titans of Creation」アルバムレビュー
「Titans of Creation」は前作「Brotherhood of the Snake」(2016年)以来
4年ぶりとなる新作だ。
メンバーは前作と変わらず。不動の中心メンバーChuck Billy(Vo)とEric Peterson(Gu)。オリジナルメンバーながら90年代初頭に一度脱退したものの「The Formation of Damnation」(2008年)で再加入して以降すっかりバンドに定着したAlex Skolnick(Gu)、近年バンドの屋台骨を支えるGene Hoglan(Dr)、さらに前作「Brotherhood of the Snake」(2016年)で17年ぶりにバンドに復帰しGeneとのDEATHコンビの復活がファンを喜ばせたSteve DiGiorgio(Ba)が今作でも続投している。
▼(左から)Gene Hoglan(Dr) Alex Skolnick(Gu) Chuck Billy(Vo)Steve DiGiorgio(Ba) Eric Peterson(Gu)
さて、ここ10年TESTAMENTは非常に好調に活動を続けている。2000年代前半の沈黙が嘘のようにおよそ4年ごとに新作を、それも古参のファンを喜ばせ、かつ現在のシーンで十二分に存在感を示す快作をリリースしコンスタントに来日公演も行なってくれている。
今回の「Titans of Creation」もその好調な流れはそのままに自分たちのオリジナリティをさらに存分に発揮した素晴らしい出来に仕上がっている。
デビューアルバム「The Legacy」(1987年)の頃から顕著であった鋭利な
リフに突撃ビート、そこに流麗なソロが乗るという鉄板パターンはますます巧みになっているし、アメリカのバンドでありながらどこかヨーロッパの匂い(もっと言うとNWOBHM)を感じさせるドラマティックな展開は相変わらず健在だ。
その中でも「City of Angels」(トラック⑤)や「False Prophet」(トラック⑧)のギターソロではあまりスラッシュメタルでは聞かれないようなストレートな音像であったりベースラインが際立つようにあえて間をあけたフレーズを紡ぐことにより楽曲の生命力がより豊かに感じられる新機軸も。そして注目したいのはChuck Billyの野太く厚みのあるヴォーカル!
Chuckが歌いだせばすぐにTESTAMENTだと分かる唯一無二の声色は今作でも冴えわたっている。
御年57歳。1歳上のTom Araya(SLAYER)がシーンから引退したことを考えるとこのパフォーマンスは驚異的と言えるだろう。また今作は疾走チューンが多いのも特徴。正確に言うとBPMがずーっと早いという訳ではないのだが巧みな緩急の付け方と「ここで加速してほしいな」というパートでしっかり疾走感をくれるのが気持ちがいい。「Curse of Osiris」(トラック⑪)などはライブで演奏したらヘッドバンギングが吹き荒れるのが目に浮かぶ激烈スラッシュチューンだ。スラッシュ四天王に続いてシーンを席捲した80年代後半~90年代前半、モダンヘヴィネスや一時はデスメタルの領域にまで足を踏み入れた90年代後半、シーンの冷え込みやChuckの咽頭ガンなどで活動が一時的に途絶えた2000年代を経て今TESTAMENTは最盛期に勝るとも劣らない充実した活動をしている。そしてその勢いは当分続きそうだ!
そうそう、Chuckは新型コロナウイルスにも感染してしまったのだが無事に回復している。ネイティブアメリカンの血を引くChuckはまっこと頑強だ。
・なぜイラストレーターに注目するのか
ここからが本題。なぜイラストレーターに注目するのか。それは作品においてイラストレーターの描くアートワークが作品自体のイメージを大きく左右し楽曲をより魅力あるものに引き立てもするし、時に残念な印象にもしてしまうとても重要なものだからだ。
アートワークを見るとバンドやそのアルバムのイメージが自然と湧くし曲はかっこいいのにアートワークがダサいとなんだか損した気分になりはしないだろうか。
新作に伴うツアーではアートワークに基づいたバックドロップ幕やTシャツなどの物販も作られるのでその時々のライブ参戦の楽しかった思い出なんかとも強く結びついている。
さらに今回のTESTAMENTのように4作連続で同じイラストレーターを起用するとバンド自身も気に入っているんだろうなとか、前作からの大幅な路線変更はないのだろう、というようにバンドの意志やメッセージが読み取れたりもする。
自ずと似通ったテイストの絵柄になるのでずらっと並べたときに統一感もあってカッコいい。
なので
「そもそもアルバムアートワークは超重要」
これが理由の1つ目。
もう1つの理由はアートワークがこれだけ重要な役割を果たしているのにそれを描くイラストレーターがフューチャーされる機会が少ない事が個人的には不満だったからだ。
もちろんアーティストのメッセージ、想いは作品として表現されているので「作品をみてくれ。以上!」という方もいるのだろうし、いちいち細かく意図や意味をしゃべってイメージを限定させたくないというのもあるのだと思う。
もっと言うと音楽作品である以上主役はもちろん音楽でありその音楽を作ったアーティスト。なのでイラストレーターが前面に出てくるというのも違和感があるといえばある。
だけど僕のアルバムの楽しみ方には間違いなく音楽以外の部分も大いに含まれている。それも込みで作品だと思っている。
まずブックレットに書かれているクレジットは必ずよーく読む。
プロデューサー、ミキサー、録音スタジオ、ゲストミュージシャン、フォトグラファー、サンクスリストそしてイラストレーター。
上に挙げた部分でピンとくる名前やワードを見つけたら楽しい答えあわせの始まりである。
CDラックを漁り同じ名前・ワードがあったと思われる作品をピックアップする。そして同じものを見つけると「ああやっぱりこのプロデューサーだから音作りが一緒だな」とか「このプロデューサーとミキサーはある時期まではコンビみたいに働いていたけど最近はそうでもないな。」「いや待てよミキサーの人は最近のあのアルバムでプロデューサーをやってるじゃないか。そうかそうか昇進したんだね」など、どこまで合っているか知る由もないがそんな「自分なりの答えあわせ」をするのがたまらなく楽しい。
そこからさらに情報を得ようと思った時に、例えばプロデューサーはバンドのインタビューで話題に挙がることが多い。聴き手の質問にもたびたびのぼる。
そこでバンドのプロデューサーへの思いやそれぞれのプロデューサーの個性的な作品の作り方、パーソナリティなんかもある程度知ることができる。
しかし、イラストレーターはそれがほぼない。
国籍やキャリア、どんな思いで作品を作り上げたのかといった情報がまるで見当たらないのだ。
ないなら自分で書けば良い。これがもう1つの理由。
・イラストレーターEliran Kantorについて
TESTAMENTの新譜「Titans of Creation」のアートワークを担当したのは
Eliran Kantor。ドイツ出身の35歳だ。
Eliranがメタル系アルバムのアートワークを手掛けるようになったのは2004年頃。(ということは当時19歳!)
関わった作品は優に100を超える売れっ子イラストレーターだ。この後Eliranのアートワークを紹介するがNuclear Blastレーベル所属アーティストの作品を手掛けることが多い模様。Nuclear Blastはメタルシーンでは大手と言ってよい重要なレーベル。所属アーティストはCarcass、Helloween、In Flames、Lamb of God、Machine Headと超大物がズラリと並ぶ。SLAYERもキャリアの最後はNuclear Blastで迎えた。現在SepulturaもSoulflyもNuclear Blastに所属しているのも興味深い。もちろんTESTAMENTも所属している。
Nuclear Blastの本拠地はドイツなのでEliranは自国で暮らしながら仕事を
受けているものと思われる。
ドイツで毎年開催され7万人以上の観客を集める世界的メタルフェスWackenOpen Airでは2019年に個展を開いているようだ。
いいなあこれ、日本でもやりたいんですけど。。
YOUTUBEにはEliranがインタビューに答えている動画がいくつか存在しそれを見ると英語で喋っている。英語を喋れるドイツ人は珍しくないのでEliranも世界中のアーティストと仕事をする上で英語でやりとりしているのだろう。
喋り方や表情は温和な感じ。もちろん人は見た目ではないが街中ですれ違ってもメタルCDのアートワークを描く人物だとは思わないだろう。
今回改めて調べてみたけどEliranへの日本語でのインタビュー記事は見つからなかったのでイラストレーターになった理由や生い立ち、パーソナリティまでは分からなかった。。
▼Eliran KantorオフィシャルHP
・Eliran Kantorの作品紹介
そんなEliranが描くイラストで多く登場するのが凄惨な戦場や拷問のシーン、または神々や天使あるいは悪魔が現世に降臨したかのようなこの世であってこの世でないような幻想的な世界。
これらがルネサンス期の絵画を思わせる重厚な油絵タッチで描かれる。論より証拠。
Eliran Kantorの作品を一挙にご紹介。
ちなみにここで紹介する作品はバンドもアルバムもおススメのカッコいいものばかりなので是非チェックしてみて欲しい。
①Testament「Titans of Creation」(2020年)
②Testament「Brotherhood of the Snake」(2016年)
③Testament「Dark Roots of Earth」(2012年)
④Testament「The Formation of Damnation」(2008年)
①Soulfly「Ritual」(2018年)
②Soulfly「Archangel」(2015年)
③Hate Eternal「Upon Desolate Sands」(2018年)
④Hate Eternal「Infernus」(2015年)
①Fleshgod Apocalypse「King」(2016年)
②Archspire「Relentless Mutation」(2017年)
③Heaven Shall Burn「Of Truth & Sacrifice」(2020年)
④Thy Art Is Murder「Dear Desolation」(2017年)
①Sodom「In War and Pieces」(2010年)
②Aversions Crown「Hell Will Come for Us All」(2020年)
③Venom Prison「Samsara」(2019年)
④Venom Prison「Animus」(2016年)
① Hatebreed「The Divinity of Purpose」(2013年)
②Crowbar「The Serpent Only Lies」(2016年)
③Sigh「In Somniphobia」(2012年)
④Sigh「Scenes from Hell」(2010年)
いかがでしょう。
今回紹介したのはほんの一部だけど、陰惨かつ残酷でありながらどこか高潔さや美しさを纏いまるで禁忌の宗教画を覗いているような印象。Eliranのアートワークを起用しているアーティストも自分たちの楽曲や世界観に強いこだわりと美学を持って活動しているバンドばかり。妥協せず緻密なアートを生み出すEliranがシーンで引っ張りだこになるのは容易に納得できる。
これからも素晴らしい作品を届けてくれる事を楽しみに待ちたい。
今回はTESTAMENTの新譜「Titans of Creation」のアルバムレビューとアートワークを手掛けたイラストレーターEliran Kantorについて書いてみました。
アルバムをアートワークから掘り下げてみるとまたひと味違った楽しみが見つかるので是非皆さんも試してみてください。
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