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短歌 百首 秋にかくゆき 幻

綿雪は山桜の花吹雪よ
手から離れてふらりと落ちる

ささやかにこの手に気流を変えられて
予定調和を乱す粉雪

心ばかりのお礼だと雪化粧
紅に触れては 姿を消して

去る雪を そっと後押し 梅の香は
淋し嬉しを掻き混ぜて行く

しずしずと流れる山奥の清水
触れては解けて乱さぬ水面

蛇の目傘 紅の傾斜に滑る
ぱさりと落ちる音はひらがな

四方から公衆電話を囲む雪
責め立てられる なぜ心地よい?

しとしとと雨に交じって 雪の音
形を崩し手には水だけ

両手で盃を作り受けたのに
水しか残らぬ もどかしくて

ばらぱら街路樹の葉を弄ぶ
わたしのこころとリンクしてる

行灯に照らされて知るやさしさを
心を穏やかに揺らされる

音もなくかぐや姫だけ知っている
今日は一等楽しそうだと

星屑に紛れて瞳を潤す
やられたと睨んでも知らない

素知らぬ顔して黒髪に混じって
我はかんざし はらわぬことだ

雪だねと声は染み込み あなたには
届かないけど伝わる思い

払うねと髪を手で解かされてから
熱でひとりでに溶ける雪に

知らされる雪は艶やかに引き立てる
触れてしまえば 溶けてしまうか

知らされた溶けた雪で黒髪は
濡れて艶めきに変わることを

紅に絹のような雪の筋
まさにあなたは寒紅梅だ

マフラーにふわりと乗って落とされて
私を乱して何がしたいの

枯れた木の枝に積もれぬ雪たちは
白い毛氈 敷いて待ってる

お許しをあなたに来て欲しかったのです
我らに溶け込むその白い肌

姿なく雪見格子に散る花よ
わたしの恋も隠してお願い

筆を留め 物思いにふけ朝焼けに
白い桜よ 思いを散らせ

君を見る熱視線でとける雪よ
頼むから噂しないでくれ

あなたへの思いをこじらせて溶ける
傘はいらない ゆえに恋雪

血涙で溶ける雪の色は紅
伝うぬくもり ゆえに紅雪(あかゆき)

月を見る あなたは私 見てくれぬ
憂いを帯びて ゆえに侘雪

雪の扇に隠された恋心
淋し実らぬ 人恋雪よ

人知れずこれは悲恋と腑に落ちる
呆れて笑う ゆえに笑雪(えみゆき) 

低く飛ぶ燕に知らされた雨は
雪と変わって翼に触れる

黄昏に降り注ぐ雨 時に雪
逢魔ヶ刻を映すフィルター

炎なのに透かし落ちていくまさか
雪滑る角隠しの列よ

40度の浴槽で見る窓越しの
雪ほど気持ちよいことはない

夏も雪 曇り硝子は 雪迎え
寒さが移り震える心

この涙 目尻から舞う 桜へと
離れていけばさようなら恋

まばたきをする度落ちる雪の音
睫毛に積もるとアピールした

ぱさぱさとコートを払い落としても
ボタンの隙間に入り込む雪

隙間に入り込んだ雪は溶けていく
濡れるニットに力抜ける腕

ビニール傘に穴を開ける勢い
なに私にうらみでもあるの 40

梅は知り桜もうっすら覚えてる
秋桜も見たことあるらしい

落葉の果てには枝に落とされる
淡いのに私とは違うのよ

うちのぽち 足跡残し 駆け込んだ
玄関でぽつんぽけっとしてた

庭駆けることなく家に走ってく
足跡の間隔は広いよ

堅雪はぬるくたい風待っていた
ということにして自己投影

陶酔し崩れ去る雪 間近にて
重ねる自分のおこがましいこと

盃のアルコール度数を減らす
しかして酔いはよく回った夜

月光とあなたと雪と盃で
いよいよ舞台は開演した

夜桜にヴェールを掛けて完成する
雪化粧は 異世界のもの

轍を煌めかせる信号のもと
反転した月を作り出す 

あなたへと書かれた手紙の封を切る
あなたに幸あれ 御幸あれ

幻想の雪に囲まれ微睡んで
秘めた恋の箱の鍵を割る

夜景の雪化粧を見たいのになあ
窓に映るは醜いわたし

柏の木よ 落葉しないあなただけ
掬いとってくれるこれが恋

雪が解け枯山水の滝ひとつ
つつと流れて過去に巡った

ざくざくと雪を踏みつけ固くして
罠を リスペクト ウツボカズラ

本当に冬眠したい心から
全てを放り投げて籠るの

明日から 先延ばしにし 暖かく
雪すらわたしを見放したよ

窓の外 ちらくつ淡雪 を眺め
世界に隔離されたと気づく

冷たくてでも濡れそぼることはなく
じわじわ毒に侵されていく 

美しい雪だけを見て生きてゆく
それが生き方わたしの行く末

そうやって目を背けても先は無く
次は咲きこぼれる花に逃げ

綱渡り 綱は湿って 滴って
落ちて沈んで降られて消える

大の字に このまま雪に覆われて
それなら世界に入れるのかな

雪なんて閉じこもっても音はなく
どうかお願い責め立ててくれ

蝉時雨 彼はわたしを責め立てて
惨めな気持ちを逸らしてくれた

雪ほどに残酷なものはこれひとつ
無いとわかって知った絶望

底なしの恐怖はさらり覆ってく
ああ天井から滴ってきた

この庭をスノードームに閉じ込めて
知った気になるでも気休めよ

さようならわたしのこころしろくなる
くろかみもべにもまっしろになる 70

宵に酔い 雪に御幸を願い行き
ああ好い好いと余韻に茹だる

床に雪あり障子に目ありませぬ
落ちた雪ですわたしのものです

行くといいあなたは汽車に乗っていく
恋に染められぬうちに早く

悠久を巡り巡ったこの水に
今度は空を旅してもらうか

雨あがりでも雪は降る震えてる
家鳴りが賑わって軋む柱

海に落つ白波に消え朧月
ゆらと立つ波 船酔いのなか

浴槽に札束の代わり どさどさ
雪を落として 塵だけ積もる

夢の中 薔薇色に淡 海の底
イソギンチャクは知らない泡か

カーテンをひらめかせてはやさしさと
雪舞う風と 変わりない松

白梅を隠して閉ざす峠道
紛れて見えぬ 雪の采配 

結局は雪ほどに美しくもなく
さらさらと消えることもない

墓に降る雪のように思いやる
そんなこともない私は駄目

化粧しても雪に同化し消えていけ
一応言っとくさよならみんな

こんなもの みなの幸だけ願いゆく
自分を少し好きになれた

落葉のように履かれてしまうのさ
雪のように消えないからね

羨ましい淋しい誰か見つけてよ
雪の中で窒息してく

好かれたい淡雪のように微笑まれ
墓の前で泣いてほしい

涙へと溶けていって黒い雪
見えない何もただ冷たいだけ

許されよこんなわたしを好いてくれる
人だっているの好きよありがと

ただわたしこの羨みに支配されて
雪のように溶けることなく 

梳かす髪 解ける雪こそ あなたさま
淋しいことに離れていくの

幻想の中で雪に降られつつも
救いを求め 目を閉じて酔う

酔ったということにしてあなたを見てる
雪を見るその横顔に酔う

梅の香に さりげなく誘導されて
しずしず歩く わたしもついてく

紙吹雪そのひとつになれたらなら
これ以上ない光栄である

降らぬ雪 置いてかないで お願いよ
わたしもつれて行ってよ聞いて

積もってる堅雪に泣くわたしだけ
踏まれても消えることもなく

星屑と共に降り注ぐあなたよ
幻を見せてくれる優しさ

この手からさらさら零れて路面に
着くころには消えて襲う淋し

綿雪の山桜の花吹雪よ
手から零れてさらりと落ちる

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