伝票

旧友と15年ぶりに飲んでいる。

2軒目で、1時間ほど。

ラストオーダーを頼んだ旧友は、トイレに立った。

2分ほどスマホをイジって戻ってきた旧友に顔を上げると旧友ではなかった。

白半袖Tにジーパンのおっさん。

67くらいの。

ハゲてはなくて太ってもなくて、白髪混じりのダンディって感じの。

この居酒屋は以前に一度だけ同僚と来たことがあることを思い出した。

そのときはハゲデブ50代だった。

僕はダンディの右腕を軽く持ち上げて席を立たせ、レジで会計を済ませた。

ありがとうございましたと頭を下げる若い女の店員さんの横でダンディは凛々しくまっすぐ空（くう）を見つめていた。

席に向かうと旧友が戻っててこちらに気付くと最後の一杯を飲み干してあー払う払うと言ってきたがいやいいよいいよと言った。

いくらか聞いてきたので金額を言うとそれちょっと高くないかと言ってきた。

確かに会計のときに少しの違和感があった。

1時間でこれはないでしょと言われ確かにと思った。

すみませんさっきの伝票ってありますか会計がおかしいんですと聞くと少々お待ちくださいとバックヤードの方に引っ込んだ。

そして腕を引っ張って連れてきたダンディは上裸だった。

あれ伝票はと聞くともう脱ぎ捨てたと店員が答えた。

いや脱ぎ捨てたはおかしいでしょさっきの今でと旧友が突っかかりそうになったのでもういいよ出よと言って店を出た。

前もこの店そうだったんだよさっき思い出してと旧友に言うとぼったくりかよマジで悪いわと言って万札を押し付けてきた。

僕はそれを受け取って何も言えずズボンポケットに入れようとしたらその店に面した車道を通り過ぎるタクシーの窓越し後部座席にさっきのダンディの横顔が見えた。

見たかおいと旧友が言った。

高そうな革ジャン着やがってと旧友が店の外壁を蹴った。

コワモテの男が中からこっちに向かってくるのが見えたので走って2人で逃げた。