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普通に考えたら

「普通に考えたら来たよ」

通りすがりの休憩室にボソッとその言葉だけを置いて施術に向かう主任に思わず噴き出してしまう。

『普通に考えたら』と従業員の間で呼ばれているその客は、決まって毎週水曜日の午前11時という一番よく分からない時間に来る。

予約なしでだ。

予約すれば順番待ちしなくて済むのに、最初の方はスマホで簡単に予約できますよ〜と教えてあげたのだが、頑なに予約なしで来る。

水曜11時って決まってるなら予約すればいいのに。

今日はたまたま空いてるから待たずに案内されていた。

「痛い痛い痛い痛い痛いだろ!!普通に考えたら!!」

「ブー!」

タイミング悪く吸い上げていた紙コップのコーヒー牛乳を文字通り噴き出してしまった。

ティッシュを4枚くらい取ってテーブルと服と床を拭いていると

「…痛いだろって、普通に考えたら」

と史上初の『冷静バージョン』が耳に飛び込んできたもんだから

「ハッハッハッハッ!」

って声に出して笑ってしまいマズイ!って思った。

「…………」

施術室が静寂に包まれているのが分かる。

「…今のまさか、僕のこと、笑ってましたか?」

マッズ!!

「なんか変だと思ってたんですよ!ここの人みーんな僕のこと見てるんですよ!客としてじゃなく、変な人を見るような感じで!僕ってそんな変ですか!?失礼ですよ!普通に考えたら!」

「カハッ」

「おい!」

バレたか…!?

「痛い!!痛いたいたいたい痛いって痛いって痛いって普通に考えたら!!そんなにやってくれって頼んでないよ今日やり過ぎだって普通に考えたら!!」

主任がかき消すように施術してくれているらしい。

ありがとう主任。

ただこの日を最後に、普通に考えたらが来ることはなくなった。

みんなは私のせいじゃないと慰めてくれるが、決まって残念そうな顔をしていた。

相変わらず土日は行列ができる。

なにをそんなに並ぶことがあるのか?とは口が裂けても言えないでただひたすらに途切れない客の施術をする。

「…絶対に許したらダメですよそんなん、普通に考えたら」

ん?

来たか!?

「少々お待ちください〜」

と何かを取りに出るふりをして施術室を出て声のした方を覗くと、満員の待合室のテレビに普通に考えたらが映っている!

夕方のワイドショーのコメンテーターとして、どういう立場なのか分からないが綺麗なスーツ姿で座って何か事件やスキャンダルについて喋っている。

「…おかしいですよ、普通に考えたら」

「…じゃないですか、普通に考えたら」

「…倫理的にね、普通に考えたら」

なんかすごい普通の使い方で普通に考えたらを使っていてつまらなかった。

「普通に考えたら普通に考えたらって、普通ってなんなんですか?あなたの中の普通が世間の普通じゃないでしょう」

ってギャルタレントに詰められててやっと笑えた。

「お待たせいたしました〜」

バチッ!

バチバチッ!

バチッ!

バチバチバチッ!

バチッ!

「以上になります〜お疲れ様でした〜」

内臓電流師って言っても資格とか要らないから正直適当にやっている。

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