川の国埼玉で日本イチを目指すー埼玉県河川環境課 石野剛史さん インタビュー
こんにちは、都市整備課です。
とうとうR4年度も今日で終わりですね。今年度1年間どうもありがとうございました。
さて。地方整備局のまちづくり担当として働いていると、県職員の方々の悩みをよく聞きます。なかでも「県の立場でどうまちづくりに絡んでいけばいいのか」というモヤモヤが多かったです。
そこで、今回は、地域を良くする、すごい県職員の方を見つけたのでインタビューしてきました。埼玉県河川環境課の石野剛史さんです。
(実は、このプレゼン動画を見てからずっと気になっていました・・)
県職員の方々のモヤモヤを少しでも晴らすヒントを届けられれば幸いです。
それではインタビュー本編へどうぞ!
1.埼玉県の水辺再生
■石野氏:
埼玉県には海がありませんが、実は河川の面積割合が日本一でした。(平成20年当時、現在は全国2位)埼玉にはメジャーなものがないので、川のポテンシャルを活かしていこうということで13年前から取り組みを頑張っています。
最初は平成20年の「水辺再生100プラン」。水辺100か所を人が近づけたり、遊歩道で川が眺められるようにして、生活雑排水を減らして水質改善しましょうと、動き始めました。
スタート時から県民を巻き込み清掃を手伝っていただいたり、川の国愛県債を発行して資金を100億円集めて水辺再生に取り組みました。
平成23年に国交省の「河川空間オープン化」として、河川占有の規制緩和がありました。プロジェクトの名前を変えながら、取り組んでいます。今では「Next川の再生・水辺deベンチャーチャレンジ」や「SAITAMAリバーサポーターズプロジェクト」というのをやっています。
○Next川の再生・水辺deベンチャーチャレンジ
こちらの取組は、地域の声を聞きながら協議会を立ち上げて、河川空間の構想時から企業のやりたいことを聞いて、整備を進めていく取組です。
例えば、水面に浮く大きなデッキみたいなものをつくりたいとなれば、手前につながる桟橋は県が造りましょうとか。さらに、その施設が水質浄化に寄与するものであれば、フロート自体も県が造りましょうとか。
河川管理者(県)が企業の要望に応えられよう行政で規制を緩くし、民間企業がやりたいと思う事業ができるようにしようとする取組です。
○SAITAMAリバーサポーターズプロジェクト
県内で河川清掃や環境学習に取り組んできた「川の国応援団」という団体がいくつもあります。県では、資材提供・貸出や広報活動を通じて彼らをサポートしてきました。
2021年度、この支援をさらなる環境保全と経済活動へとつなげるべく、「SAITAMAリバーサポーターズプロジェクト」(リバサポ)としてパワーアップしました。こちらは、個人でも企業もとりあえず川で何かやりたいという人たちを募集して好きなことをやってもらっています。
2.目指せ河川空間利用で日本一
■石野さん:
民間企業との連携の例をいくつかご紹介します。
こちらが、川とサウナ。川の近くでテントサウナに入ってもらって、終わったら川に入って体を冷やしてもらうという施設です。
■石野さん:
釣り餌のマルキユーさんと連携をして親子釣り大会を実施しました。わざと足で川の泥を浮き上がらせて川虫が流れるような状況をつくって、魚を釣るんです。「あんま釣り」というのですが、たくさん釣れて子供たちがすごく喜びます。
また、グランピング施設が川沿いに3つか4つくらいあって、常に土日はいっぱいです。1泊1人2万円~3万円という金額ですが、都内からもお客さんが非常に多くて、芸能人もお忍びで来ているとか。
あとは日本で初めて河川敷にスターバックスに出店いただきました。
■石野さん:
開業した施設の令和3年度利用者実績は34万人です。コロナ禍によるアウトドアブームで人が増えすぎて逆に立ち入り禁止にしたこともあるくらい大人気です。
■今(関東地整 都市整備課):
県としてそんなに河川利用をプッシュするのには、何かきっかけがあったんでしょうか。
■石野さん:
平成25年に、日本一を目指してスタートしました。埼玉が普通に戦っても東京と大阪にはかないません。だから県内のいいところを見つけて、常に話題をつくって、売り込んでいかないと、話題が東京や大阪に持っていかれます。とにかく事例を増やしていって、「数で抜いてやろう」と課のみんなで盛り上がり・・・。「話題にして、民間が河川に進出しやすいように」ということでプッシュ型を始めました。組織としてみんなで動き始めたんです。
3.プッシュ型規制緩和って??
■今:
水辺の施設がものすごく増えているんですね。リバサポの制度以外に、何か働きかけをしているのでしょうか。
■石野さん:
規制を緩和して民間からの相談を待つのではなく、県職員がいろいろな川の、こんないいところがありますよということを市町村に売り込みにいきます。その名もずばり「プッシュ型の規制緩和」です。
地元の方たちはその場所の価値にそんなに気づいていないことが多いです。例えば上流の河川でも。地元の人からしたらは川がきれいじゃないし魅力なんて無いと思っていても、都会の人たちから見るとすごく価値があるので、「絶対に使ったほうがいいですよ(`・ω・´)キリ」という形で売り込みにいきました。
例えば、年間5千万人が訪れる越谷レイクタウンに隣接した大きな池(大相模調節池)。これまでは店舗から外の水辺には、人がほとんど流れてきません。そのポテンシャルを生かすため、例えば、池に張り出すデッキをつくって、その上に店舗を出してもらう形で検討を進めています。隣に大きなイオンモールさんがあるので、巨大ショッピングモールを運営するイオンモールとタックを組んで水辺の整備をやっていきましょうということで、昨年8月に大野知事立会いの下、越谷市長とイオンモールの社長とで協定を結びました。
■山川さん(オリエンタルコンサルタンツ):
県と市と民間企業との連携をお話いただきましたが、連携する企業はどうやって探すんでしょうか。
■石野さん:
例えば、使えそうな水辺の近くにどんな企業があるか、職員たちグーグルマップを見て探しています。
あとは関心の高い人は向こう側からアプローチしてきます。個人でもこの川原でバーベキューをやりたいとか、SUPとバーベキュー場を営業したいみたいな人から私のところに相談が来ます。
そうやってやりとりして、少し具体的なイメージを描ければ、次は私から市町村に話に行くようにしています。
■今:
スタートはどのように進めていったのでしょうか。
■石野さん:
当時、東京都で隅田川のスカイツリーの対岸のカフェが関東初の川沿いでの出店を狙っていることを聞いて、あそこが建築確認で手間どっているうちに抜いてしまおうというのが目標でした。
まずはてっとり早く今利活用しているところをターゲットを絞って、そこでお金が稼げるようにしたらどうかと考えたのですが・・・。
■今:
何かあったんですか?既に利活用しているところだったらスムーズにいきそうですが・・・。
4.「その気にさせる」が県の役割
■石野さん:
私もそう思っていたのですが、少なからず占用料がかかりますよね。そうすると、もともとそこで活動していた人たちは、「俺たちの売上げを召し上げるのか?」といって、話の入り口で反対され、協議会の中で紛糾してしまいました。
地元をやる気に
■石野さん:
そこで、今までは環境美化協力金みたいな形でお金をとっていたのですが、それを例えば「周辺の民間のバーベキュー場と同じように、駐車場代〇〇円、BBQ利用料〇〇円というように適正に料金をいただけますよ」とご説明しました。
そのときの河川占用料は、建物を建てて利用しても年間で360円/㎡で、東京都の30分の1くらいです。バーベキューの運営だったら年間15円/㎡、何日か営業すればもとがとれます。そういったメリットを説明して、関東初の規制緩和によるバーベキュー場出店を見事に勝ち取りました。
テレビ番組「ワールドビジネスサテライト」にも取り上げてもらって、”川に商機あり”みたいなメッセージを発信してもらいました。
市町村をやる気に
■石野さん:
河川空間利用の各案件で、一番苦労していた市町村です。占用主体になっていただくので、市町村の窓口をどう決めてもらうかがすごく大事です。目的は地域振興だと理解していただいて、そのためにどう盛り上げましょうということを伝えるのが大切です。
■柞山(関東地方整備局 建政部):
市の窓口はどういった部署になるんでしょうか。
■石野さん:
初めに話を持っていくときは河川課や建設課にいくのですが、やはりそういう部署は、河川自体の管理が業務目的で、どのように盛り上げていくかにはあまり興味を示さないこともあります。今、動いてくださっているのは商業観光とか経済振興とかそういう部署が多いです。
企業をやる気に
■石野さん:
先ほどのスタバ出店のところもすごくいい場所ですけれど、都市地域再生等利用区域の占用許可期間が最長10年と規定されています。投資を回収できるかどうかは企業も不安があり、出店する側も勇気が要るということでしたので、企業側にメリットがあるように説明を心がけています。
県の工事事務所をやる気に
■石野さん:
県の出先機関である河川管理部隊をその気にさせるのが結構大変でした。やはり治水が優先だから利活用目的の工事は後回しにされてしまいます。本来の川の持つ魅力、川と人との関係もしっかりと理解してもらうことは意外と今でも苦戦しています。
結局、本庁河川環境課のほうで設計を発注したり、こっちも本気を見せないといけません。本庁のほうで、「基本設計まではやるから、その後引き継いでね」と、地域の担当者を本気にさせることも大事な仕事だと思います。
人事異動でやる気をなくさない
最後に人事異動です。私は、実は日本一を目指してやる気MAXのところで一度、異動になってしまっているんです。でも気持ちを捨てきれなかった。”Beyond the 人事異動” ということで、仕事関係なくプライベートでも活動しています。
5.プライベートでも水辺再生
私は趣味でSUPやカヌーをやっていて、どうにかして仕事に活かしたいと思っていました。
私が住んでいる自治会のエリアで、たまたま団地開発があり、その開発要件から、自治会館を新しく作るということになりました。「新しい自治会館の使い方をみんなで考えましょう」となったときに、せっかくなのでみんながやりたいことを実現するための建物として使おうとなりました。その場所には水辺があるし公園みたいな空間もあるし、このすぐ裏に元荒川が流れています。
新しい自治会館は「みずべのアトリエ」という名前になり、今はカヤックを全部で7艇くらい置いてあります。いつでも乗れるようにしていこうという中で、たまたまその河川が、ここで県の河川利用のプロジェクトとしてエントリーされていたので、施設をつくれば県の事業成果として施設の利用人数にカウントができるし、私としても一石二鳥・・・。と、地域住民として県の事業に協力する形で整備を推し進めました。
今では住民の方には川に来てカヌーに乗ってもらって、ついでにごみを拾ってもらう感じで、地域の人たちに喜んでもらっています。
■今: カヌー購入資金はどこから集めているんですか?
■石野さん:
実は自治会として河川の草刈り委託を県から受けていて、その費用の一部を購入に充てています。委託費用は年間7万円くらいですが、中古カヌーだと1艇2~3万円で買えるので毎年少しずつ買っています。
みずべのアトリエは、自治会員以外でも誰でも使っていいんです。このカヌーもいつでも使えますが、自分で貸してくださいといって借りようとしてくる人はほとんどいません。なので、イベントを仕掛けていかないと、人を水面まで呼ぶのは難しい。でもやれば1回60人くらい申込みがあります。
■今:
ご自分の趣味が仕事に生きているんですね。自分のフィールドを持つことは大事ですね。
6.営業マンであり広報マンであれ
■石野さん:
水辺利用の一番よい流れは、「こんなことをやっていいですか」というのを、「全然できますよ(`・ω・´)キリ」と見せることです。
管理担当者に「ここまでだったらやっていいよね」というのを調整して、ワンストップで調整してあげる。そういうことで後押しする感じですかね。
あとは事例を紹介することです。先ほどご紹介したリバサポでできること、何でも請け負いますみたいな感じの窓口があります。そこでつながった方が次の相談に来てくださった時に、「他の場所でやったこういうイベントはできます」といって広報的なことをすると、また新しくイベントが立ち上がることはあります。
■柞山(関東地方整備局 建政部):
埼玉県として「何かあったら相談ください」みたいなことは広報されているんですか。
■石野さん:
特にしていないのですけれど、河川環境課のFacebookを見ましたとか、ミズベリングのフォーラムの映像を見ましたといって、連絡下さる方が多いです。
■山川: 情報発信をしていると企業や個人から問合せがあるんですね。
■今:
発信すると情報が集まるということですね。自らいい所を売り込みに行く営業マンでもあり、宣伝もする広報マンでもあり、すばらしいすね。
■石野さん:
今後は県職員、水辺の石野さんと、ミズベリング埼玉の「みずべ林檎」として活躍して、さらに仕事を楽しみたいと思います。
■今:
仕事も”楽しい”って大事ですね。石野さんの話を聞いていて、実感しました。本日はどうもありがとうございました。これからもご活躍を期待しております。
川の利用を促進するために、規制を緩和するだけでなく、埼玉県から民間企業に売り込み、自治体や地元との調整をされているというお話を伺いました。地元の魅力の探し方、メリットの説明方法、仕事に向き合うスタンスなど、たくさんヒントをいただきました。
県職員の方は、地域をよくすることを志して、入庁した方が多いのではないかと思います。”Beyond the 人事異動”という神ワードが出てきましたが、立場・ポストはいろいろあると思いますが、「地域をよくしたい!」という根底の気持ちを前面に出していけば、地域に関わるとっかっかりが生まれるんだろうな、と思いました。
お話いただきいました石野さん、最後までお読みくださったみなさま、ありがとうございました。1年間、お疲れ様でした!来年度も引き続き宜しくお願いします!