嘘と洗濯洗剤と唐揚げマヨおにぎり diary2023.4.1
SNSが楽しいネタ祭りになる4月1日というこの日、僕は朝5時に下宿の目の前の公園に出ただけで、それから日没までひたすらに自室でパソコンの画面と向き合っていた。
いろいろあって動画編集をする必要があり、ついそれに夢中になってしまっていたのだ。そうすると、誇張ではなく、気付けば一日は終わろうとしていた。もともと動画編集という作業は嫌いではないが、午前から初めて日没までトリップするとは、あまり記憶にない経験だ。
いつの間にか、自分が向き合う四角い板以外、視界が漆黒に染まっているのを知って、ようやく夜の訪れに気付いた。話は変わるが、実は昨晩、洗濯物をため込んでしまったせいで着替えられる服がなく、さらに洗濯洗剤も切らしていたのでシャワーも浴びていなかったことに気付いた。外界との接続を取り戻した僕は、同時に気分の悪さも取り戻した。
もう1日も4分の3は過ぎていたが、僕は洗濯洗剤を求めて北海道の夜へ踏み出した。そういえば、昨晩以降なにも食べていない。その昨晩すら、たまたま自炊が面倒臭く、バッグに非常食代わりに入れているカロリーメイトを消化しただけだった。その上、起床してから水を一杯も飲んでいない。外へ出てから気付く。
そして目的地への途上にあったダックショップたかはしという店で、数十時間に及ぶ断食による空腹がピークを迎えた。何の気なしに僕は店内へ入った。格安弁当コーナーでは唐揚げマヨおにぎりが売られていた。そのコーナーの弁当を僕はあまり信用していなかった。格安も格安な売り場なので贅沢は言えないが、あまりおいしくないものに当たるという痛い目にあったことがあるからだ。しかし不思議な引力を感じた僕はそれを手に取った。この店では食材を頻繁に買うが、総菜の類を買ったのはいつぶりだろうか。時間帯の関係か、150円が130円に割引されていた。
おなかが空いて仕方なかった僕は、店を出るなりラップを外し、まだ冷える夜の北海道でドラッグストアを目指しながら、おにぎりを頬張った。
驚くべきことに、このおにぎりはここ数カ月の僕の食生活の中で、異彩を放つ美味だった。自炊の腕前には自信があるし、たまーにコンビニのジャンクなパンで食事を楽しむこともあった。にもかかわらず、そんな僕の近頃の生活を嘲笑うかのように、130円のおにぎりは僕の幸福という椅子取りゲームを見事に制したのだ。
コンビニとは違い、スーパーのおにぎりらしく海苔と一緒にラップにまかれたそれは全体がしっとりとしていて、米が立っていた。約1日の断食と断水による空腹と脱水状態もあるだろうが、米の甘み、油分の甘み、肉のうまみ、そしてしっかりとした塩分の感覚、その全てが心地よく、それらが混然一体となって脳へと届いていた。
新年度最初の食べ物がスーパーの割引おにぎりだ、という部分だけ見ればなんともパッとしない出来事だなと満腹になってから気付いたが、大学3年生になる年のエイプリルフールの夜、130円で買った唐揚げマヨおにぎりと北海道の夜を、僕はきっと忘れない。空腹が何にも勝るスパイスであるというだけのことに過ぎない、と片付けることもできてしまうだろうが、僕はきっと忘れない。
ちなみにその後はドラッグストアで無事洗濯洗剤を買えた。おかげで今日は洗濯もシャワーもできた。これも唐揚げマヨおにぎりの加護であろう。