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共によつばを育ててきた人たちへ

 子どもを持たずして、子育ての妙を味わう方法がある。

 2003年から連載が開始した漫画「よつばと!」
 私の好きな漫画の中で、最も語るべき要素の多いものが「よつばと!」だと思っている。現在14巻まで刊行され、今年中に15巻が出るのでは、と巷ではささやかれているが、それまでのおさらいとしてこのレビューを読んでもらいたい。
 ここに書かれていることは出典や根拠の明示された部分もあるが、完全な私見も含まれている。


■「よつばと!」のターニングポイント
 よつばと!には現在(14巻時点)までで、二度の転換期があったと考えている。1度目は5巻の終わり、つまり夏の終わりがそれに当たる。(帯の言葉は「おわらない夏のおわり。」)(また単行本の奥付ページには夏の間に起こったことをまとめた絵日記のページがある)

 2度目は9巻の終わり。季節としては秋が続き、ここに明確な線引きはない。しかし「いまのよつば」が生まれたのは確実に10巻からなのだ。その理由については次々回に語りたい。

ここまでをまとめると、私の考える「よつばと!」のセクションは以下。
 1~5巻(連載開始「よつばとひっこし」~ 夏の終わり「よつばとうみ」)
 6~9巻(残暑「よつばとリサイクル」~ 秋の初め「よつばとそら」)
 10~14巻以降(秋「よつばとあそぶ」~ 冬「よつばとランチ」)

 第1回となる今回は、セクション①「あずまきよひこのためのよつば」と称して進めていきたい。


■あのころのよつばといまのよつばは同じ「よつば」なのか?
 どんな漫画作品にもいえることではあるが、連載が進み話数が増えるにつれて、登場人物のキャラクターは変わっていくものである。キャラクターだけでなく絵柄や発言も変容していく中で、「初期のとあるキャラが、いまと初期で同じ人物に見えない」という現象が発生してくる。
 これはよつばにおいても例外ではない。初期のよつばはいまのよつばと比べ、漫画的な演出が多い。例えば1巻第1話「よつばとひっこし」では、ブランコに乗ったよつばが大きく飛んで砂場に着地するシーンがある。それに対し、10巻63話「よつばとあそぶ」では、同じくブランコに乗るシーンはあるが当時のような過剰な描写はなく、あくまでもとーちゃんと一緒に靴飛ばしをするにとどまっている。いまのよつばが起こす行動は「実現可能かどうか」がラインとなっているはずだ。

 ここまで読むと「連載が続くにつれてよつばというキャラが確立した」と捉えることもできる。しかし、このような月並みな表現ではなく、「よつばと!」がここまで独自の地位を得たからには、もっと適切な表現があると考えられる。

 それが、「あずまきよひこのためのよつば」である。
 漫画に出てくる登場人物はあくまで漫画家によって作り出されたものである。これは揺るぎない事実としてそこにある。
 よつばは初め、作者の前作品である「あずまんが大王」の系譜を引き継いでいると感じられる。明確なつながりは名言されていないが、7巻第42話「よつばとでんわ」には“ちよ父“が、13巻第86話「よつばとおみやげ」にはあずまんが大王の大阪たちと同じ制服の生徒が登場する。つまり、世界としては断絶されたものではない。
 それを踏まえた上で、初期のよつばは、「あずまんが大王」から派生したキャラクターだった。もちろん作者が同じかつ次回作なので”派生”であることは必然なのだが、ここで伝えたいのは「あずまきよひこが、あずまんが大王の次回作の主人公として作り出した『よつば』という女の子」だったということだ。
 しかしいまの「よつばと!」読者がその影を見ることはほとんどないのではないだろうか。それは、よつばが作者の意図する範疇を超えて、育ってきたからに他ならない。作者の意図を超えてる、というのは、創作物の色がないということだ(これはあずまきよひこの手腕によるもの)。私たち読者は「よつばと!」という作品から、ある意味で”生もの”、”生き物”としてのよつばを受け取っている。共にその様子を観察し、日記に書き留めるような感覚でいることは、擬似的な子育て体験と同義である。ひとつのジャンルとして「子育てエッセイ」というものがあるが、あれは親という作者のフィルターを通した「親(作者)のための物語」の範疇を超えることはない。読者としての私たちは断片のおこぼれに預かっているに他ならない。
 それに対し「よつばと!」は似て非なるものだ。よつばはこの世に実在していない。つまり、紙面に描かれている部分がよつばのすべてである。よつばの日々の生活から余白を読み取り、私たちは共に暮らしている。この世に実在しないよつばは、私たちの感覚の中で共存しているのだ。


 すこし話が長くなってしまった。本当は1~5巻の詳細を解説していきたかったのだが、ここら辺で区切りをいれたいと思う。次回はセクション②「”よつば”を”よつば”たらしめるものの」について語っていきたい。

▼次回「”よつば”を”よつば”たらしめるもの」


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