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Aマッソのネタは「振り返ってはいけない」の一言で完成した。

 仕事が遅くなり、開始時間に間に合わなかった2020年「The W」。
 吉住さん面白かった。納得の優勝。

 これまでは「あー、そういえばやってたんだ、チェックしてなかったな」程度だったこの大会だが、今年は違う。
 決勝者発表の一覧に、「Aマッソ」の名前があったのだ。

 私がAマッソに出会ったのは大学四年生の夏くらいだったと思う。
 夜中までだらだらと過ごし、なんとなくつけていたテレビでお笑い番組が始まった。深夜番組ということもあり、知らない芸人さんばかりだったけれど、もしかしたら今有名になっているコンビがいたのかもしれない。
 けれども、私の記憶に刻み込まれたのは、特に目立った特徴もない中肉中背の女性二人組だった。

 その番組のコンセプトは複数のお笑い芸人に同じテーマを渡し、それぞれがどんなアレンジでネタを披露するのか、というある意味実験的なものだった。
 そこでAマッソが見せたネタは明らかに異質だった。
 与えられたテーマは「コンビニ」。コンビニにやってきた加納が煙草をカートンで注文する。レジの後ろからカートンを取り出した村上が丁寧な接客で差し出すのだが、その勢いが強すぎて、連なった箱が加納の喉に刺さってしまう。響き渡る断末魔。
 場面が暗転し、再度コンビニに訪れた加納はムチウチ(?)になっている。そして静かな復讐が始まる……といったネタ。

 この文章を読んでもらったところで、よくわからないと思う。
 しかし、ネタはそのまんまで、結局よくわからないのだ。

 あの日、ベッドに寝そべりながらみたひとつのネタが忘れられずにいる。それからというもの、彼女たちのコント・漫才はネットでたくさん調べた。どれも異質で、だけどロジカルで、どこか枠からはみ出している。

 そして今日の「The W」。私は彼女たちの優勝を祈ってもいたが、それ以上に、ただ純粋にネタが見たかった。


 大会は録画でもって初めから終わりまでみたけれど、もうAマッソのことだけを書こうと思う。

 Bブロックの一組目。明らかに不利な順番だが、こればっかりはどうしようもない。正直Aブロックで刺さったネタがなかったので、これはあるぞ、と内心そわそわしていた。そして彼女たちの出番が回ってくる。

 明かりがつく、かと思いきや、会場はぼんやりと暗いまま。中心に立つ二人が掛け合いを初めてすぐ、背景にそびえる仕掛けの意味がわかる。

 まさかのプロジェクター漫才。フリップとは規模が違う。二人の身長の倍ほどある白いパネルに展開されるのは、加納の突っ込みや村上のボケを視覚的に示す数字やイラストだった。

 Aマッソは今回、本当に勝ちにきていたのだと思う。それはまあ当たり前のことでもあるけれど、彼女たちなりに弱点を補おうとした結果がプロジェクター漫才だったのではないだろうか?
 面白い、ワードセンスもある、だけど伝わりにくい、がAマッソなのだ。
 だから視覚的仕掛けを使うことで、その味ともいえる余白をわざと埋めてきた。例えばフリップやセットであったならば、そのまま味気ないことになっていたかもしれない。しかし用意された仕掛けは漫才を補足する映像×お笑いというシステムで、味気ないどころか圧倒的ですらあったのだ。(元からAマッソを知っていれば、棒なんやねんが原型とわかるのはある)

 ネタが終わったあと、いやあ、すごいことやってんなあと言われた加納は、「まあ、振り返るわけにもいかないんで」と応えていた。
 それはもちろん背景に映し出される映像を見られない、という意味なのだけれど、振り返るわけにはいかない彼女たち自身を指す言葉でもあったはずだ。Aマッソは振り返ることを許されない。けれど、私たち観客は彼女らが背負っているものを含めたすべてを見ていた。完璧な構造だったと思う。

 さらに手応えを聞かれたときの二人は、とても満足そうだった。その表情を見て私は、3年前のMー1でジャルジャルが見せた「ピンポンパンゲーム」を思い出した。あの壮絶なネタをやりきった後の福徳の表情。笑わせる、ではなく、圧倒するネタだった。
 もしかすると、「圧倒的なもの」はああいった場では評価されにくいのかもしれない。だけど、私は「圧倒的なもの」が見たい。

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