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スリル・ミー(2023 木村前田ペア)

マグさんと見た!!人がこの舞台でめちゃめちゃになる理由がよくわかったし来年も見ます。    

私と彼

同性間巨大感情があるよ!だけ知ってる状態でみてめちゃくちゃになった。

34年前の事件の動機を「私」が語り始めるところから舞台が始まる。この時、というか現代のシーンにおける私は声が濁ってて目が虚で覇気がなくて「彼」といる過去のターンはどうであれ生き生きしていたんだなと言うのがよくわかり、その差がだんだん悲しくなっていくって構成になってる。

それも「今回でいえば」でしかないらしいのがスリル・ミーのすごいところで、私たちが見た回は特に性愛ましましだったので序盤から「永遠に共にいたかった…!」はそのままの意味だけど、ペアによっては他人に聞かせるための供述として最後は浮き上がるのかもしれない。

ずっと一緒にいたのに何も言わずに目の前から消えた彼が再び自分の前に姿を現すところから話が始まるんだけど、私→彼への感情がすでに爆発してる。「自分だけが特別だと言って、ひとりにしないで、他の人を見ないで」ってよその舞台ならクライマックスにかかりかねない歌を序盤から歌ってくる。TRUMPなら全身死んで手遅れになった時に歌うやつだよ。

でも序盤から歌うので歌詞や表情から見受けられる愛情が彼に届いてないと言うか上滑りしてるのは痛いくらいわかる。彼ってレイのことを一目置いてはいるけど置いてるからこそ1人に囚われるつまんなさが嫌いで、弟と存在がかぶることもあって好きになれてないのをずっと態度で示している。彼としても超人であるとかその辺の理念を真に分かってくれていたら、と言う希望と失望が過去にはあったかもしれない。

一緒にいてよ!って縋り付くレイに犯罪行為を唆す彼がレイにキスするシーン、本当にびっくりした。ブロマンスとしか思ってなかったのでそれまでのレイの視線とか立ち振る舞いも友情と執着だと思ってたからストレートに彼への愛とか劣情だったのがここで判明するし以降は「性愛でーす!!」を隠さずに舞台が進行する。このキスシーン、割と長いししっかりキスするし惚けたレイの顔も客席に見せてくるので気が狂う。

このキスシーンも「レイ」って呼ぶのも、彼としてはレイを操る行動でしかないのが本当にずっと「うざ…」みたいな態度してるので明らかなんだけど、レイは見えてないのか見えてても無視するしかないのかこの後繰り返される犯罪も結局かなりがっつり手伝うし、どの言い合いも負ける。とにかく触れて欲しくて自分だけを見てほしいレイは彼の言ってることが一切わからなくてもその蛮行に付き合ってる間しか見てくれないからそうするしかない、みたいな力関係がずっと続く。

ここで彼が「契約しようか」って話を持ってくるのもかなり狡くて、彼としては私が言うことを聞くのも私の言うことを聞くのもなんのメリットもないから別に縋り付いてくるの振り切るだけでいいのにこの話を持ちかけてきて「対等だ」を口にしてそれ以外の関係を絶ってくる。つまり、契約外でレイが彼に何かをお願いするタイミングを奪っている。そんなに鬱陶しいのに手放さないの、本当に賢く優秀だとは思ってるので背中を預けるなら他の誰かよりは信頼できる、裏切らないし。って言うのが1割と本当に仄めかししか出てこない「弟に似てる」が9割なんだと思う。

こことかペアによって雰囲気違いそう。今回は「レイを騙す」「彼との縁が欲しい」って感じだったけど他の回のダイジェスト見た時は火花がばちばち散って「お前を陥れる一歩目だぞ…!!」って歌いながら喧嘩してたので本当に全然違う。

弁護士になりたいのに法を破って超人であることを示したいという何より法に縛られたことを繰り返す彼とそれに従うレイは最終的に子供の殺害、というところまで行き着いてしまう。

ここの彼、ラストの「これからの孤独を思い知るといい」ってセリフを吐くくらいなので孤独で、それはなにより超人だと疑えないくらいに優秀なレイがつまんない男であることに起因してるし、コンプレックスの塊である弟がこの話に絡まないくらいには自分に何の感情も向けてないことも、そいつらが自分のことを考えずにまあまあ普通に話すくらいの仲であることとかが全部嫌なんだと思う。

レイが語り手なので弟が出てこないのもあるけど、彼の語り口だったら弟も出てくる3人舞台だろうに匂わされる嫉妬も怒りもガン無視して2人舞台として語るレイの「見えてなさ」も彼の孤独の一因だと思うし…。レイが恋で盲目になってなければもうちょいどうにかなったんじゃない?って思わせるような解釈で2人の演技が進んでいくのももどかしさの一つだった。相互理解が足りないってことはなく、そもそもお互いが見えてないので理解とかの土俵に立っていない。

彼の言うことを聞く代わりに言うことを聞かせる契約をしたレイが「抱きしめてよ」って言うシーン、普通にハグの要求かと思ったら2人してスーツを脱ぎ出すのでマグさんと私(柳)は「あっ、抱く感じ?!?」ってしばらく動揺したし抱く感じだった。

普通に〜事後〜の雰囲気を醸し出してるシーンで彼の方がぐったりしてることをマグさんが「彼が抱かれる側だったんじゃないか」って言った時は天才かと思った。確かに男性同士で好意がレイの方が重いとなるとその可能性の方が絶対高い。でもレイが「優しくしなくていい」って言ってるのでわからないところではあるんだけど私(柳)は個人的にこの説を推します。

私ってこの舞台の話してる時に書くとレイのことである可能性が高いよな…と思って毎回私のことを言ってる時は()つけてるけど無駄なことか…?わからないな…。

殺人と動機

子供の殺害に抵抗はするものの最終的に折れるレイ、この後犯行に使う道具とかも用意させられてるので彼としては万一犯行がバレることがあったとしてもこの時点からレイになすりつける気満々だったと思う。

まあでもここで殺すのに苦労しそうな細い紐、細心の注意を払う関係で遺体によく触れなきゃいけなさそうな小瓶の硫酸、慢心しそうな完璧なハンマーを持ってくるあたり、レイの「99年…!」への布石は始まっていたような気がしなくもない。メガネはダメ押しかも。ダメ押しというか。犯人になるまで彼に話しかける口実がいるもんね〜!みたいな。最悪のモテテク。

そうでなくともメガネの話をしている電話のシーンは「彼は無視できない」「話しかける口実がある」でレイにとってボーナスタイムだったと思う。自分の行動で相手を支配(苛立たせる)ことができてるわけだし、犯行は明るみになって理想に近づいているし。

それはそうと本当に完全犯罪をする気だった彼、悪人としての素養が感じられる誘拐シーンでかなり怖かった。気がついたら「俺たち友達だろ?」と距離を縮めているところも、あっという間に子どもと触れ合う距離にいるところも怖かった。あまりに手慣れた様子は他の人間もこの子どもと大差ないんだろうなと感じさせるし、そう思うとレイって思い通りにいかない人間ではあるんだろうなと察せられる。

ずっとパワーバランスの話をする舞台だし、この辺から99年…!への温度差を出すためにレイへのあたりがめちゃくちゃ強くなっていく彼とされるがままのレイ、今見ると完全に逆だしレイの手中であるのでだいぶ怖い。

見つかったメガネにより捕まるレイと、司法取引をすると正しく裁かれることになる彼とのやり取り、本当に最悪で最高だった。

彼はレイって呼び名に対してはっきりと「呼んで欲しいだろ?」と言った上で滅多には呼ばない性格の悪い男なんだけど、司法取引したら君は…という告白の後は過去最高の密度で「レイ」って呼んでくる。ここ本当に焦ってるんだなって分かって最高だし、ダメ押しにキスまでするし、「いいよ♡(本当にこれくらいの温度だった)」ってレイに言われた時は秒で立ち去るので最悪の人間だった。

彼、レイが自分に好意を向けてることはわかって利用してるけどそれが単に恋愛だと思っているから足元を掬われたので自分からも他人からもこの手の感情を向けたことがないし考えたこともない、というのかなり興奮する。こんなに魅力的な人間なのにレイのような偏執的なものとは言わずとも人生を賭けるような感情と無縁で愛に満ちてない人生なのかもしれないのに、自分が考えないなら存在しないだろうと思って大抵はその通りである賢さと孤独さがかなりいい。

レイが司法取引をキャンセルしたので2人で罪を被ることになったあとの搬送シーン、かなり好き。まあみんな好きだと思いますが…。

「ずっと一緒だ、永遠だよ、99年…!」というレイの執着の全貌が彼に開示されるところ、レイの行動力と想いのデカさを見誤っていたことともう逃げられずに目の前に横たわる2人きりの99年に絶望する彼の顔がかなりいい。この前の留置所での「死にたくない…!」で泣いたくせによく朝はけろっとしてるところも良いんだけど、それを踏まえて「失敗を少しづつ認めていく」、顔をするのが何よりプライドが傷ついているのが分かって最高だった。

何をするよりも自身の失敗と見誤りを認める時に苦しい顔をする男、良すぎる。

この時に「お前が待つのは永遠の孤独…!」って彼が言ったその時が最初で最後の彼とレイが対等だった瞬間だと思う。認める人間が自分の思うがままになった時の孤独をレイの中に見たってことになるし、心境を吐露したシーンでもあるので…。

レイの現在の独白から、99年の永遠は10年経たずに終わってしまったらしいの、事故かそうでないかで言ったら彼の逃げ勝ちだったのでは?という気がしなくもない。その辺の人煽って刺させるくらい簡単だろうし。

以降の30年にわたる孤独と、それが「超人だから」ではなく「どうでもいいから」という理由で釈放されて刑期を終えるレイってかなり何も持ってないんだろうし、本当に孤独だと思う。

荷物を返してもらった時に「若い頃の彼の写真…」と呟いた後に彼が舞台の上から出てくるシーンがあるんだけど、この時の彼は舞台終盤のボロボロさではなくて序盤の生き生きとした顔をしていたの、かなり、かなり恋の盲目って感じで何も見えてなくてそれだけで生きてるという感じがして、個人的にはレイへの脱力というか、今日ここに至ってもレイってあの時の瑞々しくて触り難い彼のことが好きなままでそこから一歩も動いてないんだなって感じて、最高!!!って気持ちと本当に怖いよお前のことが…という気持ちでいっぱいになった。中盤から終盤にかけての彼も見てやって欲しい。ここで出てくるのが「99年…!」を受けた時のベストでボサボサ髪の彼だったらまた違うかんじで舞台が締められたと思う。

最後、「すりるみー」と歌ってにっこり笑い、直後に表情を無くして暗転して舞台は終わる。

彼への愛が全面に押し出されていた今回は、レイが彼を失った時点で負けなのでレイの完敗と孤独を表してるけど最後の最後まで恋したまんまだった強さも同時に示してるので彼自身は負け続けていると思う。

ここ別のバージョンだと高笑いで終わっててもおかしくないと思うので本当に別バージョンも見てみたいな…。

もうとにかく好きな感情が跋扈する好きな舞台だった。舞台の演出も音楽が生のピアノのみであるところもグッズ展開もセンスの塊で好きでいて後悔のないところもある。本当に見れてよかった…!!

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