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チェンマイの女子高校生ストリートシンガー(後半)

 チェンマイではナイトマーケットだけでなくて、普通のショッピングモールでもエレアコ弾き語りのシンガーがたくさんいます。
(そのかわり店内BGMというものはない)
 結構年季の入ったおじさんフォークシンガーみたいな人がモールの1階玄関付近の休憩場所のようなスペースで歌ってます。
 別に人だかりができるわけでもなく、ほとんどの人はその存在を無視している感じです。

 彼らの演奏する楽曲はほぼほぼ1970年代の古い洋楽です。「イマジン」「Yesterday once more」あたりは皆もれなく必ず歌います。あとは「Have you ever seen the rain(雨を見たかい)」「Let it be」も定番。
 だから、欧米のおじさんおばさん世代は反応します。イマジンなんかは自然とみんなが口ずさんでるときもあります。
おそらく、チップ目当てなので、観光客のなかでもお金を持ってそうな世代しかもチップ文化が浸透している欧米人にアピールするべく選曲がなされているのでしょう。

 しかし、サタデーマーケットで私が遭遇した女子高校生はそうではなかった。彼女はタイ語の歌しか歌わないのです。外国人からすると馴染みのない曲。タイ国のヒット曲なのか、彼女の自作曲なのかすらわかりません。

 しかし、彼女の透明な声と独特のメロディ、そして何といってもYAMAHA製のエレアコ。私は思わず立ち止まってしまったのです。

 そして足元の白い箱には「Help me go to school 奨学金」と書いてある。

 私は基本的に街頭募金などしないタイプです。路上パフォーマンスを眺めることはあっても、パフォーマーの足元に置いてある帽子にチップを入れる、なんて粋なマネはしたことがありません。

 しかし今回に限っては思わずポケットを探っていたのでした。

 Gパンのポケットには100バーツ札が1枚、20バーツ札が1枚あった。
 2枚の札を箱に入れても日本円で500円程度である。「大した額ではないじゃないか」と思われるかもしれない。
 しかしそれは単純にレート計算して日本の物価水準で考えた場合の感覚であって、チェンマイの物価感覚(首都バンコクと比べても2割安くらい)でいえばかなりの金額になるのである。120バーツあれば、ぜいたくな夕食にありつけるし、市内から5キロ離れた空港までタクシーにも乗れるのだ。日本の感覚だと2000円から3000円くらいの価値はあるでしょう。

 それにまだまだサタデーマーケットの道のりは長い。これから先、焼き鳥を買ったりコーラを買ったりする資金も残しておかないといけない。

 30秒くらいの葛藤の末、私は20バーツ札1枚を白い箱に入れたのだった。
「なんやこのオッサン、ケチくさいなあ」と彼女はタイ語でつぶやいたのかもしれない。
 「奨学金」には程遠い額ではあるが、「これで後でバーミーナムでも食べてちょうだい。がんばれJKシンガー!」という私なりのメッセージを込めたつもりである。

 ホテルに帰ってから、「やっぱり、あのシチュエーションならば100バーツ札を入れるべきだったかな」と軽い後悔の念がこみあげてきた。

 まあいいや、奥さんもチェンマイ滞在は大いに気に入ったようだし、関空から直行便が飛んでいる限り、また近いうちに再訪することになるでしょう。
 次にチェンマイに来たときにサタデーマーケットで彼女を見つけたら、こんどこそは、今回の後悔分と合わせて200バーツくらいは白い箱に入れよう、と決心したオッサンでありました。

 それまでに韓国の財閥の御曹司が200万バーツくらい彼女に手渡していれば、彼女はもうマーケットで歌う必要もなくなるのだがね。
 そんな韓国ドラマをNETFLIXでいつか見てみたいものです。

 

 

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