春は来る

大玉村にスクモの切り返しに行こうとして走り出したら、彦さんに「昨日やったばい」と聞く。あ、じゃあいかんとこうかなとも思ったが、雪の具合で今日がよかったので、やっぱり行く。ただ、会いに、話しにいくというのも、考えてみれば少し前は当たり前だった。藍なんか育てて無かったんだから。道すがら、片道3時間で日帰りだと一日のうちほとんど運転してて、ガソリン代は2千円くらいだな、とかチラッと浮かぶ。生きていることってあっというまなのに、今日の過ごし方ってあんまり分かってない。勘を、砥ぐには研くにはどうしたらいいんだろう。寝起きや、ちょっと前に思いついたこと、人の声なんかを頼りに歩いている。あんまり人に会わなくなったから、インターネットで人の声さがす。苦い。

県境を越えると、雪がへってゆき、大玉村は降りたての雪に覆われていた。土が白いの、はおってる感じ。彦さんのところで話をして、おおまかに今日やることを考え、ナベさんと詰めて、ロコハウスでひろこさんに運びを相談する。そうこうするうちに研吾さんが合流して、バリエーションを広げてもらう。甕の置場だけじゃなくて、インターネットの土方もやらなきゃなってのも話す。ここにいない人とも話したい。ここのことは、あなたのことだからだ。

彦さんと帰りにまた話す。東京の人、大玉のこと忘れちまうんじゃないかって言う。「んなことあるかい」と思う。でも、そう言いたい気持ちもわかるし、その気持ちが重いってことも彦さんに分かってほしい。それを越えて、彦さんにとってのこの一年の重さは、僕にはわからない。90歳目前の、ベストコンディションの春。なにかやりたいよな。俺だってそうだもん。90歳。すごいな。元気だ。今年も、藍の種を蒔く春がやってくる。

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