USJを劇的に変えたたった1つの考え方を再読して

USJを劇的に変えたたった1つの考え方を再読したので、感想を。

結論から言うと、やはり本当にいい本。基本的に見えて大事なことが詰まっていると感じた。定期的に読み返したい本。

以下、要約。

戦略とは

戦略とは、目的を達成するために、資源を配分する選択のことである。達成すべき目的はあるが、資源は常に限られているため、戦略が必要となる。

「およそ経営資源は、達成したい目的に対して、常に圧倒的に足りない...」ので、選ぶことで足りるようにする。

具体的に、資源を選ぶことで「足りるようにする」とはどういうことか。戦略を考えるときのキーポイントは、"競争相手がいる"ということだ。

仮に他社に100の資源、自社に80の資源があったとする。他社が5つの戦局に20ずつ資源配分をしたとする。このとき自社も同じ様に、5つに均等に資源を投下すると、20vs16となり、すべての戦局で負ける。一方で、3つに30、残り2つに5を投下したとき。このときは、3つ勝てて、大局的には勝っている。

つまり、全体の数的有利は大局での勝利を確約しないということだ。1戦あたりの数的優位が大切である。

これが戦略の基本的な考え方であり、"勝ち"(少なくともイーブン)にならないと結果が出ない。例えば、動画サービスを今から作るとして、アプリケーションだけを作って、オリジナルコンテンツを質よく作るところまでやらないと、大した顧客は獲得できないだろう。(それは、競合にNetflixやDisney+がいて、彼らと比較されるからである。彼らの提供価値の水準が最低限投下しなければいけないラインだ)

つまり、ビジネスでは、一定まで資源を投下しないと意味のある効果が見込めないライン、「勝てるライン」が存在するということである。

足りない資源を選ぶことで足りるようにするとはどういうことか。それは、「やることを選ぶ」である。これは、「やらないことを選ぶ」と同義である。いわゆる選択と集中である。

そして、実際のビジネスでは勝てるラインが曖昧で、明確に見えていないことが多い。そのような場合は、より一層の選択と集中が求められる。

なお、仕事も一緒である。10球飛んできたら、すべての球に同じように打ち返すのは得策ではない。本当に大事な球を3つほど見極め、それ以外は打たない。最も重要なインパクトを与える球には100点を、次に重要な球には80点を。他の7球は、やらないことを合意するか、納期を遅らせるか、やったふりをすれば良い。

数ある資源の中で、最重要な資源は何か。それは「ヒト」である。なぜなら、「ヒト」がいれば、他の資源は作り出すことができるからだ。成長する会社は、人的資源を成長させ続けることができる会社である。よって、人事部の果たすべき責任は重要だ。

戦略的思考とは何か

戦略的思考とは、「目的→戦略→戦術」の順番で考えることだ。最初に目的を明確にすることが何より重要であり、戦術より戦略を先に明確する。

マーケティングの目線でいうと、

・目的=OBJECTIVE

・目標=WHO

・戦略=WHAT

・戦術=HOW

である。

良い戦略とは

良い戦略は、4つのSを満たす。

Selective

やること、やらないことが明確である。

Sufficient

経営資源がその戦局での勝利に十分であるか。※Selectiveでないと、Sufficientにならないという意味で、Selectiveと密接に関わっている

Sustainable

短期ではなく、長期で維持・持続できるか

Synchronized

自社の特徴(強みと弱み)を有利に活用できているか。もっというと、強みを活かした戦略になっているか。


実際には、4つ全てを満たす必要はない。本当に良い戦略は、著者の経験によると、4つがそこそこではなく、どれか1つが突出していて、1つぐらいは不備があることもある。

良い戦略を立てるために重要なことは2つある。

1つは、まず「情報」をきっちり獲得すること。

もう1つは、情報を獲得した上で、自社と他社の差を利用すること。その差を、自身に有利になるように活用する。もっというと、自社と他社の差が有利になるように文脈を設定するということ。物事には二面性がある。強みの裏には弱みがある。自分が相手ならば、何をされるのが一番困るのかを考えること。

戦況分析をどのようにやるのか

戦略を立てるに当たって、戦況分析は非常に重要だ。なぜやるか。それは、市場構造を理解して、それを味方につけるためだ。市場を1つの機械と捉えて、仕組みを理解する。何が何によって決まっているのか。どこを押せば、どういう風に動くかを理解するということだ。

戦況分析の一例として、5C分析を使ってみる。

Company(自社)

主に3つに分けられる。

1. 自社の全体戦略を理解する

2. 自社の使いうる経営資源を把握する

これは「ヒト」という資源に関して、例を挙げると、どのような能力を持った人をどのくらい投入できるかということである。

3. 自社の能力や性格としての特徴を把握する

「過去にどんなことをやってきたのか。その際に機能した特徴は何か」を見ていくと、浮かび上がってくることが多い。

Consumer(消費者)

マーケティングは、消費者理解に始まって、消費者理解に終わる。

量的理解と質的理解の2つが重要である。

量的理解: 数値データを用いて、広く全体像を理解する。

質的理解: 質的調査を通じて、消費者の深層心理に迫る

マーケターを上中下に分けたとき、「自社ブランド、カテゴリーの中で消費者心理をちゃんと理解できているか」が中と下を分ける。一方で、上と中を分けるのは、「ビジネスの文脈をこえて、消費者の心理を包括的に理解でいているか」である。人としての総合的な理解が重要である。

Customer(流通)

省略

Competitor(競合)

広義においての競合理解までやる必要がある。例えば、USJが提供している価値を非日常への現実逃避と仮定すると、スマートフォンも競合である。

このように、自ブランドが提供している価値は何か?から考えると、競合も見えてくる。

Community(ビジネスを取り巻く、周辺環境)

社会がビジネスに与える、様々な外的要因を把握しておくことが重要である。

例えば、法律、世論、人口統計、規制、景気などである。

外的要因は自社ではコントロールができない。よって、自社のビジネスに与える要素のドライバーを明確にして、その動静をモニターすることが大切である。

戦略を立てる

戦況分析が終わったら、目指すべきところを決めて行く。

目的の設定を行い、それに沿ってWHO、WHAT、HOWを決めていく。

目的の設定

適切な目的設定には、3つのポイントがある。

1. 実現可能性

ギリギリ届く高さを狙う。適切な目的は、高すぎず、低すぎず。

高すぎて、どうしても達成できそうな目的はモチベーションが上がらない。低すぎる目的は、誰も努力しない。

2. シンプルさ

要素がたくさん含まれる複雑な目的設定は機能しない。人が理解できる、覚えられる、すぐに思い出せることが大切である。

USJでも、1要素だけのシンプルな目標を設定した。「ファミリー層の獲得」「関西依存からの脱却」などだ。

3. 魅力的か

ひとりひとりが奮い立つような目的を設定しよう。頭だけでなく、心からどうしても達成したくなる目標を立てると、どんどん人を巻き込める。

USJで、低予算のアイデアで戦っていた時、「何としても、ハリーポッターを建てるため」と説明したところ、みんなの目の色が変わったことを覚えている。

WHO

「私は成功のカギはしらないが、失敗のカギ走っている。それは全ての人を喜ばせようとすることだ」

ターゲットは選ばねばならない。理由は3つある。

1つは、限られたリソースを消費者全員に投下すると、一人当たりのリソースが薄くなるからだ。そうすると、「勝てるライン」に届かず、全負けになる。

もう1つは、そもそも消費者の間で、買う確率は偏りがあるからである。例えば、将棋グッズを販売してたとして、将棋に興味がないアウトドア派に売ろうとしても、上限値には限りがある。将棋に興味がある人に、できるだけ買ってもらうということが現実的だ。(人は簡単には変えられない)

最後に、満たすべき消費者ニーズにも偏りがあるからだ。将棋グッズ、1つを取っても、「将棋上達に役立てたい」「観る将として、プロ棋士・対局の雰囲気・風情が好きで、それを体感したい」「藤井聡太が人として好き」などで、欲しい商品・満たすべきニーズは変わってくる。

では、ターゲットとは何か。ターゲットには2つある。戦略ターゲットとコアターゲットである。

戦略ターゲット: ブランドがマーケ予算を投下する最も大きなくくり。目標達成に比べて、小さくなりすぎないように注意する

コアターゲット: 戦略ターゲットの中で、マーケ予算を集中投資するくくり。ここも、目標達成に比べて、小さくなりすぎないように注意する。

そして最後に、WHAT、HOWよりWHOが大切である。WHOが適切であれば、WHATやHOWも見えてくる。

WHAT

WHATを決めるとは、消費者価値を規定することだ。

つまり、消費者がそのブランドを選ぶ根源的な理由をはっきりさせるということだ。

「ドリルではなく、穴が欲しい」という言葉は有名だが、本当に何を求めているかをはっきりさせることが大切だ。(それをたどるには、なぜ?を考えることが必要)

USJでいうと、消費者が欲しているのはアトラクションを体験した時の「感情」である。アトラクションは、その「感情」を生み出すためのHOWにすぎない。

ブランド・エクイティとWHATを一致させる

そして、ここでもう1つ、ブランド・エクイティという概念が出てくる。ブランド・エクイティとは、消費者がブランドに対してもっているイメージのことを指す。頭の中の認識だ。

そしてブランド・エクイティの中でも、消費者がお金を払う部分を、戦略的ブランド・エクイティという。この戦略的ブランドエクイティが大切であり、これがWHATに相当する。(memo: 有価値ブランドエクイティとかの方がわかりやすい気もした)

どういうことか。フェラーリを例にとって説明する。

フェラーリのブランド・エクイティは、超高級スポーツカー、かっこいい、速い、赤い、イタリア製などがある。

フェラリーが何を売っているか(WHAT)は、「成功者としての優越感」とでもいうべきだろうか。

そして、このWHATとブランドエクイティが一致していることが大切である。つまり、「成功者としての優越感を得たいなぁ」と思った時に、フェラーリのブランドエクイティがその要素を満たしていれば、変われるということだ。

そのため、フェラーリは、「成功者としての優越感」を強化するブランドエクイティを作っていくことになる。

そして、ブランドエクイティは相対的であるということが抑えるべきポイントだ。

消費者の頭の中にある、競合との相対的な位置付けのことをポジショニングという。

例えば、ダイソンであれば「吸引力が強い」である。これは他社に比べて、強いということを表す。

そして、購買において消費者がひときわ重要だと思っている価値観がある。(WHATから導き出される)。その価値観と一致するブランドエクイティを自ブランドが単独で所有できれば、ベストだ。

チャレンジャーとして挑戦する場合は、重要なブランドエクイティを奪うか別の価値軸を消費者の頭の中にうちたてることが重要である。

そして、重要なことは、ポジショニングは「相対的」ということだ。自分が動かなくても相手が動くと、動かされるし、自分が動くと相手を動かすこともできる。

チャレンジャーは、下克上で天下を取るために、どうやって消費者の頭の中にある有利な場所へ自ブランドを動かすかを考えている。一方、王者の方も、誰が何を仕掛けてくるか、差別化を仕掛けられたらどう同質化するのか、現在の軸が狂わされるとしたらどんなやり方があるのかを考えている。

HOW

戦術が強くないと、素晴らしい戦略でも目的を達成することはできない。

HOWのエクセレンスで最重要は、WHOの理解である。自分のセンスで判断するのではなく、深く理解した消費者の視点から、HOWを判断する。

そのため、消費者理解に徹底的に時間を使うことが大切で、なんでも自分でやってみるということは大切だ。

エピソード

著者のエピソード。2011年、設備投資をほとんど使わずに、劇的に集客を伸ばすアイデアが求められている。

著者は市場構造を分析して、9,11月が最も伸び代が大きいとわかった。数学が使えないと、集客数が少ない時期にこそ、伸び代があると考えて、1~2月や5~6月の閑散期をなんとかしようとする。

しかし、自然の地形に逆らって相撲を取ることはできるだけ避けている。自然の地形はできるだけ利用した方が良い。より伸び代がある場所を計算して、そこを集中的に攻めた方が、全社を勝たせる確率は明らかに上がる。

どう戦うかの前に、どこで戦うかを正しく見極めることが大切である。

まとめると、最重要事項は2つあり

・戦況分析を徹底的に行う

・消費者理解を徹底的に行う

であり、これらが理解できていれば、戦略は見えてくる。

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