冬野梅子「まじめな会社員」雑文。

冬野梅子「まじめな会社員」という、2022年に出版されて、話題をさらったマンガ作品がありまして。

読んであまりに感情をかき乱されるので、アウトプットを試みました。1話ごとに、実況じみた感想です。当方、オシャレサブカルを挫折したオタクで40代半ばでございます。
ネタバレは多少ありますが、なるべくはっきりと書かない仕様にしてみました。
今村、想ちゃん、綾ちゃんにはちょっと点が辛めです。とくに今村に対してはヘイト気味です。お好きな方、すみません…。

●『第1話 さよなら定型文』

あみ子、自意識が激しい。わかる、という部分もあるけど、疲れそうだな…。「無難で波風立てない」あみ子なりの努力なんだけど、その努力の果てに何があるんだろうか? あみ子に出会いフラグが立つけど、いきなりショックな展開に! 1話目、ごく最初の印象だけなら、独身ガール3人でつるんでる「東京タラレバ娘」みたいな感じがするかも。しかし、想像以上にシビアな展開。

●『第2話 愚者のカード』

読者目線では、ああ、その人は好みストライクでもアカン…という気持ちに。あみ子、かわいそう、と思いつつ、営業部の人については、ずいぶん見下してる。自分を卑下する人って、じつは人に対しても品定めをする癖がある。愚者のカード、逆位置だと(諸説あるけど)「その挑戦は無謀であり、不安定で心配、そしてその言動はわがままである」だそう。https://coconala.com/magazine/22016#i-6

●『第3話 ミスマッチングクラブ』

恋愛に興味ないそぶりをしていたあみ子だけど…うーん、じつは、手痛い失恋をしていて、引きずっていたのね。しかし、私が柴田聡子だったらつきあってくれたんじゃない?って引っ張り方は、ナード男性の想ちゃんにとって、一番ウザいやり方だ、それはアカンて!! それが許されるのは中学生までだから! あとね…そのことを、みさきちゃんや嶋田ちゃんにバラしちゃう奴だから、想ちゃん、少なくとも男気あるタイプではない。その程度の人間だ。

●『第4話 明るい未来(仮)』

マッチングアプリで会った人に失望…じつは今村さんに対する恋愛(?)の、代償行為だと気づく。もやもや。たしかに今村さん、優しいし、雰囲気いい人ではあるけど、ちょっと、貞操観念(?)について疑問は発生するね。すぐ近いところに「彼女」がいるわけだし。

●『第5話 惰性の帰省』

帰省編。東京の意識高い層や、SNSでは、価値観がアップデートされているけど、田舎ではまだまだあんな感じ。
ストレートに言うと、あみ子のこの育ちは、オシャレサブカル界ではほんとに不利だろう。東京育ちか、地方から来ても親がリベラルだったり、センスいい人だったりしない限り、「身の丈に合わない」感がつきまとって、オシャレになりえない。(※個人的に、それを自覚して、早いうちにオシャレサブカルに挫折したんである…。)
ただ、あみ子父の「結婚しなきゃみじめ」って価値観、じつはあみ子にもあるんじゃないか?前話の、森さんに対する気持ちとか。だから本気で腹が立つんだろうな。結婚しなくて大丈夫、と思えたら、受け流すこともできるんでは。で、そういう人って金持ちとか、男女問わず人たらしとか、かなり選ばれし強者ではある。
さて、あみ子の元彼、登場! ただ、その人物像は、想ちゃんや今村と正反対の、「つまらない人」。ただし、出世はしそう。なにげに、この人と付き合っている時のあみ子、著者の冬野梅子さんの新作「スルーロマンス」に出てくる、「女のモノマネ」みたいな仕草をしている。(意外にかわいい)自分の思う「オシャレな行動」に彼氏がつきあってくれない、という不満が出てるけど、厳しい言い方をすると、あみ子は自立してないかもね…。

●『第6話 町に出ようよ』

今村サイドの話。おそらく、有名大学の出身なんだろうか?
あみ子と綾ちゃん、仲がよい。自分があみ子の立場なら、綾ちゃんに対して暗い感情を持ちそうな気がするけど…。(好きな人の彼女であり、自分をフッた相手とも仲がいい。しかも自分にないものをたくさん持ってる)

●『第7話 コロナ前/コロナ後』

コロナ禍始まりたての時期。懐かしい気すらする。リアルな描写。これは世界遺産にしてもいい。リモートワークって、人付き合い下手な人には嬉しかったりするわけで。
ただ、新人の品川さんを指導する必要ありで、あみ子の小さなパラダイスだった、リモート勤務が途切れる。あみ子、仕事にやる気がないと言っているけど、会社内では、わりと人材として優れているのでは?とも思う。なのに安く使われている…。
で、あみ子、友だちとリモート飲みしてわかる、みんなは自分がいない時にはもっと本音で話してる、という辛い真実に気づく。
(※個人的に…コロナ始まりたての頃、下の子0歳児で、出かけるのも大変だったし、ある意味生活が変わらないという気持ちには共感した。)

●『第8話 誰かのいつメン』

心が痛い回。なにより、嶋田があみ子を、ウザいと感じていたことが明らかになる…。喫茶店のメンバーも、あみ子抜きで何も不足はない、って感じだし。
しかし、30くらいになると、「それやめようよ」って諫言すら、言ってもらえなくなるんだろうか。それとも、あみ子に対しては、言うと面倒くさいという判定をされてしまったんだろうか…。
あみ子はあみ子で、綾ちゃんに新しい恋があったことをきっかけに、孤独を深める。SNS画像は、ちょっと無神経にすら思える。あみ子、この状況で自粛警察にならなくてえらい、と褒めたくなる。

●『第9話 こういう生き方しかできない』

今村とフラットなトークをするあみ子。いいこともあれば悪いこともある。品川さんへのちょっと仕返しっぽいことは、お仕事マンガの主人公ならやらないけど、現実にはこれくらいやった方が薬になるんでは…。綾ちゃん、弟さんのおかげで、また活躍の場が。言ってはなんだが、定職についたことあるんだろうか…。

●『第10話 探偵あみ子』

心が痛い回、かなりグッサリ。積極的になるのは、悪いことじゃないのに…。
喫茶店の常連だった人も、まるで、あみ子をいなかった人みたいに扱う…。
深読みだけど、綾ちゃん=読書仲間のアイドル(個人的にはサークルクラッシャー認定してる)であり、その中では強者である今村と付き合うなら許すけど、って空気、想ちゃん=喫茶店常連のアイドル、なので、抜け駆けして失敗したあみ子はパージされてしまった、ってところかな~。(知らんけど)

●『第11話 美次元な彼』

心底イヤな目に遭ったものの…ああいう場でスカッとするようなこと、言えないよね。挨拶して早く帰って、思い出し怒りするしかないよね。ステキな人・北見さんとの出会い。あみ子、今までの人生を省みる。そんなに自由には生きられない、って「まじめ」になって、損ばかり食ってきた。気づいて新しい一歩を踏み出すあみ子、応援したくなる。

●『第12話 野良ライター』

今時のwebライターとして、頑張ってみて、多少の充実感を得られるあみ子。信金の後に働いた事務職で、営業を強いられた時、激しいストレスで倒れかけた経験談が…。あみ子、かなり繊細な性質なのに、無理していたんでは。今村の女癖、やっぱりな…という感想。かなりタチが悪い(罪悪感がない)。事故物件だと思う。北見さんは、誠実そうではあるけど…?

●『第13話 おでんのコスパ』

会社トークが、リアリティ満載。メイちゃんの恋バナ(とはちょっと違うけど)も、浮気男と別れない女子って、こういう理由かなー、と、解像度高い。あみ子、経済的余裕が出て楽しくなるものの…デジャヴ?

●『第14話 私には知る由もない』

フラグ折れてしまう。あみ子の心も折れる。ただ、自分だけ子どもみたい、と思えるのは、成長だなと思う。これまでのあみ子の振る舞い、子どもっぽい面が多かった。オシャレ映画とか文学を嗜んでも、それを自分の中に響かせる程の、経験や共感がついて行っているのか…(※今、自分にブーメランがぐっさり…)余談だけど「恋するニワトリ」って例えが出たのに驚いた。みんなのうたソング界では有名だけど、オシャレサブカル界でも有名?谷山浩子だから?

●『第15話 金と人生と社会』

あみ子に与えられる「赦し」。ほっとする。どちらも、クズ男今村が接点で知り合った…といえるけど。。生きづらさ、って、正直お金の要因が大きいんだろうな…という気もする。

●『第16話 不意打ち』

仕事が充実してきた分、恋愛にシャッターを降ろすあみ子だったが。目の前で修羅場、からの意外な展開。難しいな、これ。個人的には「やめとけ」派だけど…。(あんなの繰り広げた後にこの振る舞い…)

●『第17話 囚われて…2021』

さて、あみ子の反応は…。非常に微妙なもの。今村のモノローグがずいぶん舐めくさったもの(ただ、サブカルちょい勝ち組が、サブカルかぶれガールに対する感情ってこんなもんかもしれない。残酷だが。ファンでいてもらって自分の承認欲求を満たしてほしい、くらいの)で、火あぶりにしたくなる。外野からヤジ飛ばせるなら、「あみ子!この際利用しなよ!彼氏が数年間いないコンプレックスを、1ー2日付き合ってリセットすればいいさ。大人の恋愛ってやつぅ?」もしくは「そこは、平手打ちして、『あんないい子のメイちゃんを傷つけて、手近な女に手を出すの?』くらいに叱ってもいいんじゃない?おもしれー女目指せや」などとね…。

●『第18話 謙遜のシステム』

太田、ただの「嫌なやつ(控えめにいって、調子ばかりいいやつ)」だった!あみ子の拒否感にうなずける…。でも、そういうやつこそ、仕事ではうまいことやるんだよね。あみ子みたいに下支えしている人は、あまり認めてもらえない、という社会のバグかもね…。梶原さん、アクも圧が強い人だね…。もしかしてあみ子に好意あるかもしれない??けどあみ子は心底苦手なタイプ。信金時代のエピソードが明かされると、あみ子、どうやら「営業」そのものがかなり苦手な気配…。「作りたい女と食べたい女」に、料理に付いて「自分のために好きでやってるもんを『全部男のため』に回収されるの、つれ~な~」ってセリフが話題になったけど、あみ子にとって、ただ好きな映画や本を、仕事トークの種になる、と回収されるのも、また辛いよね。そんな、昔の意に染まない仕事先で、自己肯定感が上がる出来事が。あみ子、よかったねえ…。

●『第19話 TOKYO』

梶原の仕事、受けてみてもいい気がするけど…まあ、嫌なものは嫌、なのかな。会社で起こる嫌なことはある程度想定できるけど、フリーランスで起こる嫌なことって、なかなか想定しづらいこともある…。あみ子の現職も「楽」で選んでいるので、いったん「楽」でなくなると、辞めたい、が強くなってしまうのかな。契約社員に新人教育させて、手当もつかない、ってのは、すり減るなあ。しかも、コロナ禍で楽しいことも減り…今村も、さらに遠くなる、なんてことになると。足元がぐらついたところで、急転直下!

●『第20話 帰郷』

朝ドラのような、時間経過。その果てに…。「介護離職」という言葉がちらつく。さすがにあみ子パパにイラっとするなあ。この人の生活力がちゃんとしていたら、あみ子の現状はもう少し違うだろうに。サブスク家政婦扱いじゃん…。調べたら、青森の最低時給は853円…。東京のカルチャーの味を知った分、その先端にいられないのは辛いだろうな。なお、青森ディスマンガっぽくなっていますが…。個人的に、見聞きする限り、青森どこでもそう、ということはないです。あみ子の家が、ある意味「変わってる」可能性もありそう?あと、今村!お前、介護とか絶対してないだろ!偉そうにテレビ出てるけど、家族からは鼻つまみ者だろ!

●『第21話 心の声』

あみ子、大いに怒る…!! 今までも怒っていい局面はいくらでもあったが、そこなんだ!という気持ちに。まったく興味ない分野で学校行って卒業できるのは、すごいとは思うけど。ちなみに筆者文学部行きましたが、就職に苦労したのは確か。しかし、好きでもないことをして、好きでもない仕事をさせられた挙句、そう仕向けた人が何も考えていなかった、としたら…。そりゃもう、怒るね。
最初通読した時、山岸凉子の『天人唐草』を想起したけど、構造としては似てるかも。
なので、アラサー層だけでなく、進路に悩む高校生にも読んでほしいな、と。

●『最終話 わたしの未来』

ふたたび東京。結末は…。あみ子パパは「東京は人の住むところではない」(訳文)というけど。今や、いつ壊れるかわからない、車必須の雪国の一軒家で冬の厳しさを味わいながら、稼げなくて報われない仕事しかない地方だって、まったく人の住むところではない、のでは…。10年前なら、地元でサブカルバー、カフェを開く夢もありだったかもしれないけど(?)、これだけ日本全体の景気が悪くて少子化が進んでしまうと、「棲み分け」するしかないかな。
しかし、今村ぁ!お前、自分がら満たされたからって、(以下ネタバレと罵詈雑言の嵐…)

◆◇◆
出だしは、渋谷直角「カフェでよくかかっているJーPOPのボサノヴァカバーを歌う女の一生」みたいな、サブカル戯画ものかと思ったら、結末はなかなかに「文学」であった。

実際、読み応えは小説並みであった。コロナ禍の時期を活写した作品としても、評価したいのです。

容姿、非モテの自虐で笑う文化がだんだん廃れていく時流もリアルであった。後世にぜひ残したい。

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