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(13)彼の気持ち

須藤さんとのあの夢のような夜から、

3ヶ月以上。

会いたい気持ちは募るけれど、

二人で会える日は、まったくなかった。

これはもう、

彼はわたしのことはなんとも思っていないのだな、

とは思うけれど、

でも好きな気持ちは消えない。

そんなふうに、

あきらめたいけれどあきらめられない日々が続いて、

そんな中。

やっと、須藤さんから連絡がきた。

前にわたしがお願いした仕事の件で、

今日の夕方からなら時間が空きそうです、

と、

お願いしてから1ヶ月以上経って、時間をなんとかみつけてくれたようだった。

それくらいに、毎日忙しい人であるのは知っていたけれども。

急にその日の夕方に、会えることになった。

仕事だけれども。

それでも、二人で会える。

飛び上がって、走り出したい気持ち。


彼との夕方からの仕事は案外早くに終わり、

二人でそのままご飯を食べることになった。

(これはとてもとても貴重な時間)

1軒目では主に仕事の話。

そして2軒目、

最初のキスのきっかけになったバーに流れた。

そこで、改めてゆっくりと、今まで分からなかった彼の気持ちを聞くことができた。

彼は、

わたしのことは、とてもセクシーで魅力的だと思ってる、と言った。

ずっと前に、周りのみんなにわたしのことを好きだと言ってくれていたことに触れてみると、

それは、"音楽家としての憧れ"の好きだったらしく、

わたしとどうにかなるとは思っていなかったらしい。

そして、

わたしのことは好きだけれど、神々しくて、壊してはいけないもののようで、粉々にしてしまわないように、気持ちに一線を置いてる、とも言った。

きっと彼の過去の恋愛の失敗も、引っかかっているのだろう。

わたしは、

「粉々にしてください」

と言った。

彼は、俺のことも粉々にしてくれ、

と静かに笑って答えた。

そんな心の交流ができて、

その夜は、

初めて愛し合った日から3ヶ月以上経って改めて2度目の、

身体ごと愛し合える夜になったのでした

甘やかな行為の後、彼は、正直な気持ちをぽつりと言った。

かの子さんのことは好きだけれど、

無事に家に帰ってね、とおもってる。

そうつぶやく彼の横顔を見ながら、

わたしは、

正直な人だな、

とおもった。

わたしに、ちょっとした期待も、させない。

ふたりの絆を深めるようなことばも言わないし、

次の約束をすることもない。

でも、彼のそのスタンスを、ずるいとは、おもわない。

わたしの気持ちとしては、

彼のことを一日中思ってしまうくらいに大好きだけれども、

彼には、家を大事にしてほしい。

奥様を、いつもしあわせな気持ちにさせていてほしい。

そして自分のことも、大事にしてほしい。

そしてほんのつかの間、

わたしとの逢瀬を一緒に楽しんでくれたら、それでいい。

けれども、

そののち

じわりじわりと、

奥さんを大切にできない人は、

自分自身を大切にできていないし、

奥さんと、自分と、向き合わなければならない大切ななにかから逃げ続けるために、

休みなく仕事を入れ続けて家に帰らず、いつもボロボロに疲れているし、

もちろんどうやら、わたしのような、恋人にもカテゴライズできない微妙な関係の相手に対しても、

自分の気持ちを押し込めて本当の愛の交換ができずに、

哀しいループにハマっていく..

という、わたくしごときではどうしようも太刀打ちできない、哀しい彼自身のカルマ的な問題が、

少しずつみえてくるのでした

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