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【物語の現場026】茶店のおやじ推奨・芬陀院の枯山水(写真)

「狩野岑信」の第十八章で、新見典膳が京都にやって来ます。東寺の五重塔が見える茶店で休憩したとき、老店主と庭の話をします。

 物語で、典膳が台ヶ原でお預け生活に入ったのは9歳のとき。武士の子ですから、すでに読み書きは出来ました。しかし、それ以上は父親が遺した書物で自習。当然、高度な芸術や文化に触れる機会などありませんでした。米原の青厳院での生活が初めての機会だったのです。

 禅宗においては作庭も修行のひとつとされます。住職・恒山禅師はその道にも精通しており、その指導の下、荒れ放題になっていた枯山水の修復作業に汗を流している内に典膳も庭に興味を持ったのでしょう。

 さて、茶店のおやじが典膳にすすめたのが、写真の庭です。東福寺塔頭・芬陀院の枯山水(京都市東山区本町、2020.11.27撮影)。

 画聖・雪舟等楊の作庭と伝わっています。

 ある公卿から亀の画を頼まれた雪舟が、石組で表現した亀(亀島)をメインとした枯山水の庭を作った。ところが、その亀が歩き出す事態となり、大きな石を中心に据えて押さえ込んだ、というのです。

 画を注文したのに、なに勝手に庭作ってんだよ?!

 その公卿の反応を見てみたかったですね。信長なら、確実に首を刎ねてるでしょう。

 結局、典膳は乙星太夫に溺れ、この庭を見ることはありませんでした。それはともかく、個人的にとても好きな庭です。

 東福寺と言えば、今や重森三玲。東福寺本坊を囲む四つの庭に加え、光明院、霊雲院と言った彼の代表作に数えられる庭が集結しています。しかし、デザイン性の高い庭ばかり見ていると疲れてしまう。そんな時、この芬陀院のシンプルな庭がありがたい。縁側に座ってぼんやり眺めれば、何か、目も心もリセットされるような気がします。