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スペアヘッド

凶器の槍が示した望んだ通りの末路


1.乾いた音の正体

真夜中に電話が鳴った。友達がいない自分の電話の向こう側はだいたい把握している。我空だ。面倒だが出た。
「俺だよ。今何してんの。」
「何してんのじゃねーよ。何時だと思ってんだよ。」
半分眠りかけていたのもあってオレは少し語調を荒げた。その時何か引き摺る音に気がついた。
カラカラカラカラ
「我空?」
カラカラカラ…カラ…
「ああ、今1人やっつけてきたんだよ。」
金属バットを引き摺る音だと気がついた。
「相手生きてんだろうな?」
「さあ、どうかな。そんなの知らない。別にどっちだっていい。」

こういうときの我空の引き笑いが不気味だ。躁転しているときの奴はまるで別人だから。
「ああ、でも思い切りジャンプして頭かち割ったから動かなくなっちゃった。」
引き笑いから高笑いに変わる。ゾッとした。
「面倒なことにオレを巻き込むなよ。」
無線で盗聴でもされていたらどうするんだ。
「翔には迷惑をかけないようにするから大丈夫だって。そんなに心配なら電話帳から俺の番号を削除しておけ。警察から何か聞かれても知らないで通せるからさ。」

そういう問題じゃないんだよ。未成年の反抗期じゃないんだ。我空は同級で昔から仲は良かったが俺たちはもう25だ。学生時代はまだ未熟だった俺たちは社会に出てからもしばらくはろくでもない事に手を出していたのは事実で若気の至りでは済まされないような悪さばかりして散々親を泣かせてきたが現在の俺は人生を生き直している。少年院に入った経験があるオレが真面目に法律事務所で働いているんだ。なのにコイツは裏と縁が切れない。
「だってあいつらは仲間だからね。皆んなが言う友達の意味が軽すぎるんだよ。俺にとって友達とは家族と同じだから。仲間ってのは一連托生なんだ。だから軽々しく仲間だとか連れとか言う奴は友情とか絆ってものを舐めてるとしか思えねえわ。」
電話越しの我空は冷めた声色で言い放つ。

2.制裁

昔から変人どころか「ヤバい奴」で有名だったが今でも強情なところは性格だから変わらない。自分の中では我空の信条とやらが美学とはとても思えないし義理人情と言っても所詮はモラルから外れた者同士の寄せ集めなのだ。鉄条網で囲まれた超えてはいけない危険領域。そこに自ら飛び込んだ者たちとしか思えない。そこに綺麗事は存在しない。
モラルの壁を越えるか超えないかは大きく相違があり、そこが人生の境目になるのだ。それだけ違いが明確ならば絶縁すれば良いという考え方もあるが嫌いではないから繋がっているというのが単純な理由だ。それに我空には借りがあって切るに切れない。だとすれば借りを返して綺麗さっぱり切りたいのか。
昔俺は気が弱く身体も細くて小さかった。要領は悪く二人一組になる例のやつでは常に一人だけ、あぶれた。

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