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地磁気逆転と「チバニアン」

山門水源の森を次の世代に引き継ぐ会の森だよりに書いた書評に追記したものです。

奥びわ湖・山門水源の森と同じ西浅井町に集福寺環境保全林という200haもの森があります。バブル期にゴルフ場開発の話が立ち上がったのは山門水源の森と共通していますが、山門がその後、保全にむけて県有林化されたのに対して、集福寺は業者による買収、転売がおこなわれ、乱開発の恐れかから当時の西浅井町が買い戻した歴史があります。

山門と違い整備や管理は特別行われず20年が経過した森です。しかし最近では人と森とがつながることを目的に、ながはま森林マッチングセンターにより「集福寺かよえる森プロジェクト」がおこなわれています。

昨年は倒木処理や歩道整備など場所を整えることを中心に、今年は場所としての森を楽しむために写真講座、ヨガ、ウクレレ教室、コーヒー焙煎、町境へのトレッキングが開催されてきました。

12月は長浜市の元地域おこし協力隊でありナビゲーションインストラクターの谷川友太さんを講師に地図読み講座が行われました。地図の読み方を座学で学んだあと、森に出掛けて地形を読むという内容で大変盛り上がりました。なかでも参加者が一番驚いていたのは、磁石の北が真北ではないことでした。偏角といって磁石の北は経線の示す真北よりも西に約7度ずれているのです。昔の地図は7度じゃなかったという声も上がっていました。

磁石の北は真北ではない。地図読み講座での学びをきっかけに地磁気のことが気になっていました。

調べると磁北と経線の示す真北とのずれの角度である偏角は常に変化しており、そのため昔の地図の偏角は違っていたのです。京都の二条城が斜めに建てられているのは当時の磁北を基準にしたからだという説もあります。反対に伊能忠敬の地図が正確なのはその当時の日本がたまたま偏角がゼロに近かった時期だからとも言われています。

偏角は常に変化していたばかりか、地球では磁石の北と南が入れ替わる地磁気の逆転が何度も起きています。そして77万年前に起きた最新の地磁気逆転を示す地層が千葉県にあり、地質時代としてチバニアンが登録されたのは今年の1月のことです。

本書「地磁気逆転と『チバニアン』」では、磁石の発見からはじまり、最初は相手にされなかった地磁気逆転説が徐々に受け入れられていく過程が描かれており、さらに大陸移動説、プレートテクトニクス、日本列島の誕生の歴史に地磁気の解明がいかに重要な役割を果たしてきたかを知ることができます。

後半はチバニアン登録に至るまでの世界的な動きを描いた研究当事者の視点からの筆致に躍動感を覚えます。

一方で一緒に登録推進活動をしてきた団体との軋轢や決裂といった苦労も描かれています。その中でも印象的だったのが、著者が論文を執筆した際、共著者のこの団体のメンバーにプレートテクトニクスに関する記述の削除を要求されたというエピソードです。

このメンバーは現在では定説とされるプレートテクトニクスの概念が間違いであると考えていました。これは科学的な態度とはどういうものかを考えさせられる非常に興味深い話です。

人は学習をすることによって真実を知るのではなく、学習することによって自分の信念をより深めていく傾向があると聞いたことがありますが、日本におけるプレートテクトニクスの受容が遅れた話は有名で、こちらの記事ではイデオロギーに毒された科学として紹介されています。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57443


信念やイデオロギーと科学は決別できるのか、真に科学的な態度とはどのようなものなのか、それを理解するのは案外難しいのかも知れません。これについてはNetflixの「ビル・ナイ科学の伝道師」が大変興味深い示唆を与えてくれます。
https://www.netflix.com/title/80182411


昔は地図を片手に今自分がどこにいるのかの推測に苦労しながら野外調査をしたものですが、スマホやGPSの普及によりその点は大変楽になりました。一方で地形を把握するうえで地図を読む能力の大切さは今も失われていないと感じながら、世界の再魔術化という言葉が頭をよぎります。

本書によると過去200年ほどの間、地磁気の強さは低下し続けており、この傾向がさらに続けば、地磁気逆転に向かう可能性もあるということです。ただ地磁気がゼロになるのは1000~2000年後ということ。

とりもなおさず地球が常に定常ではないといことを改めて感じさせられました。そして科学的な態度とはいかなるものか、エビデンスが強く訴えられる今の時代こそ考えるべきテーマだと改めて思いました。

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