第6回 web版「ぼくいえ」 Miele電気クッカー、買い替えの顛末。中編
前回に引き続き。
最初にコンロがおかしくなって代理店の人を呼んで、もう打つ手はないと言われて仕方なくスクレイパーでコンロの汚れを取ってもらってから3年くらい経っていただろうか。あの当時ネットで調べた時と比べて、ウチの近くのMieleの代理店が減った気がする。なんか嫌な予感がする。ま、いいや。考えても仕方ないことは深く考えまい。
今回は買い替えを前提にせざるを得んだろうということで、まず家を建ててくれた建築会社(マキハウス/福岡市)のアフターメンテに連絡をした。代理店を通すことでちょっとでも安くならんかなという目論見だ。マキハウスに聞いてみても、事前に調べた通り、近所でMieleの商品を扱ったり修理を請け負っているのはお隣の北九州市の一軒のみだった。例のスクレイパーの人たちだ。感じもよかったし、そもそも選択肢が他にないので見積もりをお願いする。やはり買い替え以外に打つ手はないとのこと。そして、電気クッカーは現在たった一商品。本当に本当に、他に選択肢がないことが判明した。まさに崖っぷちだ。
ううむ。またこれがお高い。30万ほどだ。ちなみにこれを読んでくださってる方にはどうでもいいことかとは思いますが、うちはこないだ冷蔵庫も買い替えたばかりでそろそろテレビも危ない。やっぱ電化製品は一斉に壊れる(ついでにこの頃車も危機を迎え卒倒しそうになったが結果的にこれは事なきを得た)。
そして、ついでのように、とてもいい流れで嫌な続報が入る。検討していたコンロがウチのキッチンのサイズに合わない、というのだ。うふふ。そうか。そうなのか。そういう流れなのか。
詳しく説明すると、ウチのキッチンは完全オーダーメイドだ。シンクを含んだステンレスの一枚板を作ってもらって、それをがっちりとキッチンの壁に固定してもらっている。コンロは竣工時に取り付けたMieleの電気クッカーのサイズにくっきりと切り抜いた枠にすっぽりと入っている。そこに、新しい商品のサイズが1センチほど、微妙に入らないというのだ。
ほうほう。入らないってことはちょっと削ればいいじゃん。枠が大きすぎてガバガバで困る、ってことになるとなんかヤバイ気がするけど、それならいいじゃん。なんとなく。そういうことでしょ?
あー。そうね。それで簡単に解決したなら、ワタシはこのテーマをコラムにしてないっちゅうハナシですよ。
なお、この一連のやり取りは、一回の電話連絡で済んだわけではない。何しろ建築会社や代理店、皆一様に歯切れが悪いのだ。だからいちいち時間がかかる。そして、その時間がかかるのには理由があった。時間がかかる時はだいたい悪い話の時だ。アタシだってもうすぐ50になるっていうトシなんだからそのくらいのことはわかる。こちらがニッコリ笑って「それでいきましょう!」と言いそうな提案をどうにかできないものか、皆さんおそらくいろいろいろいろ考えてくれたんだろう。だから時間がかかる。不便だからすぐにでも買い替えたいと言って最初に連絡してから2ヶ月は経っていた。けれど散々待って出た結論は結局、楽しいものではなかった。
ステンレスを削るってめっちゃ大変なんだとさ。例え1センチでも。
まず細かい技術もいる。そして火花も出るから危険。とてもじゃないけどウチに来てもらってチョンチョンと、ってわけにはいかないのだと。そういうことで、一枚板のキッチンを外して工場に持って行って、それからそれから……。これで軽く追加で10万円。ち〜ん。
あ、あのね?
いろいろツッコミどころが満載で、ちょっとおかしくなってきたんだけどね?
まずこれ、なんだかんだで軽く40万超えてきてますけども。製品の修理保証が切れるのが10年として、そのくらいの頻度でこのくらいの額のものをそのつど買い替えないといけないわけ?
それから、今回がんばって買い替えたとして、次に買い換える時、またサイズがちがうってことになって今度は大きすぎたからどうにもなりません、キッチン自体作り変えねば、とかになったりする可能性があるわけ?てかこれ最初にMiele入れる時にこういう可能性とか説明聞いてたらもうちょっとわしら別の道歩いてた?あ、説明してもらってたのかな。忘れたよ。
どうすんだよ。
てか他になんか選択肢ないわけ?
今私たちが使っているものと同じものは存在しないわけ?世界に一個も?しかしこれはNOだった。私もネットで探したし、代理店さんももちろん探してくれた(アフターメンテ通り越して代理店さんに直接電話して聞いてたらドイツのMiele事情とかいろいろ面白い話を教えてくれてそれは面白かったけど)。
こちらが押し黙っていると、奥の手を出すように代理店から「IHもあります」と来た。えっ?ってなった。あ〜。はいはい。IHときたか。
もう子どもも大きくなって電磁波のこととか激心配せんでもよくなったし、オール電化だからガスコンロという手はもうないわけだし、ドイツ製のIHだから安心だし、なによりサイズがぴったりでステンレス工事が必要ないし、電気クッカーよりちょっと(5万くらい)安いし。ウチの鍋はIHで使えないのも結構あるけど、なんならその都度カセットコンロ出してもいいかななんて思っていた。あまりいろんなことに固執するよりフレキシブル(死語?)にやっていくのもいいんじゃないか。
IHかあ……。
まあ、いいかあ……。
なんてゆー感じで涙を拭いて、私がよろよろと現実を受け入れ始めた矢先だった。
(後編に続く)
【著者プロフィール】
川上夏子(クワズイモデザインルーム)
1974年生まれ、福岡市在住。企業向けデザイン、ブックデザイン、エディトリアルデザインからライティング、撮影、イラストなど、グラフィックデザインにまつわるいろいろを生業とする。著作に『ぼくらのいえが できるまで できてから』『小夏を探す旅』、ブックデザインに『福岡喫茶散歩』(小坂章子)など多数。
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