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第8回 いまこそ磨崖仏を巡ろう、そして彫ろう(半田カメラ)

いま、磨崖仏にハマっています。

磨崖仏とは、自然の岩壁や露岩に彫られるなどしてつくられた、動かせない仏像のこと。なぜいま磨崖仏なのか。それには新型コロナウウィルスが関係しています。コロナにより私達の生活は激変しました。仏像参拝においてもそれは同じこと。堂内にある仏像参拝は、多くの場合、人との接触がともないます。お寺の管理者は年配の方であることも多く、参拝に行きたくても、なかなか叶いません。私のように東京在住ならなおさらです。

「どうしたら人との接触を減らし、仏像参拝できるのか」私なりの答えが「いまは屋外にある仏像を拝むべし。そうだ、自然の中にある磨崖仏に会いに行こう!」でした。車で現地に行き、自然の中にある磨崖仏を拝み、また車で帰る。ほぼ人と交わることのない仏像参拝の形がここにあります。

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磨崖仏とはいかなるものか。日本で最も有名な磨崖仏は、大分県にある「国宝 臼杵石仏」だと思います。まるで桃源郷のような風景の中、狭い範囲に60余もの仏像が刻まれています。写真は臼杵石仏の顔ともいうべき古園石仏。圧倒的な数と、ひとつひとつの石仏の個性的な魅力に、ただただ感動といった感じです。

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関東で有名なのは、千葉県の鋸山日本寺にある、薬師瑠璃光如来でしょうか。岩肌に刻まれたと表現するにはあまりにも立体的で、石仏として独立したようなボリューム感。総高は31.05メートルもあり、大きさとイケメンぶりに圧倒されます。

どちらも基本的にオープンエアー。(臼杵石仏には屋根がかかっています)入口で参拝料(入山料)を納める以外は、ほとんど人と接することなく参拝可能です。コロナ禍に適していると言っていいのではないでしょうか。

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そんな中、今年に入って出会ったある磨崖仏に、私の可愛いセンサーがビビビと反応しました。福島県の天栄村というところにある羽黒山磨崖仏です。

特別大きくもありませんし、有名でもありません。おそらく、地元でも存在を知らない人は多いでしょう。田んぼ沿いの道から階段を上ったところにある、墓地の奥の岩肌に、ひっそりと刻まれている磨崖仏です。この磨崖仏までの道のりで、誰かとすれ違うことはありませんでした。ただひとり静かに手を合わせ、穏やかに仏像を鑑賞することができました。

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横一列にずらりと並んだ十三の仏たち。向かって右から不動明王、釈迦如来、文殊菩薩、普賢菩薩、地蔵菩薩、弥勒菩薩、薬師如来、観音菩薩、勢至菩薩、阿弥陀如来、阿しゅく如来、大日如来、虚空蔵菩薩。江戸時代にふたつのお寺の檀家が合同で、先祖供養のため彫刻したものと伝えられます。

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この並んだ姿がとにかく可愛らしい。三等身ほどの仏たちは長年の風雨で角が削られ、よりいっそう可愛らしさを増しているように感じられます。年月を経てキツさがなくなり穏やかになった人のように、とても優しい表情に見えました。こんなのんびりした田んぼ脇の岩肌に、こんなに可愛い仏さまの集団が隠れているだなんて。

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ふと「こんなキャラクターグッズがあったらいいのにな」と思いました。そして、また勝手につくってしまったのです。

はじめに思い浮かんだのは、ペンケースです。蓋部分に仏像が刻まれていたら楽しいな、と思いました。そのうち、それもいいけど、ペン立てはどうだろう。いや、花をいけたら磨崖仏がお部屋にあるみたいじゃないかな。と、発想は転がっていきます。

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百均でアクリルケースを購入。粘土をつけてベースが完成。この一面に仏さまを彫っていくことにしました。一面に入れられるのは五仏が限界。十三仏は入りません。表面、裏面、両側面と四面を使い、ソーシャルディスタンス無視のぎゅうぎゅうな配置にすれば、十三仏入れられなくもない。でも、粘土なので、彫っているうちに端から硬くなっていきます。

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いろいろ考えた末、今回は表面に五仏のみ彫ることにしました。本来は並びにも意味があるので、あまりよろしくないのですが、十三仏の中から五仏を選び、彫っていきます。そして完成した「マイ磨崖仏」はなかなか可愛らしい仕上がり。

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右から、不動明王、釈迦如来、普賢菩薩、地蔵菩薩、弥勒菩薩のつもりです。ですがこれでは木に刻まれたようで、石に刻まれた磨崖仏には見えません。Twitterにこの写真を上げると「人形焼きっぽい」という感想を4件もいただきました。美味しそうなのはいい。このままでも可愛い。でも、あくまで私は石仏、磨崖仏をつくりたいんだ(粘土だけど)!やはり石化しよう!

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ということで、ストーン加工用のスプレーを用意。吹きかけて、粘土を石化。その上からアクリル絵具でムラを描き、さらにスプレーを噴射。ベランダでの作業中に雨に降られるなどしながら出来上がったのが、こちら!

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「磨崖仏フラワーベース」我ながら可愛く仕上がったと思います。

日本には数えきれないほどの磨崖仏が存在しています。「そこに岩肌があれば、人は仏を彫りたくなる生き物である」数々の磨崖仏を観てきた私の感想です。それらはごく普通の農道の脇に潜んでいたり、山奥の崖に刻まれていたり、様々な場所に身を隠しながら、風雨で少しずつ丸みを増しています。そんな優しい磨崖仏たちに会いに行ってみてはいかがでしょう。コロナ禍にはこんな仏像参拝が適しているのではないでしょうか。

今回はあまり巨大ではありませんでしたが、また次の「巨なるもの」でお会いしましょう。

半田カメラ
大仏写真家。フリーカメラマンとして雑誌やWeb撮影の傍ら、大好きな大仏さまを求め西へ東へ。現在まで300尊をこえる大仏さまを撮影。「巨」なるものが好き。穴も好き。『夢みる巨大仏 東日本の大仏たち』『遥かな巨大仏 西日本の大仏たち』(書肆侃侃房)が発売中!

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