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第1回 web版「ぼくいえ」はじめます!

書影ぼくいえ新装版帯

29歳で一軒家をおっ立てて早18年。

つい先日、『「ななつ星」九州をゆく 日本初のクルーズトレイン7年の軌跡』(一志治夫/小学館文庫)という本を読みまして。水戸岡鋭治さんとJR九州代表取締役会長・唐池恒二さんが「ななつ星」を作る話です。で、ああ、いえづくりも同じだなと勝手にざっくり共感しまして。いや、その大変さがね。日本を代表する職人さんや工場とタッグを組んで何もないところから新しい「クルマ」を作り出すその苦労と快感と達成感。ああ。いえづくりですよ、これ。おんなじです。規模はちがえど、メンタルはおんなじです。

あれ?大きく出たね、という声が聞こえてきましたが。夫婦で一つの家を建てるって本当に本当に本当に大変なんですよ。ほら、結婚式とか披露宴だってそうでしょう。決めることが多すぎて婚約者と別れる寸前までいった、とか言うじゃないですか。いえづくりとゆーのはね、その何倍ものお金をかけてね、しかも一生かかって返すくらい借金してぶちかます人生の一大イベントなのです。そして、結婚式とちがうのは、できあがってそれで終わらないってこと。家はずっと住むもの、形あるもの、残るものなんです。もっと言えば、日々使っていくものなんですよ!!!大袈裟でもなんでもないんですよ!!!

かっこよければいいのか?
便利ならいいのか?
丈夫ならいいのか?
広ければいいのか?
みんなやってるならいいのか?

安ければいいのか?
高ければいいのか?

有名なデザイナーならいいのか?
有名な工務店ならいいのか?

否!

いえづくりにおいて、「〜〜ならまちがいない」という項目は一つもないのです。

なぜなら、まず予算。「家を建てるならこうありたい」という夢、理想。それからなぜか立ちはだかる「こういうものはこうあるべき」みたいな世間体、常識。「それは……難しいですね!」という建築士の非情な一言。はたまた突然現れる大きなお世話・無責任な外野(親とか親とか)の声(「収納これで大丈夫〜?」)。

そして、意外と一番厄介なのが夫婦間の「アイダ」なのです。家を構成するすべてにおいて、最低でも夫と妻二人の意見の「アイダ」をとっていかなければならないのです。家を構成するすべてにおいて、一つひとつ、ですよ。二人の、ちがう人間の、「アイダ」をとる。相方の希望を理解し、自分の希望と照らし合わせて落ち着き先を見つける。これがどれだけ大変なことか想像してみてください。オエップだ。

先日、寝室で布団を敷いていたときの話。うちでは何もない6畳間の和室に毎日3人分の布団を敷いて寝ている。もちろん朝起きたら布団はあげる。息子の成長に伴い布団のレイアウトをちょっと変えてしばらく経った頃のことだ。珪藻土の壁に布団が触れるところがあって、夫が小さい声で何か言っている。「布団が壁にあたっているところが壁に影響を与える……」。え?今なんて言った?どういうこと?布団が壁に当たり続けることで?壁がどうにかなるってこと?

えなに?うちの寝室は鍾乳洞なの???

口絵寝室

ああ。思い出した。私はこの人といっしょにいえづくりをしたのだ。

何が言いたいかというとですね、いくらお互いを生涯の伴侶として求め合い一緒になったとしても、ある日突然理解に苦しむようなことを言い出すのが夫であり、また妻であるわけです。そんでもってそれっていえづくりの最中に起こり続ける結構な日常茶飯事なのです。これは本当に大変ですよ。こんな人とよく私はアイダをとってきたものですな。フォッフォッフォ。自分にアッパレじゃ。

さて、そんな一大事を乗り越え、できあがった家。私と夫が下した無数の判断は果たして正しかったのか。その後どうなったのか。気になりませんか。気になりますよねぇ。てか私はいえづくりやってるとき、いつもそのことを気にかけていました。本を読んだりネットで検索したり経験者を探して話を聞いたり設計士に詰め寄ったり(これがほとんど)。でもそれがなかなかね。納得して踏み出せるような答えはないんですよ。だからまあ、最終的には答えがなくてもエイやっと目をつぶって踏み出すしかなかった。清水の舞台なんていくつ飛び降りたかなあ(遠い目)。そこで私はうちの話が誰かの答えになればと思い、いえづくりのその後、私にとっての答え、そんなことを書き連ねたものを『ぼくらのいえができるまで できてから』(2016年/書肆侃侃房)として発刊いたしました。そこにはいえづくりの前段階、土地探しから、後日談としての引っ越し、全工程に絡むお金の出入り、そして10年後のぼくらのいえの変遷について開陳しています。

ここでは、さらにその後、というかこの家が朽ちるまで永遠に続く後日談をつれづれ書き連ねます。家を建てようと思っている人ならとりあえず必読。

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『ぼくらのいえが できるまで できてから』

……あの「ぼくいえ」が帰ってきた!

こだわりの家作りも超リアルなお金のあれこれも執念の壁塗りも、完全公開して話題になった施主による施主のためのバイブル『ぼくらのいえができるまで』から10年。畑の果樹も多くの実をつけ、新しい家族が増えた。
イラスト満載のページに加え、カラーページを増量して10年後の「ぼくいえ」の変遷と美味しい写真もてんこ盛りです!

【著者プロフィール】
川上夏子(クワズイモデザインルーム)
1974年生まれ、福岡市在住。企業向けデザイン、ブックデザイン、エディトリアルデザインからライティング、撮影、イラストなど、グラフィックデザインにまつわるいろいろを生業とする。著作に『ぼくらのいえが できるまで できてから』『小夏を探す旅』、ブックデザインに『福岡喫茶散歩』(小坂章子)など多数。

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