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【試し読み】加藤就一『ごめんなさい、ずっと嘘をついてきました。―福島第一原発 ほか原発一同』Part2

0211原発書影

東日本大震災から10年。本書は、福島第一原発が「私」という一人称で読者に語りかけてくるノンフィクション小説です。

本書からの一部抜粋を、2週にわたって連載していきます(第一回:3月2日、第二回:3月4日、第三回:3月9日、第四回:3月11日)。

今回(第二回)は、「十二個目のごめんなさい 大切な廃炉の話を聴いてください」より抜粋しました。

~以下、試し読み~

いちばん大変な廃炉は爆発した私たち福島第一

 だけど東電にとっていちばん問題なのは、爆発を起こしたりメルトダウンしてしまった私たちの廃炉の方が、壊れていない原発の廃炉より断然大変だってこと。大変なんて言葉ではすみません。原発6基のうち4基が事故。うち3基が爆発しメルトダウン。そういった廃炉は人類にとって初めての経験。ここでクイズ。問題! メルトダウンして融け落ちた核燃料を「デブリ」と言いますが、3基合わせてどれくらいの重量でしょう? 想像つかないでしょうね。正解は……私たち3基で880トン。放射線量が極めて高いので今のところ遠隔操縦のマジックハンドでデブリにノックする程度しかできてない。デブリを動かせるか触ってみたら動かせるものも少しはあったけど、大部分は一度超高温で融け落ちて、それが冷えて固まっているわけでしょ。固まって数百トン規模の大きな塊になっているとしたら、割って取り出すのか? もし割れても取り出せるのか? それをどこに運んで処分するのか? そんなマニュアルは地球のどこを探してもないのです。世界初のメルトダウンを経験したスリーマイル島原発から学べばいいって? 確かに、スリーマイルでもデブリの取り出しは行われたわ。でも残念、量がごくわずかだった。私たちのは、人類が経験したことのない880トン。塊の内側がどうなっているかも全くわからない。難題山積みの作業、いや苦行となるでしょう。東電がいろいろ決めてあった廃炉のスケジュール。もうすでにそのいくつもの項目が年単位で遅れてる。つい最近も2号機の格納容器の蓋の上が超ヒドく汚染されているとわかったの。実に4京ベクレル、10シーベルト超。人が1時間近くにいると死ぬ。あーあ、廃炉の作戦を根本から考え直さないといけなくなっちゃいましたよ。

熟練の人がどんどん被ばく、線量オーバーでいなくなってしまう

 デブリを取り出すにしろ、私たちを廃炉するにしろ、大切なのはそれを担う「人」。私の格納容器が破裂しそうになったあの日、ベントする弁がリモートで動かなかった。そのとき、私を熟知するベテランが決死隊として高線量の中に突入し、手動で弁をあけてくれたので破裂は免れた。でも彼らは累積の線量オーバーで私のもとを去ったのです。それから10年、長く頑張ってくれたベテランたちも累積線量オーバーで現場からどんどんいなくなってしまった。代わりの人は次々に補充されるのだけれど、入ってくるのは下請けのまた下請け。原子力発電に縁もゆかりもないズブの素人だらけ。日本語もままならない外国人もたくさん送り込まれてくる。だから廃炉作業員の質が保てないの。年前に大爆発したチェルノブイリ原発では廃炉のための「技術者養成学校」を近くに作っていた。被ばくしない知識、廃炉のさまざまな技術を覚えさせ、試験に通った質のいい作業員を大量に送り込み続けられるわけ。しかも危険な作業に見合うお給料を払っている。事故の後、必要に迫られて養成システムを作り上げたというわけ。だけど日本には事故から10年が過ぎようとしても、そういう学校を作る素振りさえない。数年で終わるのならごまかしごまかしで済むかもしれない。けれどメルトダウンした原発の廃炉作業は何十年、下手すりゃ100年かかります。そこ、どうするんですか?

私は原発、学校で教えてあげてほしい!(その⑰)

 壊れていない原発だって廃炉にするのは大変だ、ということ。だって長年使ってきたのでいろんなエリアがヒドく放射能で汚染されているからです。汚染がヒドいところの修理は何人もが順番に走っていって数秒ごとに交代しなければならなかったこと。原発の廃炉にかかる費用は1基5000億円と言われてるけれど、それにはこの先十万年も管理しないといけない使用済み核燃料を処理・管理する費用は入っていないこと。お金も莫大にかかる、時間も莫大にかかる。気の遠くなる長い年月をかけないと廃炉は終わらない。
 そして、私たち爆発した原発の廃炉は、普通の廃炉とは比較にならないほどもっともっとお金も時間もかかって、学校のみんなが全員死んだ後も終わってないかもしれないこと。みんな、頭に叩き込んでおいて。


次回の配信は3月9日の予定です。


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