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【大きいことはいいことだ!】第10回 鬼コに支えられたい(半田カメラ)

「鬼は外、福は内」と、節分で外に追い出される存在であるように、一般的に『鬼』には怖くて悪さをする者、というイメージがあります。ところが青森県の津軽地方における鬼は、厳しさと優しさを合わせ持つとされ、「災いを払ってくれる神のような存在」として人々から大切にされています。津軽では「福は内、鬼も内」なのです。

津軽地方の神社を参拝すると、鳥居の上に鬼が座っているのを見かけます。これらの多くは鳥居の2本の横柱の間に、柱を支えるように座っています。これが『鬼コ』です。鳥居に座る『鬼コ』はまさに、鬼が神に近い存在であるということを表していると言えるでしょう。

こちらが私が初めて出会った鬼コです。両肩で鳥居を支えながら、災いが集落に入り込まないよう睨みをきかせている……とされる『鬼コ』ですが、この鬼コは全く睨みをきかせているように見えません。このユル可愛らしさは私の中の『鬼』という概念を覆しました。そして、後ろ姿のお尻のキュートさときたら、もう!

この出会いをきっかけに『鬼コ』の可愛さにすっかりやられた私が、津軽地域の神社を複数まわることになったのは、至極当然の成り行きでした。

いくつかの鬼コをみてまわって分かったのは、神社によって色も、表情もポーズも様々。実に個性的だということです。色に関して言えば、鳥居と同じ赤色の鬼コが多いのですが、中には水色だったり、緑色の鬼コもあります。

表情もポーズも様々ですが、多くはしゃがんで柱を支える姿勢であることから、お尻を突き出すポーズがよくみられます。そしてもれなく後ろにまわると、お尻がめちゃめちゃ可愛い。身につけているのも、ふんどしや柄付きのパンツ、懐かしのハイレグなどなど……バラエティ豊富で目を惹きます。

私がこの時まわったのはほんの一部で、津軽独特の『鳥居の鬼コ』は40体以上あると言われています。鬼の姿以外にも、力士の姿をしたものもあって、どれもユニークなものばかり。またいつか探しに行きたいと思っています。

この時以降、すっかり鬼コのファンになってしまった私。そうなると自然と情報が入って来るものです。そのうち『鬼コカード』なるご当地レアカードがあることを知ります。さらに『鬼コフィギュア』をつくっている地元の方がいらっしゃることも分かりました。確かに、これだけ可愛いのですから人々が放っておくはずがありません。

ただ、ここで私は思いました。鬼コカードを集めたり、鬼コフィギュアを飾りたいと思うのは必然。でも本来の鬼コって鳥居の柱を支えたり、災いから村を守ったりするものなんだから、鬼コとしての存在理由みたいなものがあったら、より素敵なんではないか、と。

例えば『家具と天井の隙間を支え、住人の安全を守る鬼コ』だとか。そんなの素敵だし、鬼コに我が家を守ってもらいたい!って思うじゃないですか。なのでつくってみることにしました。題して『支える鬼コぐるみ』です。

素材として選んだのは羊毛フェルト。羊毛フェルトとは羊毛を特殊な針で刺し、いろいろな形を成形していくもので、立体を自由につくるのに向いています。チクチク刺して、付けて、また刺して……と繰り返すこと、約1日。出来上がった『支える鬼コぐるみ』がこちら。

我ながら、めっちゃ可愛い。

ただしかし、本来の目的であった『家具と天井の隙間を支える』という役割をお願いしてみると……

なんだか、暗闇でキラーンと緑の瞳が輝いている感じで、何者なのかよく見えず。せっかく可愛いのに、なんだかよく見えないのが悲しい。しかも家具転倒防止という用途に使用するには柔らかく、あまり意味を成さない。「可愛さ」も「機能」もどちらとも中途半端な感じになってしまいました。

ならば枠を付けてみてはどうか。4つの木材をホームセンターで買って来て、それらを釘で留め、正方形に形成。この正方形の木枠を赤く塗装しました。そして木枠に鬼コぐるみをセット。

これなら「額に納まった可愛い作品」でもあるし、家具と天井との隙間に入れるにしても、強度は増したのではないでしょうか。(もちろん、転倒防止金具などは追加して付けた方が良いけども)何より、鬼コが支えてくれてる、災いから守ってくれてる感があるじゃないですか。これにテンションが上がるのは私だけではないと思います。

津軽平野にたくさんの神社があるのは、神社が北国の厳しい環境で暮らす人々の心の支えとなっていたから。鬼コのはじまりは明治初期と比較的近年であるものの、この可愛らしい鬼が人々に笑顔をもたらしていたことは容易に想像できます。鬼コぐるみに我が家を支えてもらいたいし、鬼コから笑顔をもらいたいと思います。

私が好きな「大きなものを小さくつくる」をテーマに書いてきた、このコラム『大きいことはいいことだ!』は全10回、今回を持って終了となります。最後の主役の鬼コはさほど大きくなく、テーマからやや逸れてしまいましたが、可愛くできたので個人的には満足です。

こんな気まぐれなコラムをこれまで読んでくださった皆さま、ありがとうございました。これからも旅したり、何かを書いたり、つくったりしていくと思います。きっと、またどこかでお会いしましょう。

半田カメラ
大仏写真家。フリーカメラマンとして雑誌やWeb撮影の傍ら、大好きな大仏さまを求め西へ東へ。現在まで300尊をこえる大仏さまを撮影。「巨」なるものが好き。穴も好き。『夢みる巨大仏 東日本の大仏たち』『遥かな巨大仏 西日本の大仏たち』(書肆侃侃房)が発売中!


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