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「はじめて張り倒された夜」〜DVなんて関係ないと思ってたマスカットの話〜


一瞬、何が起きたのかわからなかった。
さっきまで夫と歩いていた私は、真夜中の車道に倒れていた。
ふと見たら皮がむけた手のひらから、血がにじみ出ている。
あ、夫に張り倒されたんだな。と思った。


時を戻そう。

元夫とは出会ってすぐさま恋に落ち、あっという間にプロポーズされた。
大学卒業直後の私と、すでに起業していたは彼はともに23歳。
交際期間約1年で結婚。

結婚願望なんて全くなかったけど、
この人しかいないと思ったし(誤)
この人となら一生幸せに暮らせると思った(誤)


張り倒されたのは、結婚してから数ヶ月目の、ど新婚だった。

その日、義理の父と母から
「行きつけのスナックに一緒に行こう」と誘われた。
お店の人にも嫁を紹介しようということだろうと思ったので、
私も喜んで誘いに応じた。

しかしながら、時間が経ち酒の量が増えていくにしたがって、
義理の両親と夫のテンションについていけなくなった。
私があまりお酒を飲めないせいもあり、
繰り返される話や大声で騒ぐ雰囲気に正直ドン引きしていた。

若かった私は、いい年をした大人が大騒ぎする様子を見たことがなかったのだ。
この人たちとうまくやっていけるのだろうか……。

飲んでる人はいいけど、私の心身はキスチョコと柿ピーだけでは飢餓状態。
「実家のお母さんとお父さんは今頃なにしてるのかなぁ」
今思えば、ホームシックだったのかもしれない。
ひどく気持ちが落ち込んだ。

夜中の12時を過ぎ、たぶん私は帰りたいと夫に言ったのだろう。
義理の両親はまだ飲み続けると言うので、私は彼と2人で店を出た。

帰宅途中、私は弱音を吐いた。
「なんだかちょっとさみしくなっちゃった」と。
かまってちゃんモード。
夫からの言葉を期待していた。

「気がつかなくてごめんね」と。
しかし、結果は車道にごろん、だw
車が来ていたら、間違いなく轢かれていた。


そこからどうやって家に帰ったのか、記憶がない。
夫と一緒に帰った気もするし、夫だけどこかに行ってしまった気もする。
はっきりと覚えているのは、
後にも先にもこの件について夫から謝罪はなかったことだ。

私はショックが大き過ぎて翌日彼がシラフに戻ってからも、
この件について話をすることを避けた。
飲み過ぎて覚えていないかもしれない、とも思った。

「殴ったね!親父にもぶたれたことないのに!」
とでも、言えたらよかったんだけど。

夫に言わせれば、
「楽しい宴の席を楽しくもない顔して過ごした挙句、
帰りたいとか言い出して、さらに愚痴まで言いやがって」

ということだったのかもしれない。

私は彼の気持ちを想像し、沈黙し、反省した。
今なら思う。
百歩譲って、だとしても、張り倒されていい理由にはならない。


今思えば、私の人生の分岐点の1つだった。
ここで引き返すべきだった。
でも引き返せなかった。
彼のことが好きで離れたくなかったし、両親を悲しませたくもなかった。
結婚して即離婚なんて、とも思った。


DVの一撃目は難しい。

たぶん少なくない人数の女性が、
一度で見切りをつけることができないんじゃないだろうか。

ものの弾み、酔った勢い、ケンカの延長。
つまり私たちの素晴らしい関係を終わらせるほどのことじゃないと思ってしまうんじゃないだろうか。
そしてDVの継続的被害者の全員が、一撃目で見切りをつけられなかった女性だ。

DVは肉体的な暴力だけじゃない。
言葉によって傷つけられたり、拘束されたりすることもまた精神的DVだ。
「殴られたわけじゃないからいいかな?」と思っている人もいるかもしれない。
精神的なことでもDVの一撃目なんだという事実から、目を逸らさないでほしい。


自分もできなかったことを、人にやれとは言えない。
一撃目で別れる決断ができないことは、痛いほどよくわかる。

でも、出来ることなら冷静に考えて欲しい。
あなたが傷つけられていい理由なんてどこにもない。

もう傷つけられてしまったら、次のことを考えて欲しい。
もし、また同じことがあったら?
もし、行動がエスカレートしたら?

ここまでやられたら絶対に別れるというラインを、
1つ設定してみませんか?

まだ頭がクリアなうちに、
未来の自分を救う指針をたてて欲しい。
やられたことがない人なら、
一撃目で引き返すことも出来るかもしれない。

ゼクシィの付録にはマジでつけて欲しい。
「花嫁チェックシート! 結婚した後、なにされたら別れる?」
めっちゃ花柄のやつ頼む。

そしてみんなちゃんと引き返して欲しい。
そのあとに、いくらだって男はいるよ。
いや、いなかったとしても、
そいつといるよりずっとずっと幸せになれるよ。


私はグダクダした挙句、その夜から数年後に1つの設定をした。
「子どもに暴力を振るったら別れる」
これだけは死守しようと思った。

呆れるほど最低限のラインだ。
頭がおかしくなってからのライン設定は、崖っぷちレベルになってしまう。
でも、その場合は、だからこそ絶対に超えさせちゃいけないと思った。
あなたにも、死守して欲しいと切に願う。
子どもにあなたと同じ怖い思いをさせちゃいけない。絶対に。


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4月20日に新たに設けられた「DV相談+」です。
電話以外にメールやSNSでも相談を受け付けています。


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