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ルポ・コロナ陽性

12月2日午後7時45分

ここはコロナの宿泊療養施設(東京都新宿区)。午後6時半。「ピンポーン」というアナウンスとともに、夕食を取りに行く時間。ここは16階なので、8階まで取りに行く。ぞろぞろとほかの部屋の人も取りに行ってる。

 あんまりエレベーターで混みたくないので、ちょっと待ってから空いているエレベーターに乗る。エレベーターの中では誰も話さない。お互いコロナだし。危険極まりない。いや、いっそお互いコロナだから関係ないのか。とはいえ何も知らない同士だから、話すこともないのだけど。

 8階でごみを捨てる。空になった弁当箱と、ペットボトルを捨てる。シュッと手にアルコールを吹きかけて、除菌する。ほかの人もそうしているからそうする。「いや、自分がコロナなんですけど…」と思う。

 今日は和風ハンバーグだ。ちょっとうれしい。1分間チンする。冷たいごはんにはもう飽きたのだ。

 和風ハンバーグは小さいのが2個入っていた。「大きいのが一個がいいなあ」と思った。仕方ない。さっき電子レンジで待っているときにほかに温めている人がいてそれを見ていたら、カレーっぽいのを持っていた。いいなあ。差し入れしてもらったのだろうか。うらやましい。僕も誰かに差し入れを頼むか。いや、そんなことで東京にいる友達を呼ぶのもなあ、と思う。友達か家族なら差し入れ可能で、アマゾンとかウーバーとかはだめだ。せめて家族がいればなあと思う。

 朝にもらっておいたインスタントの味噌汁を飲む。しじみだしが効いていて、おいしい。なんだか、やっと人間らしい食事をした気がする。

 これがあと何日続くのだろう。少なくともあと5日。気が遠くなりそうだ。2日目にしてすでに飽きてきた。からだはけっこうましというか、ほぼ無症状に近くなってきた。昨日までは喉が痛かったけど、痛みはとれた。鼻詰まりがあるくらい。

 あと5日。何をやって過ごそう。でも、このホテルの部屋にいるだけでけっこう疲れる。外に出れない圧迫感というのか。監禁されている感覚というのか。無理に外に出ようとしたら出れるのかもしれないけれど、そういう気はまったく起きない。たぶん警備員か看護師かスタッフか分からないけど、誰かに止められると思う。

 自分の意志というものが、だんだんなくなってくる。この療養施設の存在理由は、健康管理のみ。僕がここに来たのも、ただひたすら、健康を管理し、コロナを治すためだ。それ以外の目的はない。健康管理だけを目的にした施設。息が詰まる。まあ、無料でここに入れているだけで感謝しろ、ということなのかもしれないが。

 小池百合子からの手紙には「協力に感謝いたします」とあった。そう、協力しているのだ、感染拡大防止のために。そう思わないとやってられない。ただ、自分のコロナを治すためだけなら、ちょっとここは耐えられない。社会のために耐えているのだ、と自分を鼓舞しないと、この閉鎖空間には耐えられない。それくらい息が詰まる。あと5日。果たしてどうなるのだろうか。

12月3日午前7時34分

 もう、ご飯の時間をただ待ってる奴隷になってきたな。それだけが楽しみ。その時にしか外に出られへんから。アナウンスをひたすら待つだけ。まだかな、ご飯。

12月3日午前7時36分

動物の気持ち。飼育されている動物の気持ち。羊。ご飯を求めてぞろぞろとエレベーターに乗り込む人たちは、まるでエサを求めてやってくる羊のよう。羊の群れ。まさに牧人型権力。牧人が羊を飼いならすように、飼いならされています。羊は自分の意志など持たない。意志なんてものはどんどん消えていく。ただご飯を待つのみだ。

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