【音盤紹介 vol. 7】 Günter Müller, Jim O'Rourke / Slow Motion (1994)
Günter Müller: Drums, Electronics
Jim O'Rourke: Guitar
集められるデータを、時には一度捨ててみる
Jim O'RourkeとGünter Müller、今となっては大物2人の共演盤で、For 4 Ears初期、1994年の作品である。
この作品、上記の情報だけで勝手に期待して中身を判断してしまっている人が多いのではないだろうか。
Jim O'Rourkeの方へは、Günter Müllerも参加しているGastr Del Solの大傑作"Upgrade & Afterlife"への布石を見出そうとするかもしれないし、"Remove The Need"のようなテーブルトップギターによるドローンの延長線上を期待するかもしれない。Günter Müllerの方は、Nachtluftが示したポストインダストリアルから、Keith RoweやJason Kahnらとの電子音響即興の間、過渡期としてとらえるかもしれない。
人物、年代、文脈などからすると間違っていないのかもしれないが、その聞き方では、この音盤の大事な部分がこぼれ落ちてしまう。
聞きたい音の渇望と、演奏行為そのものへ欲求
これは、『音を聞くこと』と『演奏すること』が絶妙な距離感で存在している、純粋な即興演奏なのだ。
ヨーロッパフリーなどの即興演奏は、既存の演奏方法から離れたり、その楽器からは想像もつかないような音を出してみたりと、とかく楽器を演奏するという行為から逸脱しようとするものが多い。
演奏よりも音そのものへの興味が優先される。
この音盤も、プリペアドされたテーブルトップギター、シンプルなアンプリファイがされたドラム(ただ単にシンバルに当てるだけ、のようなプリミティブなコンタクトマイクの使い方が良い)など、音響の拡張はなされてはいるものの、エレクトリックギターの弦の音、スネアやシンバルなどの所謂ドラムセットの音など、それぞれの楽器を演奏しているということを確実に意識できる音が鳴らされている。
脱〜、ポスト〜を意識するあまり、禁止行為が増え続ける息苦しい即興演奏(フリーとは程遠い)はここにはない。
ここにあるのは、演奏する喜び・楽しさと、音そのものへの執着、その両方だ(ただし、音が明るいわけでは決してない)。
ライブは好きじゃない、家でレコードを聞くべき、と言ってしまうJim O'Rourkeの、プレイヤーとしての側面が強く感じられる珍しい音源であると思う。
総評
日本語情報レア度★☆☆・・・大物にしては少ない、あってもサラッと
必聴度★★★・・・Jim O'Rourkeのギターによる即興演奏がたっぷり聞ける
入手困難度★☆☆・・・初期のFor 4 Earsは見かけたら買い、珍しいけど高くない
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?