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インタビュー③ 二つの短編と『フライ、ダディ、フライ』について

――ゾンビーズ・シリーズの他の作品についても伺います。『レヴォリューションNo.3』に入っている『ラン、ボーイズ、ラン』と『異教徒たちの踊り』の二つの短編について執筆の経緯などを教えてください。

『ラン、ボーイズ、ラン』は短編集の出版を目指してデビューしてすぐに書きました。タイトルはシェリル・クロウの『ラン・ベイビー・ラン』から発想しました。好きな曲だったので。『小説現代』という小説誌に掲載されましたが、発表当時はまったくなんの反応も反響もありませんでした(笑)。『異教徒たちの踊り』はようやく短編集を出せることになり、書き下ろしたものです。タイトルはジャズの名曲からいただきました。

――短編集の反響はいかがでしたか。

ありがたいことに、たくさんの反響をいただきました。ちなみに、東京で何度かサイン会をやらせてもらったんですが、来てくれた読者の8割が若い男の子でした(笑)。高校卒業後に調理師を目指している男の子がフライパンを持ってきて、ここにサインしてくれ、と頼まれたり(笑)。本当はダメなんですが、書店員も笑って許していました。そういった反響に接したお陰で、僕の思っている以上にゾンビーズが支持されていることを知り、シリーズ化を志すきっかけになりました。

――シリーズ初長編である『フライ、ダディ、フライ』はどのような経緯で書かれた作品ですか。

詳しくは映像作品に関するインタビューで話そうと思いますが、元々は映像企画として考えたストーリーでした。『ベスト・キッド』という映画が好きで、あの師弟関係の逆をやったらどうなるだろう、という発想から考えました。映画プロデューサーの黒澤満さん(=映画『GO』のプロデューサー)に企画を持ち込むと、脚本を読ませてくれ、と言われ、小説より先に脚本を書くことになりました。

――それが初めての脚本執筆ということですか。

大学時代に発表予定のない脚本らしきものを書いたことはありましたが、本格的に書いたのは初めてでした。

――執筆は順調にいきましたか。

はい、質はさておき、一気に書くことができました。僕は小説や脚本を書く時、頭の中でストーリーを映像化したあとに文章に起こすので、頭の中に映像作品が完成してさえすればあっという間に書けるんです。特に『フライ、ダディ、フライ』の映像イメージは鮮烈に頭の中にあったので、初稿は熱に浮かされたように書きました。書いている間は本当に楽しかったです。

――その脚本が採用されたわけですね。

今から考えたらひどく稚拙な脚本だったと思うんですが、黒澤さんは読んですぐに映像化に向けて動いてくださいました。その後制作が進んだり停滞したりの繰り返しがあって、その間に小説版を出そうということになり、脚本を自分でノベライズしたんです。

――ちなみに、金城さんにとって小説と脚本の違いは端的に言うとどんなものですか。

小説は書いている間が大変。脚本は書き終わったあとが大変。

――『フライ、ダディ、フライ』は金城さんにとってどのような意味を持つ作品ですか。

映像業界という異業種に本格的に関わったことで、本当に多くのことを学びました。特に、“物語り”に関して改めて勉強し直すきっかけになったことが大きいです。特にストーリーの構造について深く考えるようになりました。脚本を書き、色々なダメ出しを受けたお陰です。映像業界に飛び込むことはリスクもありましたが、思い切ってジャンプをして良かったと思っています。『フライ、ダディ、フライ』は人との出会いも含めて多くのものを僕に与えてくれた作品でした。

                                (つづく)

                         インタビュアー:兼城和樹

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