見出し画像

キャデラックハウス アット ヴァンダービルドでのセレスティックのビスポーク体験

 すでにアメリカで受注が始まっているキャデラックの高級EV「セレスティック」は、顧客の好みに応じて内外装を“ビスポーク”することができます。デザイナーやコンシェルジュと語り合いながら(be spoken)、素材や見本などを手に取って見較べて自分だけの1台の仕様を決めていくことができます。

 オンラインでも可能ですが、世界中で1か所だけそれにピッタリの場所が用意されています。アメリカ・ミシガン州ウォーレンにあるゼネラルモータースのグローバルテクニカルセンターにあるキャデラックハウス アット ヴァンダービルドです。

 建築家のエーロ・サーリネンによる建物は1955年のアメリカ建築家協会(AIA)から栄誉賞を受賞したミッドセンチュリーデザインの傑作です。

 ヴァンダービルドというのは、1955年にGMデザインに入社した女性デザイナー、スザンヌ・ヴァンダービルドのことです。

 セレスティックをビスポークするのに、ここ以上に適したところはないでしょう。


キャデラックハウス アット ヴァンダービルド
キャデラック・セレスティックの内装

 ビスポークは、戦前の高級車が内外装だけでなくボディの造形から顧客の好み通りに誂えていたことから始まっています。馬車時代から伝承されている高級車の流儀ですね。

 戦後はモノコックボディ構造に変わったので、ボディの造形まで誂えることは難しくなりましたが、内外装を好みに仕立てることは行われています。大量生産、大量販売へのアンチもどこかにあるような気もします。

 イギリスのクルーにあるベントレーの工場のビスポーク部門を取材したことがあります。コンチネンタルGTでも標準色が104色も用意されているボディカラー以外の色も用意されているのに驚かされましたが、そこに見本のない色でも「対応させていただく」とスタッフが自信たっぷりに答えていたのを憶えています。

 内装に使うウッド材も薄く削がれた畳一畳大の見本がズラリと吊り下げられていて、「この木目を真ん中にして」と見本ではなく実物のウッド材の部分々々を指定して注文することも可能だと聞かされ、さらに驚かされました。

 シートやドア内張の革の種類と色、ステッチの種類や色なども指定できます。あらゆることが注文されても備えられていました。

「ヨーロッパでベントレーを新車で購入する人の8割は、ここまでやって来てじっくりと決めていきます」

 顧客は泊まり掛けになるので、ベントレーは高級ホテルを斡旋していました。

 ランボルギーニが数年前に六本木に建てたショールーム兼デザインスタジオでも、同様のビスポークを行っています。

 ランドローバーも専用施設こそありませんが、装備や素材、色などを細く指定して日本から注文することができます。

 心から欲しいクルマを買うのならば、自分好みに仕立てたいですね。ビスポークは、クルマ好きの特別な体験になることは間違いありません。

 あらかじめ最大公約数的な仕様で発注され、大量に輸入されたものの中から購入すれば納車までの期間は短くなりますが、それじゃつまらないですよね?

 こうしたビスポークへの回帰の傾向は高級車ならば必然の流れでしょうし、デジタルとインターネットを活用すれば大量生産される普通のクルマでも対応が可能になってきているのです。

 そろそろ、「Aというオプションを注文するには、一緒にBとCも注文しなければならない」といったような、昔から慣習として続けられている造る側と売る側の都合だけが優先された注文方法も改められる時期に来ているでしょう。

 5年前に、フォルクスワーゲンのウォルフスブルク本社工場を取材した時には、すでにドイツとオーストリアからの注文では1台ずつ顧客の好み通りに仕立て上げたファイルをインターネット経由で工場に送るシステムが実行されていました。

 ビスポークの考え方とそのメリットは、なにも高級車だけに限られているわけではなく、すべての顧客の満足度を劇的に向上させることができるのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?